ゲット・フレッシュ・ウィズ・サラ・スノウ
放送局: ディスカバリー・ヘルス
プレミア放送日: 1/4/2007 (Thu) 20:00-20:30-21:00
ホスト: サラ・スノウ

ザ・ダン・ホー・ショウ
放送局: ディスカバリー・ヘルス
プレミア放送日: 1/4/2007 (Thu) 21:00-21:30-22:00
ホスト: ダン・ホー

内容: エコ思想、オーガニックを基本理念としたクッキング、ライフスタイル・ショウ。


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近年、アメリカではエコロジー思想やLOHAS、自然に密着したオーガニックな生活という発想が一般消費者にも浸透しいる。ちょっと懐に余裕のある者ならグローサリー・ストアでオーガニックの野菜を買おうとするし、その市場は倍々レヴェルで膨れている。グリーンハウス効果や地球温暖化云々は声高に喧伝されており、そのせいもあってか環境にやさしくということを常日頃から心がけている消費者もたくさんいる。


このほどディスカバリー・ヘルスが放送を始めた二つの新番組、「ゲット・フレッシュ・ウィズ・サラ・スノウ」と「ザ・ダン・ホー・ショウ」は、そういったオーガニックな生活を心がけている人々を対象としたライフスタイル指南番組だ。オーガニックの食材を使ったクッキング、リラクゼイションの方法といったいかにもの内容から、デート指南みたいな「クイア・アイ・フォー・ア・ストレート・ガイ」のようなものまで、ヴァラエティに富んだ内容となっている。


とはいえ両番組のホスト、「ゲット・フレッシュ」のサラ・スノウ、「ダン・ホー」のダン・ホーの名前は、私は初耳だった。スノウの方は父親がオーガニック食材販売でわりとよく知られているエデン・フーズの共同創立者の一人だったそうで、そのため幼い頃からオーガニック食品に囲まれて育った。そういう人に多いが彼女もヴェジタリアンで、ガキの頃、海藻を巻いたライス・ボウル (要するにおにぎりだ!) を食べてて友だちから奇異の目で見られていたという。今ではそれらの経験を活かして、オーガニック食材を用い、身体のことを考えたクッキングやLOHAS的ライフスタイルを普及させる活動で、その方面では既に結構知られている存在だそうだ。


一方ダン・ホーは成功したレストランのオーナーで、どこから見てもパーフェクトな生活をしている青年実業家だったらしいが、奢侈に溺れ、はっきり言ってデブだったらしい。それがある日、ディナーの最中に癲癇だかなんだかの発作を起こして倒れ、幽体離脱の経験をした。そこにいる自分はまったく自分でない何者かで、自分のこれまでの生活は間違っていたことを悟ったそうだ。以来、シンプルで意義深く、身体にもいいライフスタイルの実践を心がけてきた。その結集がライフスタイル指南書「レスキュー・フロム・ドメスティック・パーフェクション」で、番組では今やすっかり贅肉を削ぎ落としたホーが、クッキングからエクササイズ、その他ライフスタイル全般に関して様々なアプローチを試みる。


「ゲット・フレッシュ」は、どちらかというとクッキング・ショウ的な色彩が濃い。ポイントはオーガニックの食材をいかにうまく利用して、身体にも環境にもよい食生活を構築するかという点にある。スノウは一見すると、初代「アメリカン・アイドル」王者のケリー・クラークソンにかなり似ている。まず顔が似ているのはもちろんだが、二人ともアメリカ人にありがちな我の強さがあまり感じられない。ケリーが「アイドル」で最初の頃印象薄かったのも実はその点にこそあり、だからこそ彼女が優勝した時は大穴扱いだったのだが、スノウもまさに同様の印象を受ける。要するにセレブリティ・パーソナリティというよりも、気さくなお隣りのお姉さんという感じだ。


そういう素のままのスノウを意識的に前面に出していると思われる「ゲット・フレッシュ」で実際に調理するシーンでは、撮影もこの種の番組では定番のステュディオ撮影ではなく、実際にスノウの自宅と思われる、やけに一般家庭という印象のあるキッチンで撮影されている。スノウが実際に畑で実っている野菜やハーブ類を収穫するところなんかもとらえられており (当然オーガニックだ)、さらに調理中に出た野菜屑なんかの処理に表に出ると、そこには資源リサイクルのための家庭用コンポスト器が設置されており、処理後の堆肥はちゃんとまた作物を育てるのに利用される。要するにLOHAS思想のクッキング・ショウなのだ。少なくともアメリカではNYやLA等の大都市部を除き、やろうと思えば自宅菜園くらいはできるところが多いだろう。


