Enemy at the Gates

スターリングラード  (2001年3月)

ロバート・デニーロとエドワード・バーンズ主演のアクション「15ミニッツ (15 Minutes)」を見に行くつもりでいたんだが、評があまりよくない。予告編では結構面白そうに見えたんだが、ほとんど貶されている。私はバーンズが結構気になっていて、きりっとした二枚目なだけに、それほど面白くもないラヴ・コメの監督としてよりも、俳優としての方がずっと映えると思っていた。その点、「プライベート・ライアン」で彼を戦士役として起用したスティーヴン・スピルバーグは流石に見る目がある。そうそう、そういう役の方が断然似合っている。


だから、いよいよ彼がハリウッド・アクションで主役を張る「15ミニッツ」に期待していたのだが、こんだけ貶されてんじゃなあ。しかもデニーロも、最近は昔ほどのカリスマはない。それなのに「ザ・ダイバー (Men of Honor)」とか「アドヴェンチャーズ・オブ・ロッキー・アンド・ブルウィンクル (The Adventures of Rocky and Bullwinkle)」とかむやみと出演作だけは多く、それもほとんどが自分で自分のパロディを演じているような、見る気にならないものばかり。最近の一番のヒットが「ミート・ザ・ペアレンツ」みたいなコメディかと思うと、昔の剃刀のようなデニーロにしびれた身としては、一抹の寂しさが伴う。とにかくちょっと肉のついたその体重をなんとかしてくれ。


それで結局「スターリングラード」である。ここでも一つ言わせてもらえれば、本編前にまたまたデニーロ主演のアクション映画「ザ・スコア (The Score)」の予告編があった。出過ぎだよ。これだからまたかよと思っちゃうんだよなあ。しかもこの後にもやっぱり今年中に刑事役で出ている作品が公開予定だという。このまま行くと、デニーロが出てるからこの映画パス、ということにもなりかねない。もうちょっと出演作を絞って有り難みを出してくれ。


さて、「スターリングラード」である。ジャン-ジャック・アノー監督、ジュード・ロウ主演の、第2次世界大戦時の、戦局が連合軍に傾く転機となったスターリングラード攻防戦を描く戦争巨篇ということだが、アノーって実は見るのは本当に久し振りである。ブラッド・ピット主演の「セブン・イヤーズ・イン・チベット」も見てないし、アイマックスの3-Dのやつも見てない。どのくらい見てないのかなと思って調べてみたら、「愛人/ラマン」以来だった。そんなに作品数がないとはいえ、これじゃアノーの前の作品に較べて演出が云々なんて言えない。


それだけじゃなく、ロウも出演作もほとんど見てない。「リプリー」なんてマット・デイモン演じる主人公を見たくなかったから見てないし、ついでに言うと、グゥイネス・パルトロウを見たくなかったので「恋に落ちたシェイクスピア」を見てないために、ジョゼフ・ファインズだって「エリザベス」以外ほとんど知らない。レイチェル・ワイズだって知ってるのは「ハムナプトラ」だけだ。なんだ、ほとんど誰の作品も見てないじゃないか。ということで、新鮮な気持ちで劇場に赴いた。


近くのマルチプレックスに行って驚いた。配給のパラマウント-マンダレイはこの映画をあまり推してないか、それとも徐々に公開劇場を増やす策なのか、通常なら全米で2,000館から3,000館程度の規模で公開される新規公開映画が、この映画に限ってはわりと大作であるのにもかかわらず1,000館程度の中規模公開となっている。しかし戦争アクションを見たかった潜在的観客は多かったようで、おかげで劇場が人で埋まっているのだ。この劇場にここまで人が入っているのを見たのは「X-メン」の時以来か。いや、それより人が入っているぞ。


そうか、皆期待しているんだな、というわけでなんとなくこちらも期待して見始めたのであるが、なんか、これ、スティーヴン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」の焼き直しに見える。確かにリアルな戦争描写なのだが、ほとんど皆「プライベート・ライアン」で見たようなものばかりだ。考えれば、主人公のロウ演じるスナイパー役も、「ライアン」で似たような役があった。極めつけは音楽だ。「スターリングラード」のテーマの出だしが、ジョン・ウィリアムズによる「シンドラーのリスト」のテーマにそっくりなのである。あの、タラティラタラリラタリラリラー、という耳に残る「シンドラー」のテーマそっくりな音楽が、上映中何度も流れる。その度に私はやめてくれと心の中で怒鳴っていた。音楽のジェイムズ・ホーナーは現在ハリウッドでも最も売れっ子の実力派であるはずなのだが、 なんでこんな盗作まがいの曲を作ったんだ。それがなんでOKになるんだ。不思議としか言い様がない。なんだなんだ、この映画はスピルバーグ作品の焼き直しか? その上音楽使い過ぎでうるさいし。


考えるに、わずかしか見ていないアノー作品のほとんどに、私は別に感心していないのだ。「人類創世」によくやってるなあと思い、「薔薇の名前」は映画館ですらほとんど暗くてよく見えない画面をあえて撮った姿勢によくやったと喝采を送り、「愛人/ラマン」だって奇麗な映像を堪能させてくれたけれども、すべて、だから結局何と思うのをどうしようもなかった。この人、まず映像が先に来て、人間は後回しになっているような気がする。私は見てないが「子熊物語」なんて人間一人も出てこない映画みたいだし、アイマックスの「愛と勇気の翼」は、もろエヴェレストが主人公なんだろ? 「セブン・イヤーズ・イン・チベット」だって似たようなものだったんじゃないか。


もちろんそれが悪いといってるわけじゃない。それならそれで楽しみ方はあるし、人間より自然の方が重要なんだと正面切って言われれば、思わずその通りと頷いてしまいそうな気もする。しかし今回は人間ドラマにもなっているんだろう? それにしては‥‥ま、ロウは頑張っていると思うし、エド・ハリスもいつもながら悪くない。ワイズもシリアスな役も結構こなすし、私は馬面のロン・パールマンも結構好きだ。人選は別に悪くない。ただしファインズだけは別である。軍人という役から見ると、「シンドラーのリスト」での兄貴のレイフ・ファインズの透明感のあるドイツ軍人の方が断然上だ。なんか、いたるところでスピルバーグの方が上だという話にばかりなるなあ。はっきり言って説教くさいスピルバーグの戦争映画だって私はあまり好きじゃないのだが、結局、「スターリングラード」はそこまでも及ばないということで落ち着きそうだ。


スナイパー同士の対決という構図は非常に面白く、特に工場跡で退路を断たれたロウとハリスとの我慢比べのシーンとか、西部劇まがいの最後の決闘シーンなんかはなかなか興奮させてくれたんだが、それでも、私にとっては戦争アクション、人間ドラマ、恋愛ロマンス、娯楽活劇のすべてで今イチという印象しか残らなかった。間口を広げすぎたんじゃないのか? ところで、話は変わるが、今回ファインズとワイズの経歴を見てて、二人ともベルナルド・ベルトリッチの「魅せられて」に出ていたことを知ってびっくりした。え? どこで? 二人ともまったく覚えていない。もしかしてファインズの役って、リヴ・タイラーの初体験の相手をしたあのにやけた男か? そうだったかも知れない。ワイズに至ってはまるっきり記憶にない。いずれにしても、「スターリングラード」より、ベルトリッチの「暗殺のオペラ」とか「1900年」の方が戦争映画としてずっと格上だった。また「1900年」見たいなあ。







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