Godzilla


ゴジラ  (2014年5月)

1998年に次いでハリウッドで二度目の映画化になることを見てもわかる通り、ゴジラはアメリカでも人気が高い。ただし前回のローランド・エメリッヒによる最初のハリウッド映画化は特に誉められたものではなく、あまり批評家受けもよくなかった。当時の私のアメリカ人同僚は、ゴジラにキャラクターがないことが失敗の理由、と一刀両断に切り捨てていた。その同僚がかなりの映画好きだったことを差し置いても、エメリッヒ版はともかく、オリジナルのゴジラがかなりアメリカでも浸透していたことが知れる。


今回の「ゴジラ」の予告編は、五月に入って大量にTVにかかるようになった。ゴジラの姿を見せず にじらす戦略は、怪獣ものというよりホラーに近く、「クローバーフィールド (Cloverfield)」の宣伝戦略を思い出した。結局「クローバーフィールド」もエイリアン怪獣ものであったわけだし、怪獣ものの宣伝は、本体を見せないティーザー的なものの方が最も効果的ということか。


新ゴジラは、前回失敗した轍を踏まえ、初心に帰って? 原子力に対する警鐘を鳴らすものになっている‥‥ということらしい。冒頭、日本の原子力プラントが事故でメルトダウンする。プラントの背景にはわりと近くに東京と思える高層ビル群が聳えているが、プラントで働くジョーとサンドラの家は古い日本家屋で、それから言うと印象としては鎌倉とかそんな風に見えなくもない。しかし鎌倉では背景にあそこまで高層ビルは見えないだろうから、位置的にはせいぜい川崎といったところだろうか。


あるいは、彼らの住む家屋は、「ウルヴァリン: SAMRAI (The Wolverine)」で、ウルヴァリンがいた長崎も思い出させる。考えたらウルヴァリンは、ぼぼ70年前に長崎で被爆しているのだった。やはり原子力か。次の「ゴジラ」か「X-メン (X-Men)」では、ゴジラとウルヴァリンが共闘か、あるいは決闘している姿が見られるかもしれない。


いずれにしても、この原子力プラントは、どう考えても住宅密集地に近過ぎる。一方、アメリカだって原子力プラントが住宅地に近い例がないわけではない。その最たるものがどこあろうニューヨークで、ニューヨークに注ぐハドソン川上流に位置するインディアン・ポイントの原子力プラントは、ニューヨーク中心部から僅か40マイル (約65km) しか離れていない。40マイルなんて、もしプラントに何か起こった場合、ほとんど意味がない。NYが死の街になるのは目に見えている。


本当にアメリカを、NYを破壊しようと思った場合、かつてのワールド・トレード・センターやエンパイア・ステイト・ビルなんかに自爆テロを行うよりも、確実なのがインディアン・ポイントを破壊することだ。半径50マイルに住む人口は1,700万人に及び、その中にマンハッタンがすっぽり収まってしまう。クオモNY州知事は、現在インディアン・ポイントを閉鎖しようと躍起になっているが、当然だ。遅きに失したという気すらする。


こんな危険な場所に原子力プラントがあっても、本当に目と鼻の先に住む住人は、気にしないどころか、歓迎している。プラントがあるところはどこでもそうだろうが、地域住民にいくらかのインセンティヴを支払っているからだ。それでほとんど働かなくても生活できるくらいもらっていると聞いたことがある。こういう楽を経験すると、目の前に危険があってもそれを察知するセンサーが鈍って働かなくなってしまう。


結局映画では怪獣のためにプラントが壊滅的打撃を受ける。責任者だったジョーは妻と職を失い、以来憑かれたようにその原因究明に没頭する。そして時が経ち、現在、成長したジョーの息子フォードは海軍勤務で、 サンフランシスコに妻エルと息子のサムと共に居を構えていた。そこに日本から連絡が入り、今でも執念深くメルトダウンの本当の原因を探っていたジョーが、 立ち入り禁止区域に無断侵入して警察の厄介になったという。フォードは日本に飛び、グラウンド・ゼロ地点で父と共に怪獣を目撃する。これこそが15年前にプラントを破壊し、その理由の公示が伏せられていた真の理由だった‥‥


ジョーを演じるのが、AMCの「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」で主人公を演じてエミー賞受賞、さらに先頃舞台の「オール・ザ・ウェイ (All the Way)」でリンドン・B・ジョンソン元大統領を演じてトニー賞受賞と、今やアメリカを代表する俳優の一人であるブライアン・クランストン。その妻サンドラにジュリエット・ビノシュ、二人の息子フォードを演じるのは、「野蛮なやつら (Savages)」のアーロン・テイラー-ジョンソン、妻のエルはエリザベス・オルセンで、特にオルセンは、「サイレント・ハウス (Silent House)」「オールド・ボーイ (Oldboy)」と、一作毎に成長して色気が増している。あっという間にティーンエイジャーから一児の母だ。今ではもはや演技はしていない姉の双子のオ ルセン姉妹よりも、俳優という点では追い越してしまった。テイラー-ジョンソンもオルセンも共に来年公開の「アベンジャーズ (Avengers)」の最新作「エイジ・オブ・ウルトロン (Age of Ultron)」に出演しており、「ゴジラ」に続いて地球を守る大きな使命を担う。今や人類の将来は二人の双肩にかかっていると言っても過言ではない。


ところで復活したゴジラは、怪獣を追って、日本-ハワイ-サンフランシスコと太平洋を横断する。その怪獣だが、空を飛んで移動する。もうそれだけで、実は私の目には、ギャオスとしてしか映っていないのだった。最初グラウンド・ゼロ後から姿を現した時、やけに筋張った四肢だな、これじゃ怪獣というより巨大昆虫だ、まあ、ちょっと鋭角的な造型にしたかったんだろうと、勝手に解釈して、しかもずっとそう思い込んでいた。


そしたら、家に帰ってから、 女房が、今度の怪獣はカマキリだったんだね、と言ったので、愕然とした。そうだ、あれはどこから見てもカマキリだ。まったくギャオスなんかじゃない。しか もギャオスって、「ゴジラ」じゃなくて「ガメラ」じゃなかったっけ? といきなり間違いに気づいた。カマキリだった。










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1999年。フィリピンの発掘現場で巨大な生物の痕跡が発見される。その痕跡は海へと続いていた。同じ頃、日本の原子力プラントでは、説明のつかない振動を何度も記録していた。責任者のジョー (ブライアン・クランストン) は原因を究明しようと奔走するが、そこを激震が襲い、ジョーは同じく技師でもある妻のサンドラ (ジュリエット・ビノシュ) をプラント内に残したまま、緊急の退避ドアを遮断せざるを得なくなる。時は代わって現在、成長したジョーの息子フォード (アーロン・テイラー-ジョンソン) は海軍に所属しており、久し振りの休暇で、妻の病院勤務のエル (エリザベス・オルセン)、一人息子のサムのいるサンフランシスコの自宅に帰っていた。そこに知らせがあり、日本でジョーがいまだ立ち入り禁止区域に指定されている事故現場跡地に潜入して、逮捕されたという。ジョーはいまだに日本に留まり、廃人のようになりながらも、かつて事故が起きた理由を解明しようとしていた。かつてのプラント跡地に忍び込んだジョーとフォードは、そこで巨大な怪物が拿捕されているのを目撃する。そしてセリザワ (渡辺謙) らの努力も空しく、その怪獣は軛を逃れ、現場に壊滅的打撃を与え、飛び去っていく。ジョーも命を落とし、かつてプラント現場で同じことを経験しているフォードの記憶が重要な手掛かりになると思われた‥‥


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