その他、プレミア・エピソードではオーガニックの葡萄を使ったワインを製造しているワイナリーに行ったり、ファーマーズ・マーケットに行って食材を調達したり、エコロジー・ファッションを伝達したりする。エコ・ファッションとは、要するにファーやレザー等の、動物を殺して手に入れる素材を用いる衣服は着用せず、基本的に綿や竹繊維、毛糸を用いたものだけでお洒落をするファッションだ。かばんや靴だって皮を使用していればパスする。スノウに言わせると、ポリエステル等の合繊も、微生物によって分解されず大地に戻ることができないため、不可だそうだ。


エコ・スタイルの極めつけは環境にやさしいエコ・フレンドリーの「グリーン・ハウス」の紹介で、ソーラー・パネルを用いてパワーを自前で調達、暖炉は薪ではなく変性アルコールを用いるため煤を発生させず、煙突を作る必要がない。内装には人体への悪影響が取り沙汰されているホルムアルデヒド素材を使用せず、空気の浄化のために、部屋の中にプチ菜園的な緑がある。その真ん中になにやら観音像のようなものが鎮座ましましているのがおかしいが、こういうLOHAS志向の人間は、かなりアジア的なものに親近感を持っているというのは一般的に言えるようだ。その他にもリサイクルした建材をできるだけ使用し、フロアはコルクと、現在考えられ得る限りのエコ・フレンドリーな家屋だ。アルコールを用いる暖炉ってのはどのくらい暖かくなるのかわからないからなんとも言えないが、ホルムアルデヒド・フリー建材とかソーラー・パワー利用とかは納得する。


クッキングではラザニアの作り方を伝授するが、スノウが作るラザニアである、もちろん一般的な挽き肉を使うラザニアにはならない。ヴェジタリアンのラザニアだ。ごく一般的なレシピならミート・ソースを使うべき部分を、ここではしいたけ (めちゃでかい! 傘が手の平くらいの大きさがある) とスクアッシュ (これまたでかい! 一瞬見ただけだとカンタロウプのメロンかパパイアにしか見えない。なんでアメリカで育てるとこんなに大きくなるんだ) をソテーしたもので代用する。別にヴェジタリアンではなく、やはり肉はおいしいと思う私から見ると物足りない気がしないでもないが、それはそれで確かにうまそうには見える。


一般的に言って、まだ大多数を占める肉も食う一般的消費者にとっては、「ゲット・フレッシュ」はそれなりに参考になりはするだろうが、すぐに番組で知ったことを実践してみるというふうにはならないと思う。昨日まで焼き肉を食っていた人間が、いきなりヴェジタリアンになれと言われても、やはり無理がある。それでも飾らないスノウのキャラクターは、男性視聴者だけでなく、女性視聴者にもそれなりにアピールするものと思われる。つまり、少なくとも「ゲット・フレッシュ」は、まだ視聴者にとってとっつきやすい。


一方、「ダン・ホー・ショウ」のホストであるダン・ホーは、一見してその姿形を見て連想するのは、既に死語となったヒッピーではないだろうか。グアム生まれのホーは、髪は天パーでぼさぼさのを束ねているだけ、無精ひげ、というかいわゆるゴーティと呼ばれる仙人ひげ (ヤギひげ) を生やし、着ているものの第一のポイントは着やすさにしか置いてないだろうというファッションは、一見、これが人々にライフスタイルを啓蒙する番組のホストなのかと疑ってしまう。


ホーはスノウと異なり、人生のある一点までは普通の我々のような存在と同じく、金銭的な成功を第一と考え、うまいものを食い、いいところに住むことが仕合わせと考えていた俗物であった。番組のオープニング・シークエンスで一瞬垣間見える当時のホーは、確かにデブだ。ところがある時、上に書いたように臨死体験に遭遇、以降人生観を変える。現在のホーの姿形を見ると、外観よりも内面、金銭よりもスピリチュアルなものを求めていることがよくわかる。いわゆるグルーと呼ばれる導師的な存在、仙人のようなものを連想してしまうし、実際、番組内に現れるホーの紹介肩書きは、「ライフスタイル・グルー」となっている。


