Flightplan   フライトプラン  (2005年9月)

カイル (ジョディ・フォスター) の夫がビルから転落死し、カイルは娘のジュリアを連れ,遺体と共にベルリンから故郷のニューヨークに向け機内の人となる。しかし機内でうたた寝から目覚めたカイルのそばにジュリアの姿はなく,しかもフライト・アテンダントや周りの乗客を含め、誰も最初からジュリアを見てはいないと言うのだった。すべてはカイルの妄想だったのか‥‥


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3年ぶりのジョディ・フォスターの新作は,飛行機の中で幼い娘が失踪してしまうというヒッチコック的状況で娘奪回のために奮闘する「ダイ・ハード」的アクション。閉じ込められた絶体絶命的状況で、正体のよくわからない敵を相手に自分の知恵と肉体を駆使して愛する娘を危険から救おうとする、つまり、結局は前作「パニック・ルーム」の新たな変奏だ。


要するにここでもフォスターが演じるのは強い母だ。作品の冒頭,夫の死の知らせにモルグに出かけ,そこで悄然と失意に沈んでいたフォスターが,中盤以降,失踪した娘を奪回するために八面六臂の活躍を見せる。フォスターって最初は虐げられても後で反撃に転じるという役柄が非常に多い。子役の時からそういうような印象があるし、最初のオスカーをとった「告発の行方」なんて、まさしくそういう感じだった。昔から芯の強そうなところだけはまったく変わっていない。


今回主要な舞台となる密室としての飛行機は、有効に使えばかなり緊迫感を煽ることができる。隠れることも外部に逃げることもできないはずの飛行機だからこそテンションが高まるのだ。ジャンボ・ジェットの内部を縦横無尽に行き来するフォスターは、よくできたスリラーだった「エグゼクティブ・デシジョン」を想起させるし、逃げられない密室という状況は「そして、ひと粒のひかり」の圧迫感を思い起こさせる。


ただし、状況が限定されているだけに,その展開が難しいことも事実だろう。密室の中で人が消えるという謎は魅力的だし,テンションも高めやすいのだが,それだけに同様に魅力的な解決を持ってこないと人は納得しない。「フライトプラン」が万人を満足させるだけの解決を持ってきているかというと,意見は分かれるところだろう。ホラー映画はどうしてもネタが割れた後に急速に冷めやすいが,「フライトプラン」がその弊を免れているかというと、かなり厳しいところなんじゃないかという気がする。


とはいえもちろん、ミステリとしてではなく母子愛を描いた作品として「フライトプラン」を見るならば,作品はかなりエキサイティングだ。実際にフォスターの演技はこちらの方に比重がかかっているわけだし,弱い者が反撃に転じる面白さというのは,やはり物語の醍醐味の一つである。それにしてもフォスターって,「パニック・ルーム」でも一見着痩せしていながら、上着を脱ぐと細身ながらちゃんとワークアウトしているのがわかる締まった筋肉をしていたが、それは今回も変わらない。さらに、夫だけでなく娘まで失うかもしれない瀬戸際で,その上誰も自分の言うことを信用してくれないというピンチに追いつめられるというあたりの表情の変化は「パニック・ルーム」よりもドラマティックだ。「パニック・ルーム」はフォスターと共に,娘役を演じるクリスティン・スチュワートもなかなか魅力を発揮していたが,今回は娘のジュリアを演じるマーリーン・ロウストンは途中からいなくなってしまうわけだし,正真正銘フォスターの魅力だけを存分に楽しむための作品である。


実際,歳をとるとただケバくなって、自然とスクリーンから消えて行くことの多いハリウッドにおいて,フォスターの歳のとり方はバランスがとれていると言える。「タクシー・ドライバー」では歳に似合わぬ色気ということで評判になったが’、内面から滲み出てくるような色気という点では、昔より今の方が断然いい。こういう歳のとり方は,昔からハリウッド女優よりヨーロッパの女優の方がずっと上手だったのだが,フォスターも全然悪くない。早くもっと歳をとった姿を見てみたいと思わせる数少ない女優の一人である。アカデミー賞は伊達じゃない。


一応「フライトプラン」はフォスターのための作品であるのだが,その他の重要な役として、機内でフォスターをサポートする,たまたま乗り合わせた捜査官に扮するのがピーター・サースガード、機長にショーン・ビーン,フライト・アテンダントにエリカ・クリステンセン,ケイト・ビーハンらが扮している。因みに彼らは作劇の都合上、役柄はどうであれフォスターの言うことに耳を貸してはいけないわけで、当然のことながら彼らが血の巡りが悪く,分からず屋であればあるほど話を面白くしてくれる。そしたら現在,全米のフライト・アテンダントの協会が、我々はこんなに理不尽で無慈悲で頭の悪い分からず屋ではないと、作品ボイコット運動を起こしている。こういうのって、だいたいこういう運動を起こせば起こすだけ逆効果となって,作品にとってはいい宣伝になるだけだったりする。しかし、今回ばかりは私も,いや、フライト・アテンダント,いい気味、もっと悪役にしてやれと思ったりした。


近年,機内のサーヴィスの質の低下によって,フライト・アテンダントが魅力的な花形職業からただのブルー・カラー職にしか見えなくなってきていることは,そんなに旅行する機会があるわけではない私でも感じる。実際,フライト・アテンダントにしてみればどんどん待遇は悪くなっているはずで、やってらんないと感じるだろうというのはわからないではないのだが、しかし、あんたらはこれまでが恵まれすぎた。フライト・アテンダントというのはサーヴィス業であるということを認識すべきだ。なんて、やっぱり私もフライト・アテンダントに特にいい印象は持ってないのだった。毛布持ってきてくれと頼んでいるだけなのに忘れんじゃねーよ。あ,でもここだけの話だが,一般的にやはりアメリカのキャリアよりは,昨年帰省した時のJALのアテンダントのお姉さんの方がいろいろ親身にしてくれたという印象がある。身びいきかな。


監督は「タトゥー」を撮ったドイツのロベルト・シュヴェンケで、「ホステージ」のフランスのフローレン・エミリオ・シリのように、見るべきものがあるとすぐハリウッドに呼んできてそれなりに金のかかった作品を撮らせ、常に新しい血を入れるのを怠らないこの姿勢がある限り,ハリウッドはやはり今後も世界の映画の中心であり続けるだろうと思わせる。






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