放送局: NBC

プレミア放送日: 6/5/2008 (Thu) 22:00-23:00

製作: ライオンズゲイト、EIインディTV

クリエイター: ミック・ガリス

製作総指揮: キース・アディス、アンドリュウ・ディーン


内容: ホラー・アンソロジー。

「サクリファイス (Sacrifice)」ミック・ガリス脚本、ブレック・アイスナー監督、レイチェル・マイナー主演

「スプークト (Spooked)」マット・ヴェン脚本、ブラッド・アンダーソン監督、エリック・ロバーツ主演

「ファミリー・マン (Family Man)」ダン・ノウフ脚本、ロニー・ユー監督、クリフトン・コリンズJr.、コリン・ファーガソン主演

「イン・シックネス・アンド・イン・ヘルス (In Sickness and in Health)」ヴィクトリア・サルヴァ脚本、ジョン・ランディス監督、マギー・ロウソン主演

「イーター (Eater)」リチャード・キズマー、ジョナサン・シェク脚本、スチュアート・ゴードン監督、エリザベス・モス主演

「ニュー・イヤーズ・デイ (New Year’s Day)」スティーヴ・ナイルズ脚本、ダーレン・バウズマン監督、ブリアナ・エヴィガン主演

「スキン&ボーンズ (Skin & Bones)」ドリュウ・マクウィーニー、スコット・スワン脚本、ラリー・フェッセンデン監督、ダグ・ジョーンズ主演

「サムシング・ウィズ・バイト (Something with Bite)」マックス・ランディス脚本、アーネスト・ディッカーソン監督、ウェンデル・ピアース主演

「コミュニティ (Community)」ケリー・ケネマー脚本、メアリ・ハロン監督、ブランドン・ラウス主演

「チャンス (Chance)」レム・ドブス脚本、ジョン・ダール監督

「ザ・スピリット・ボックス (The Spirit Box)」ジョー・ガンガミ脚本

「エコーズ (Echoes)」ショーン・フード脚本、ルパート・ウェインライト監督

「ザ・サークル (The Circle)」リチャード・キズマー、ジョナサン・シェク脚本


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アメリカにおいてはホラーはハロウィーンの時期と相場が決まっているのだが、日本人の立場から言うと、やはり納涼の意味でも夏場のホラーは欠かせない。枯葉が舞い始める中、ゾンビや魑魅魍魎が跋扈し始めるというのもそれはそれでいかにもという感じがするものだが、蒸し暑く寝苦しい真夏の夜更けにひゅーどろどろという感じで足のない幽霊が出没するというのもまた一興だ。たとえ日本が近年はアメリカに感化されていようとも、この辺は譲れない。今回ホラー・アンソロジー「フィアー・イットセルフ」を編成したNBCも、なかなか味なことをやってくれると思う。実際問題としては、どうせあまり視聴率がとれなさそうな番組を、絶対視聴者数の少ない夏場に持ってきただけなのだとは思うが、この際、興を削ぐようなことは言うまい。


さて、現在TVのホラー・アンソロジーというと、第2シーズンまで製作されたペイTVのショウタイムの「マスターズ・オブ・ホラー」がすぐに思い浮かぶが、今回の「フィアー・イットセルフ」は、ネットワークのNBCの放送だ。「マスターズ・オブ・ホラー」は、興味深かったとはいえ全エピソード見ているわけではないが、だいたいほとんどのチャンネルは再放送をしている夏場にネットワークでこの手のアンソロジー・シリーズをやってくれると、なんとはなしにチャンネルを合わせてしまう。


そのため「フィアー・イットセルフ」は、実は「マスターズ」と比較して特に気になるホラー作家が演出しているというわけでもないのだが、見ている頻度はこちらの方が高い。とはいえあちらもこちらも、製作を担当しているのはミック・ガリスであり、最近のTVホラーのほとんどを一人で製作しているような感じになってきた。ガリスは昨年も、こちらはホラーではないがSFのアンソロジー・シリーズ「マスターズ・オブ・サイエンス・フィクション」もABCで製作していたし、なにやらホラー/SFならこの人にお任せというような感じになってきた。


