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オーロラの彼方へ  (2000年4月)

1969年、ニューヨーク・メッツの快進撃にニューヨーク中が沸いている頃。クイーンズの熱狂的ベイスボール・ファンのファイア・ファイター(消防隊員)フランク・サリヴァンは、愛する妻ジュリア、息子のジョンに囲まれ充実した生活を送っていた。彼の趣味は暇な時間を見つけてはハム無線をすることだった。


1999年。ジョンはニューヨーク市警のコップとして働いていた。ジョンはある日階段の下の物置からかつて父フランクが使っていたハム無線を見つける。その夜組み立てたハム無線からの呼び出しに答えたジョンは、それが父フランクであることを知って愕然とする。何かの拍子で、電波が30年の時間を超えて現在のジョンのもとに届いたのだ。しかし父は1969年10月に火事に巻き込まれた女性を助け出そうとして殉職しており、その日を目前に控えていた。ジョンはフランクにそのことを話し、危険を避けるよう伝える。


ジョンのアドヴァイスのおかげでフランクは九死に一生を得、難を逃れる。すると、現在のジョンの世界ではフランクは仕事で殉職したのではなく、その後肺ガンで死んだことになっていた。しかし未来の世界を変えたフランクの行動は、他のすべての未来に影響をもたらしていた。フランクは生き延びたが、それが巡り巡って連続レイプ殺人犯を助けることにもなり、そして今度は母ジュリアがその男によって殺されることになっていたのだ。ジョンはフランクにその事を伝え、何としてもその男を捕えるよう告げる。しかしジュリアが死ぬことになっている時間は刻一刻と近づいてくる。果たしてジョンとフランクは殺人犯を捕え、ジュリアを助けることができるのか。


「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズにサスペンス・スリラーの味付けを効かし、「ゲイルズバーグの春を愛す」的なセンチメンタリズムを添えた新感覚SF。小説ではSFのジャンルは読まなくなって少なくとも15年は経つが、映画だと見てしまうなあ。特にこんなありそうもない話でも、映画だと目の前に映像を見せられ、これがあり得そうなことかどうかを理解して確認する間もなくどんどん進んでいっちゃうから、こちらもなんか乗せられて見てしまう。本はもう身体が受けつけないのに。


私の回りを見渡しても、SFは読まないが「マトリックス」や「スターウォーズ」を見た者は多い。だから多分私は少数派ではないと思うのだが、同じ内容でも媒体が変わると受けつけたり受けつけなくなったりするというのは面白い。なんといってもあり得ないような話をいかにも本当のことのように見せるのは映画というかハリウッドの醍醐味であるし、今後も映画でならSFは見るだろう。


監督のグレゴリー・ホブリットは「真実の行方」、「悪魔を憐れむ歌」の人。実は私はどちらも見ていないのだが、「悪魔を憐れむ歌」を見た同僚の話だと、アイディアは面白いのだが尻すぼみになってしまったと言っていた。「オーロラの彼方へ」もアイディアは面白いのだが、だんだん牽強付会というか、いくらSFとはいえ眉唾っぽくなっていく。特にラスト、あそこまでやるかねえ。私はその手前辺りで余韻を持たせて終わった方がよかったのではないかと思うのだが。でもまあ、本人はあれが撮りたかったんだろうからしょうがないか。


フランクに扮するデニス・クエイドは、私は結構好きなんだが、いまいちメイジャーになりきれない。特に奥さんのメグ・ライアンと共演した「フレッシュ・アンド・ボーン」なんて実にいい映画だったと思うんだが、ほとんど黙殺されてしまった。ラヴ・コメでも「愛に迷った時」でジュリア・ロバーツと共演してるし、演技の幅も広い。きっかけさえあればブレイクすると思うんだが、もう歳をとり過ぎてるかも。惜しい。息子のジョンに扮しているのは「シン・レッド・ライン」のジム・カヴィーゼル。悪くないです。昔から家族ぐるみでつきあっているニューヨーク市警に勤めるサッチには、「ホミサイド」のアンドレ・ブローガー。「ホミサイド」での刑事ははまり役だった。ここでも刑事なのは当然その印象が強いからだろう。


映画は現在と69年にミラクル・メッツがワールド・シリーズを制覇した時とを行ったり来たりする。フランクは第何戦で誰がどこでどうヒットを打ち、何対何で勝ったかということを予言してみせて未来の自分の息子と対話しているということを人に信じさせようとするわけだが、このプロットはベイスボール好きには堪えられないかも。うーん、ミラクル・メッツ、いまだに人々の心の中に生きているわけだなあ。因みに映画の舞台は私も住んでいるクイーンズ。橋がよく映るがあれはホワイトストーン・ブリッジかスロッグス・ネック・ブリッジのどちらかだろう。たとえ実際のほとんどの撮影をトロントで撮っていようと、ご当地映画だと思うと思わず応援したくなる。






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