Erin Brockovich

エリン・ブロコヴィッチ  (2000年3月)

別にジュリア・ロバーツのファンというわけではないが、「プリティ・ウーマン」の彼女は確かによかった。次にロバーツがよかったと思うのは「ジキル&ハイド」だが、これは異論もあることだろう。彼女が出ているから見に行くというほど入れ込んでいるわけではないので、見てない作品も結構あるが、アクション/サスペンス系のやつはほとんど見てる。見てないのは一般的に彼女の魅力が全開だとされるコメディ系のやつの方で、つまり私は「プリティ・ウーマン」ほどロバーツにはまる役がそうそうあるとは思ってないわけだ。


さて、「エリン・ブロコヴィッチ」であるが、これがまたロバーツの新境地を開いたと思わせる出来で、久し振りに彼女の魅力を堪能した。離婚した3児の子持ちで銀行に金もなく、教育もないため職探しも思うように行かないエリン・ブロコヴィッチ=ロバーツが、たまたま交通事故の被害者となったために小さな法律事務所と関わりあうようになり、どうしても手に職が欲しいエリンはほとんど強引にその事務所に居座るようになる。しかしそこで書類整理をしていたエリンは、ある同一地域で似たような病気が頻発していることに気づき、独自に調査を始める。そしてその地域の巨大企業による水質汚染がこれらの病気の引き金となっていることを確信、上司エドと共に告発に乗り出すという展開。


まず何よりもタフでおしゃべりで、言われたままじゃ絶対引き下がらないエリンの役柄がロバーツにぴったりと合っている。お上には徹底的に反抗するが、情にほだされやすく、車の中で末の娘が初めて言葉を喋ったことを聞いて涙する、そんなエリンの役柄をこれほど見事に造形できるのは確かにロバーツしかいまい。考えてみればこの役柄、「プリティ・ウーマン」のロバーツとほとんど変わらない。共に教育はないが自分に正直で、曲がったことが大嫌い、可愛い顔して下種な言葉を連発する、なある、要するにロバーツの魅力というのはこの辺りにあるのだな。


そしてロバーツの魅力を完全に把握して演出したスティーヴン・ソダーバーグもこれまた見事。映画の冒頭、また職探しに失敗したエリンを見せるのだが、その最初の3分間で、ああ、こいつはうまい、と思わせてくれる監督はそうそういない。その直後、エリンが交通事故に遭うシーンも、あまりにも意外で思わずあっ、と声を出してしまった。


ソダーバーグって「セックスと嘘とビデオテープ」や「わが街 セントルイス (King of the Hill) 」(地味な作品なので誰も話題にしないが、ある幼い兄弟を描いた佳品。ヴィデオでも見る価値あり) 等のややアーティスティックな監督という印象が強いのだが、実はフィルム・ノワールに強く影響を受けているのだそうで、「アウト・オブ・サイト」や、昨年批評家から絶賛された「ライミー (The Limey)」のようなアクションも撮っている。フィルム・ノワールはアクションに分類されるが、その実態はスタイリッシュな映像を駆使した深層心理ドラマであったりするので、確かにソダーバーグ向きのジャンルと言えなくもない。こりゃあヴィデオに録ったままで未見の「蒼い記憶」も早く見ないといけないな。


それからロバーツとペアを組む羽目になる、小さな法律事務所を経営するエドに扮するアルバート・フィニーが実にいい。「ドレッサー」、「ミラーズ・クロッシング」等で芸達者ぶりは重々承知していたが、明らかにロバーツの引き立て役であり、こういうちょっと引いたボケっぽい役でも巧いと思わせるのは流石。フィニーがコーエン兄弟の「ミラーズ・クロッシング」で壮大なオペラの曲に合わせてマシンガンを打ちまくるシーンは、そのシーンだけ録画して何度も繰り返して見るほど愛着を持ってます。


この映画、事実を元にしているそうで、いわゆるドキュドラマの範疇に入るのだが、流石にこれだけの人材を使っていると、通常のドキュドラマに在りがちのただ事実を再現してみましたといった感じの二流の作品にはならない。アメリカに住んでいるとTVで下らないドキュドラマを嫌というほど見せられるので、私はドキュドラマにははっきり言って食傷していたのだが、要するに、やはり作り手側の才能の問題なんだよなということをはっきりと認識させてくれた。


これがドキュドラマでなければなあ、ロバーツ、ソダーバーグ、フィニーの3人がまた組んだパート2を見てみたいと思うんだが。2作目はまったくのフィクションということで続編ができないだろうか。蛇足だが、作品中に本物のエリン・ブロコヴィッチが顔を出してます。映画が始まって間もなく、ロバーツと子供がごはんを食べに行くファミリー・レストランのウエイトレスがブロコヴィッチその人。彼女のネーム・タッグには、何と「ジュリア」と書かれている。こういう洒落のセンスは好きだなあ。ブロコヴィッチ本人はアメリカのどこにでもいる普通のおばさんのようにしか見えないけれど、何となく昔美人だったような面影を残していました。






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