そして実際に「ダン・ホー・ショウ」は、ライフスタイル一般に関わるあれこれを紹介したりコーチしたりする番組だ。その点、焦点がクッキングに傾きがちになる「ゲット・フレッシュ」と少し違う。なによりも異なるのはホストの見た目の違いから来る印象の差だろうが、それはそれで面白いとは言える。また、「ゲット・フレッシュ」ではクッキングだけでなく、あれこれと細かいセグメントに分かれて色々なことの紹介に努めるが、「ダン・ホー」の場合、エピソード毎に軸となるテーマが一つあり、それに一つか二つ程度のサイド・ディッシュ的な小エピソードが挟まるという構成になっている。


因みに番組第1回では、ホーは郊外に一軒家を構える中年夫婦の家を訪ねる。立派な家なのだが、完璧に整理掃除され、すべてが非の打ち所のない位置に収まっているリヴィングには、カーペットが汚れることを嫌がる奥さんによって、靴を履いたまま入ることは禁じられている。日本人なら関係なくまず靴を脱いじゃうだろうし、靴を脱ぐことによる足の楽さをわかり始めたアメリカ人にも、家では靴を脱ぐという習慣を持つ者は増え始めているのだが、もちろんここではそういう趣旨で靴を脱がされるわけではない。


要するにこの奥さん、完璧な生活を求めるあまり、物事の順番が崩れたり収拾がつかなくなったりすることを何よりも怖れるのだ。そのため、リヴィングは常に綺麗にされているが、そこに人が立ち入ることは許されない。立派な置物や漆器類は壊すのが嫌さに屋根裏部屋に仕舞われているし、料理を手助けするためのありとあらゆる便利なアイディア用品は、買ったはいいが一度も使われることなくキャビネットの中だ。何千枚という写真を収めたアルバムは、なぜだか地下のクローゼットの中に仕舞われており、これではいつでも見たい時に写真を見ることなんかできまい。何のために写真を撮っているのか。要するにこの人の場合、目的と手段が転倒してしまっているのだ。もちろんホーは、こんなんではいけない、これでは本末転倒だということを諭して帰っていくのだが、でも、こんな人、確かにいるなあ。


他のエピソードでは外交的な奥さんとつき合いが苦手な夫婦が家を改装したりパーティを開こうとしているのを手伝い、既に大きな娘さんのいるシングル・マザーがまたお洒落してボーイ・フレンドを探すための手助けをし、ホー同様デブだったが心機一転して痩せた女性アーティストのところに伺って話を聞くといった具合だ。その合間合間に、ライフスタイルに沿ったクッキングやエクササイズの仕方等も伝授したりする。番組の小コーナーではカポエラを習いに行ったり、恵まれない人たちに食事を提供する非営利の団体を経営する人々を訪れたりする。これまで見た限りでは判然としなかったが、どうやらホーはヴェジタリアンではないようだ。一応その辺はゆるくしといて、魚なら食べるし身体によければ別に肉でも排除したりはしないというスタンスのように見える。まあ、どちらかというとその方が私としても参考にしやすい。


「ゲット・フレッシュ」も「ダン・ホー」も、これまではどちらかというと固めの番組の方が多かったディスカバリー・ヘルスにしては、柔らかめの番組である。最近、私がこのチャンネルに合わせるのは大半が「ドクターG」を見るためだったりするので、こういう番組製作に挑戦しているところを見ると、ディスカバリーも色々と考えているんだなあと思う。10年前なら、ヴェジタリアンがヴェジタリアン・クッキングを伝授するという番組がそれなりの視聴者を獲得するとは誰も考えなかっただろう。しかし意外にも、たとえ自分がヴェジタリアンではなくとも、ヴェジタリアンのクッキングとかをやっていたら結構マジで見てしまうのだ。むしろ肉をどうやって代用するか興味津々で見ていたりする。もしかしたら、あとしばらくしたらこんな番組がヒップとかクールとか言われるのかもしれないなあと思ったりもするのだった。






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サラ・スノウ

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