「フィアー・イットセルフ」は、「マスターズ・オブ・ホラー」に較べると、製作者はやや小粒という印象を受けるが、それでも無名どころというわけでもない。この中では最も名が売れているだろうと思われるジョン・ランディスを筆頭に、「マシニスト (The Machinist)」のブラッド・アンダーソン、「フレディvsジェイソン (Freddy vs Jason)」のロニー・ユー、「ソウ (Saw)」シリーズのダーレン・バウズマン、「甘い毒 (The Last Seduction)」のジョン・ダール、「ザ・フォグ (The Fog)」のルパート・ウェインライトという風に、そこそこのメンツを揃えている。「マスターズ」と比較して、ホラー・プロパーの映像作家からは広がりが出たという感じがするが、その方が単にホラー一辺倒ではない面白いものができるかもしれない。


一方の出演者の方もエリック・ロバーツやクリフトン・コリンズJr.、コリン・ファーガソン等のそれなりに知られている名前もあるが、私が最も興味を惹かれたのは、「イーター」のエリザベス・モスと、「コミュニティ」のブランドン・ラウスだ。モスは昨年、AMCの新ドラマ・シリーズ「マッド・メン (Mad Men)」に重要な脇として出演、かなり強い印象を残した。彼女はかなりの確率で今年のエミー賞のドラマ部門の助演女優賞でノミネートされると思う。一方のラウスの方は言わずと知れた新スーパーマンで、その彼がTVのホラー・シリーズの一編で主演というところにも興味を惹かれる。


それでまず、ラウス主演の「コミュニティ」にはまだ放送まで間があるので、先に放送されたモスの「イーター」の方を見た感想を述べると、これがなかなか面白かった。これが勤務初日という新米警官 (モス) のいる警察署にシリアル・キラーの男が連れてこられて留置される。その男は不気味で、得体の知れない雰囲気を濃厚に発散していた。そういう場合、ヴェテラン警官はわざと新米警官を脅してからかうというのが定番だ。案の定その男の監視を押しつけられたモスは、最初こそ怖いのをやせ我慢していたが、そのうち、なにか本当に怖ろしいことが起こりつつあることを感知する‥‥というもの。私はこれはてっきり最後に全員でモスをひっかけたことをばらして落とすという笑いオチを確信しながら見ていた。果たしてどうだっかは後から見る人のために伏せておこう。いずれにしてもモスは、悪女役の「マッド・メン」とは違って、怖がる顔も悪くない。


設定としてはむしろ定番の部類に入ると思うが、事故で人格が入れ替わってしまう「ファミリー・マン」もなかなか面白かった。家庭思いの男がよりにもよって事故で殺人鬼の身体と魂が入れ替わってしまう (これまた定番設定という感じ。) 男はそのまま刑務所入りさせられ、殺人鬼の魂の入った自分の身体は、愛する妻と娘たちの元に帰っていってしまう。なんとかしなければと焦る男は脱走を企て‥‥という展開。心は家庭人、外見は殺人鬼という役柄を演じているのがクリフトン・コリンズJr.で、この人は「カポーティ」といい今回といい、人殺して刑務所入りしてばかり。一方、ポイント外したかなと感じたのが、エリック・ロバーツが私立探偵に扮した「スプークト」。ちゃんとそれなりにひねりを入れてあるのだが、私は説得力に乏しく感じた。


この種のアンソロジー・シリーズは、当然のことだが玉石混交で、できのいいものもあれば、首を傾げざるを得ないものもある。また、見る人によっても意見は当然変わってくるだろう。まだシリーズはやっと半分放送されただけなのであり、これから拾い物が出てくる可能性も当然ある。そんなわけでシリーズは今後何が出てくるかまだまだわからない。特に視聴率がいいわけではないとはいえ、昨年の「マスターズ・オブ・SF」のように途中キャンセルということはなく、NBCは製作したものは全部放送してくれるみたいだ。というわけでもうしばらくは、蒸し暑い夏の夜長の一時をホラーで涼をとらせてもらえるだろう。







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Fear Itself


フィアー・イットセルフ   ★★1/2

 
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