Fury


フューリー  (2014年10月)

それほど頻繁ではないとはいえ、今でもたまさか第二次大戦を舞台とする戦争映画は製作される。今年もジョージ・クルーニーの「ミケランジェロ・プロジェクト (The Monuments Men)」なんてのがあった。また、アメリカはこの時期、戦争に従軍したヴェテランを称えるヴェテランズ・デイがあり、戦争映画ががかかるのはある意味必然でもある。しかし、やはり9/11以降は、戦争映画といえば第二次大戦ものではなく、中東を舞台とするのが多い。そういう時に現れた「フューリー」は、主演がブラッド・ピットということと共に、わりと意外だった。


しかし本当にあっと驚いたのは、実は映画ではなく、上映していた映画館そのものにあった。私がこの映画を見たのは、常日頃から頻繁に通っているマルチプレックスの映画館で、比較的新しく綺麗でスタジアム・シートということもあり、まずここの劇場でかかっているものをチェックして、それから他の劇場をチェックする。


それでこの日も「フューリー」をやっていると、何の考えもなしにここに足を運んだ。しかしいつもと違っているのはチケット売り場のカウンターの上にモニターが置かれていたことで、「フューリー一枚」と言ってチケットを買おうとしたら、そのモニター上に劇場の座席が現れ、これこれの席が空いている、どれにするかと、まるでブロードウェイのミュージカルかリンカーン・センターでクラシックのコンサートを鑑賞する時みたいに座席のことを訊かれた。


それで、じゃ、ここと言って座席をしてチケットを買う。とすると他の座席に座ったりしたらまずいのだろうか。だいたい列車とかに乗る時でもいつも指定じゃなくて自由席なんですけど。実はいつもクレジット・カードでどうせマチネーで安いはずだからと金額を気にせずチケットを買っているので、今回のこの8ドル50セントという金額が、いつもより高いのかいつも通りなのかよくわからない。スーパーマーケットで買い物する時はちゃんとセールになっているか確かめたりレシートをチェックするのだが、映画を見る時には特に気にしないのだった。


とまあ、ここまでは、なんかいつもと雰囲気が違うなとは漠然とは感じていたが、特にそれ以上は突っ込んで考えなかった。それが「フューリー」をやっているシアターのドアを開けて中に入ると、いきなりアッシャーのような者が現れてチケットを見せろと言う。今回は座席を選んでチケットを買っているので、本当にちゃんと座席指定なんだな、しかし、また、なんで? という疑問は、その座席に着いて氷解した。


リクライニング・シートなのだ。完全に一人掛けで、ゆったりふわふわ、思い切り手足を伸ばしても前後左右に引っかからない。試しに電動リクライニングのボタンを押してみると、倒れる倒れる、飛行機のファースト・クラス並みに、地上と平行になるくらい倒れる。一方足置きは持ち上がり、これはほとんどベッドだ。とまあ比喩してみたが、私は実はファーストに乗ったことはない。しかしJALのビジネスのシェル・フラットならある。そのシェル・フラットよりフラットになることは確かだ。


しかしあまりに心地よくて、これはまずい。気持ちよすぎて、これは油断したら寝る。睡眠不足の時なら、熟睡するのは避けられまいと思う。先々週ここで「ゴーン・ガール (Gone Girl)」を見た時は、同じ小屋でこそなかったが、リクライニング・シートではなかったことだけは確かだ。めずらしくも両隣りに人がいて窮屈だなと思ったことは覚えているのでそれは間違いない。それが今回はリクライニング・シートだ。確か十いくつかあるマルチプレックスのすべての小屋がこの1、2週間ですべてリクライニング・シートになったのだろうか。それとも「フューリー」をやっているここだけなのだろうか。試しにここだけ改装してみて、評判がよかったら他も漸次改装するとか。


しかしリクライニングだと、だいたい一席で以前の2-4席分くらいの場所をとる。これって客単価にするとかなりコスト高になるのは否めまい。ペイするのだろうか。映画館や業界全体に貢献したいのは山々だが、映画館で飲み食いすると以上に高く、ポップ・コーンとソーダでゆうに7-8ドルかかるので、あまりにもバカらしいので普段はコンセッション・スタンドには立ち寄ることすらせず、映画だけ見てとっとと帰る。


しかし、たぶん、このリクライニング・シートは、客に飲み食いさせながら映画を見させるためのものだろう。それで利益を出す仕組みのはずだ。これだけふんぞり返っていい気分になって、それ以上金を落とさず帰るのもなんだか悪い気がする。


等々、「フューリー」、寝ずにちゃんと最後まで見れてしかも面白く、それはそれでもちろんよかったのだが、しかしこの体験は初めてで驚いた。今後映画館はラグジュアリーを推し進めるこの方向に向かっていくのだろうか。むろん快適に映画を見れるならばそれにこしたことはないが、しかし先々週の体験、さらに子供の時の、椅子に座ると前の座席の人間の頭が邪魔になるのでシートの座席部分を前に倒さず、折り立った状態の、その上に座って見た時代の映画体験と比較すると、まさに隔世だ。


スクリーン上では登場人物が泥まみれになり、極限状態で命をかけてぎりぎりの戦闘を行っている。泥だらけ汗まみれ、手足を吹っ飛ばされうなされながら死に行く者を目の当たりにしながら、こちらはちょっと気を緩めると、そのまま惰眠に導かれそうになる。いったい、これは、なんだか、正しいことなんだろうか‥‥










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第二次大戦末期、連合軍はほぼ勝利を確信してドイツへと侵攻していたが、ナチスの抵抗も根強かった。特にドイツ軍の新型のタンクの性能は連合軍側のタンクの性能を大きく上回っており、まったくと言っていいほど勝負にならなかった。ウォーダディ (ブラッド・ピット) は、フューリーと名付けられた連合軍の旧型タンクの指揮官で、ボイド (シャイア・ラブーフ)、トリニ (マイケル・ピーナ)、グレイディ (ジョン・バーンソール) 等の癖のある面々をなんとか束ねながら日々を凌いでいた。ある時欠員の補充として回されてきたのは、戦闘経験皆無の青二才ノーマン (ローガン・ラーマン) で、仲間から浮くことおびただしい。新米とヴェテランの猛者どもをなだめたりすかしたりしながら、それでもフューリーは前進を続ける‥‥


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