昨年、女性宇宙飛行士を描いたSFスリラーの「グラビティ・ゼロ (Gravity)」がオスカーにノミネートされたと思ったら、今度はやはり女性宇宙飛行士が主人公のTVドラマ、「エクスタント」の登場だ。しかも前者の主演はサンドラ・ブロック、後者はハリー・ベリーと、共にオスカー女優を起用している。
一方、両者共オスカー女優を起用したSFという共通点はあるとはいえ、その中身はかなり異なる。「グラビティ・ゼロ」がほとんど宇宙を舞台としたいかにもSF然とした作品であるのに対し、「エクスタント」は宇宙のシーンがあることはあるが基本舞台は地上であり、SFとはいっても、SFアクションというよりもSFホラーに近い。
1年以上に渡る衛星での長期のソロ・ミッションを終えた宇宙飛行士モリーは、任務を終えて地上に帰還する。任務後の健康診断の結果、驚くべきことが判明する。モリーは妊娠していたのだ。しかし、なぜ、どうして? 実はモリーは宇宙にいる時に、死亡しているかつての恋人と出会うという体験をしていた。
どう考えてもあり得ないが、しかしそれは夢や幻覚といって片付けるには強烈過ぎる体験を伴っていた。一方、彼が船内を記録しているヴィデオに映っているわけではなく、ただモリーだけがなにやらおかしい動きをしているのがとらえられているだけだった。とはいえモリーの行動は説明のしようがなく、また、理由を言う訳にはいかないモリーは、たとえ消去した記録が残って後で問題になっても、ヴィデオを消去せざるを得なかった。
モリーの夫ジョンはロボット工学の大家であり、子供を熱望しながらも恵まれなかったモリーとジョンは、子供ロボットのイーサンを実際の我が子同様に可愛い がっていた。そのイーサンの言動が、最近なにやらおかしかった。時たまプログラムされているはずのない言動を見せるようになっていた‥‥
とまあ、「エクスタント」は、実は「グラビティ・ゼロ」ではなく、「ローズマリーの赤ちゃん (Rosemary’s Baby)」なのだ。そういや今春、NBCでゾーイ・サルダナ主演でその「ローズマリーの赤ちゃん」のミニシリーズ・リメイクがあった。今年は「ローズマリー」の当たり年だ。
一方、ほぼ人間同様のロボットの子供は、「A.I.」を想起させるが、「A.I.」がヒューマン・ドラマであったのに対し、「エクスタント」の子供ロボットのイーサンは、人間に似過ぎていて怖いという印象を与える。「A.I.」だろうと「鉄腕アトム」だろうと、あまりに人間っぽいロボットは、それがために逆に差別され、怖れられるか憎まれる対象となる。それが子供だとなおさら感情の八つ当たりは激しい。いずれにしても、やはり「エクスタント」はホラーなのだった。
そのイーサンに扮するのは「ルーパー (Looper)」のピアース・ガニオンで、「ルーパー」では超能力少年、こちらでは少年ロボットと、普通の人間ではない役が続く。癖のある子役として一時期非常に印象に残ったキャメロン・ブライトを思い出させる。次の作品はジョージ・クルーニーと共演した近未来SFものだそうで、今度もまた尋常じゃない子供役に違いない。他に、モリーの夫ジョンに扮するのはNBCの「E.R.」のゴラン・ヴィシュニック、そのアシスタント、ジュリーに扮するのがグレイス・ガマーだ。その特徴ある名字からもわかるように、CWの「恋するインターン (Emily Owens M.D.)」主演のメイミー・ガマーの姉であり、メリル・ストリープの娘でもある。
驚いたのがレギュラー出演している真田広之で、彼は冬にSyFyが放送した、やはりSFホラーの「へリックス (Helix)」にもほとんど主演級で出ていた。アメリカにいると日本人男優は真田広之と渡辺謙しかいないように見える。ところでその真田が今回「エクスタント」に出ているということは、「ヘリックス」には第2シーズンはないんだな。