End of Watch


エンド・オブ・ウォッチ  (2012年10月)

わりと評がよく、「ブロークバック・マウンテン (Brokeback Mountain)」以来女性受けするジェイク・ジレンホール主演の作品ということで、女房も私も見に行くというので、一緒に劇場に足を運ぶ。 

 

そしたらこの映画、かなり曲者だった。というのもこの作品、基本的にLAPDの警官であるブライアンが、自分たちの活動をヴィデオに収めようとしているという設定になっている。つまり、作品の大半はブライアンの手持ちのカメラ、もしくは制服に据え付けられたカメラがとらえた映像だ。 

 

警官なんて、始終動いているのが商売の職業の人間の、しかも撮影という点では素人の撮る映像なんて、はっきり言って見れたもんではない。むろん意図的にそれを模しているので、画面は大揺れ、ブレに弱い女房は真っ青になって、これはダメかも、途中退場か、と本気で思ったそうだ。後半なんとか持ち直して最後まで一緒に見たが、確かにあれは前の方で見てたらダメだったろうなと思った。こういうギミックは、やり過ぎると逆効果というのはわきまえてもらいたい。 

 

ブライアンとマイクはLAPDで最も危険なサウス・セントラルを担当する警官だ。ありとあらゆる凶悪犯罪が多発するこの地区では、時にパートナーの存在は命綱であり、二人は絶対的な信頼と友情で日々の職務をこなしていた。ブライアンは二人の職務を忠実に記録することを考え、手持ちカメラや制服に装着する小型カメラを利用して撮影を開始する‥‥


登場人物がヴィデオカメラを持ち、その人物が撮っている映像が作品となっているという建て前のこの構造で定着しているのは、近年では「パラノーマル・アクティビティ (Paranormal Activity)」シリーズだろう。しかしあれは結構カメラを固定して回しっぱなしというシーンが多く、「エンド・オブ・ウォッチ」のように動き回って目が回るという風にはならない。今回のようなタイプとしては、最近でやはり思い出すのは「クロニクル (Chronicle)」だ。素人による手持ちぶれぶれ撮影ということもそうなら、なんといってもその設定が後半や山場では忘れ去られ、あれ、では、これ、いったい誰が今撮っているの? という疑問を呈するところまで一緒だ。 

 

確かに話がドライヴしてくると誰が撮っているかなんて見る方も気にしなくなるということはあるが、しかし、それでも、一瞬、あれ、この視点は誰のもの? と我に返る。私としては、個人目線の撮影としたからには、最初の方便だけでなく、最後までそれを貫き通してもらいたい。その点、今にして思えば、「クローバーフィールド (Cloverfield)」は本当によく頑張ったんだなと思う。 

 

とまあ、最初に苦言を一言述べたが、では作品が面白くないかというと、そんなことはない。滅法面白い。この映画の基本的は発想は、もちろん近年廃れることのない個人目線のホラー作品も関係しているとは思うが、本当に基本となっているのは、近年義務化されつつある警官の小型ヴィデオカメラの装着だろう。 

 

あんまり嬉しくないことだが、権力の具現である警察による過度の暴力が、近年後を絶たない。忘れた頃にまた警察による暴力、という事件が必ず起きる。それでそういうものに対する抑止力、あるいは事実を客観的に記録する装置として、小型ヴィデオカメラがパトカーに設置されていたり、警官の制服に装着されていたりする。「ワールズ・ワイルディスト・ポリス・ヴィデオス (World’s Wildest Police Videos)」にとらえられているカー・チェイスのヴィデオ等は、それらの記録を利用したものだ。 

 

ほとんど第一人称視点のそれらのヴィデオは、画質という点では特に見られたものではないが、臨場感という点では無類だ。なんてったって今現場で容疑者と相対し、時に格闘する警官の視点から撮られているのだから、それも当然だ。あるいはカー・チェイスで、逃げるクルマを追うパトカーから撮った映像がそのまま流れる。臨場感という点ではこれ以上のものはあるまい。これで一本の作品が作れたら。 

 

という経緯で「エンド・オブ・ウォッチ」が撮られたのは、ほぼ間違いないと思う。おかげででき上がった作品は、確かに一人称視点の臨場感たっぷりのものになった。時々カメラが動き回り過ぎて目眩を起こしそうになるのも、これまた確かなのだが。 

 

主人公ブライアンを演じるのがジェイク・ジレンホールで、相方のマイクをマイケル・ピーナが演じている。既にハリウッドで確固たる地位を占めているジレンホールはともかく、ピーナが今回、時にジレンホールを食っていると評判だ。実際、かなり強烈な印象を残す。ブライアンのフィアンセ、ジャネットを演じるのが「マイレージ、マイライフ (Up in the Air)」のアナ・ケンドリック、マイクの妻ギャビーにナタリー・マルチネスが扮している。マルチネスは一昨年、準主演級のABCの「デトロイト 1-8-7 (Detroit 1-8-7)」が短命に終わっている。調べてみたら2006年にマイ・ネットワークTVが毎夜編成したソープの「ファッション・ハウス (Fashion House)」の準主人公だった。彼女だったのか。 

 

演出は「フェイク シティ ある男のルール(Street Kings)」、「S.W.A.T.」、「トレーニング デイ(Training Day)」等、これまでに脚本を書いたり演出したほとんどの作品でLA、端的にサウス・セントラルを舞台にしているデイヴィッド・エアー。当然自身もそこの出身である由。それにしてもサウス・セントラルって、どんな作品で見ても危なっかしい街という印象が強いが、「エンド・オブ・ウォッチ」もその例に漏れない。というか、思っていた以上にさらに危なさそうだ。アメリカでも1、2を争う平均寿命の短い街であるのは間違いないだろう。 









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ブライアン (ジェイク・ジレンホール) とマイク (マイケル・ピーナ) はパートナーとして一緒に行動するLAPDの警官だ。LAでも最も危険な地区を受け持つ二人はお互い命を預け合っていると言ってもよく、絶対的な信頼で結ばれていた。マイクには妻のギャビー (ナタリー・マルチネス) がおり、間もなく第一子が誕生する。ブライアンもジャネット (アナ・ケンドリック) と付き合っており、やがては結婚する予定だった。ブライアンは捜査活動の模様を録画しようと思い立つが、同僚のヴァン・ハウザー (デイヴィッド・ハーバー) はそれが気に入らない‥‥


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