ER   ER緊急救命室

放送局: NBC

プレミア放送日: 9/19/1994 (Mon) 21:00-23:00

最終回放送日: 4/2/2009 (Thu) 21:00-23:00

製作: コンスタント・C・プロダクションズ、ジョン・ウェルズ・プロダクションズ、アンブリン・エンタテインメント、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: マイケル・クライトン、ジョン・ウェルズ、クリストファー・チュラック、ウェンディ・スペンス

脚本: マイケル・クライトン、デイヴィッド・ザベル、ジョー・サックス、ジョン・ウェルズ

音楽: マーティ・ダヴィッチ

出演: ノア・ワイリ (ジョン・カーター)、ローラ・イネス (ケリー・ウィーヴァー)、モーラ・ティアニー (アビー・ロックハート)、ゴラン・ヴィシュニック (ルカ・コヴァッチュ)、アンソニー・エドワーズ (マーク・グリーン)、エリック・ラ・サル (ピーター・ベントン)、アレックス・キングストン (エリザベス・コーデイ)、シェリー・ストリングフィールド (スーザン・ルイス)、メカイ・ファイファー (グレゴリー・プラット)、ジュリアナ・マーギュリース (キャロル・ハサウェイ)、パーミンダー・ナグラ (ニーラ・ラスゴトラ)、リンダ・カルデリーニ (サム・タガート)、ポール・マクレイン (ロバート・ロマノ)、ミン-ナ (ジン-メイ・チェン)、スコット・グライムス (アーチー・モリス)、ジョージ・クルーニー (ダグ・ロス)、グロリア・ルーベン (ジーニー・ブーレ)


物語: シカゴの郡総合病院の一日は、今日もまた殺人的な忙しさの中を医師、看護士が休む間もなく慌しく働いている。待ちに待ったカーター念願の恵まれない人々のためのカーター・センターも無事オープンにこぎつけ、オープン・セレモニーではかつてカーターと一緒に仕事をした同僚や知人の面々が、次々とお祝いに現れるのだった‥‥


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何やかや言いつつもNBCの長寿ドラマ「ER」は、私が見た回数が最も多いドラマだ。1994年に始まり今回最終回を迎えるまで、15シーズンという長きにわたって放送され、そのエピソード数は332回を数える。中盤から後半にかけて一時見なくなった時期があるが、それでも90年代後半は、「ER」とABCの「NYPDブルー (NYPD Blue)」という二大ドラマが私のTV視聴の中核を成していたと言っても過言ではない。革新性、クリエイティヴィティ、そして何よりも面白いストーリーという点で、この2本を超える番組はなかった。


しかし、長く続いたドラマにはつきものだが、どうしても途中で中だるみというか、その番組が人気のあった所以のエッジィなクリエイティヴィティやストーリー展開といったものの、レヴェルの高さを維持することが難しくなる。「NYPDブルー」にもそれはあったし、当然「ER」にもあった。


私が一時期「ER」を見なくなったのはまさしくそういう時期で、だいたいその辺りから、かつては並ぶもののない人気のあった番組の視聴者数が、下降線を辿り始める。特に番組のオリジナル・キャストが番組を降り始めた、第6-第8シーズン辺りからその傾向は顕著になる。最盛期は4,800万人いた番組視聴者が、この時期には既に半分となり、最終シーズンでは700-800万視聴者程度しか番組を見なくなっていた。


「ER」は少なくとも4、5年前に最終回を迎えているべきだったというのはよく聞く話だ。私もそう思う。しかし、かつて一時期を画した、絶大なる人気を擁していた番組を簡単に切ることは、非情な点では定評のあるネットワークでもできなかった。もしかしたらまた人気が復活するかもという淡い期待もなきにしもあらずだったろう。それでも、いつかは番組は最終回を迎える。「ER」最終回は、まずこの日8時から1時間の総集編から始まった。過去の名シーン、印象的なシーンを抜粋し、出演者にインタヴュウして過去を振り返る。そして番組最終回は、9時から2時間枠で放送された。


因みに私が覚えている印象的なシーンやエピソードを挙げると、まずそもそものシリーズ・プレミア・エピソードがある。「ブルー」よろしく手持ちのステディ・カムを多用してERの慌ただしい雰囲気を再現したエピソードの印象はやはり大きかった。最後のシーンで、一日の仕事を終えたドクター・グリーンが仮眠室で横になって灯りを消した次の瞬間、灯りが点いて時間だからと起こされ、寝た気がまったくしないドクター・グリーンが、わお、と半分呆け、半分驚いた顔をしたのがこのエピソードの終わりのシーンだったのをいまだによく覚えている。


ここではまだインターンのカーターは、手術室で患者の血を見て失神するし、熱血小児科医のドクター・ロスは、子供を虐待する親の背中に蹴り入れて足跡つける。正義漢でありながら女性関係ではだらしないという人物像が新鮮だったが、それをうまく造形したジョージ・クルーニーがあってこそだ。とはいえそのクルーニーの正義漢ぶりが最大限に発揮され、番組としては最多の4,800万人視聴者を獲得した第2シーズン・プレミアのエピソードは、私は見逃しているのだった。話だけはよく聞いたからどういう内容かは知っているというところがまたツライ。


見逃したというと、同じく印象的「ER」エピソードとして多くの人が上位に挙げる率の高い、ルーシーが精神に異常のある患者に刺されて死んだエピソードも私は見ていないのだった。この2本は非常に悔やまれる。この時ルーシーを刺した患者こそ、後にCBSの「ナンバーズ (Numb3rs)」で今度は天才数学者に扮するデイヴィッド・クラムホルツなのだった。これまた話にはよく聞くので内容自体はよく知っており、改めて見る気がしない。結局どれだけ録画媒体が普及しようと、私にとってはTVもなま物の一種で、放送されたその時に見ていないと、後から見直すということをあまりしない。


視覚的に強烈だったのは、ヘリコプタのローターで切断され飛んでいったドクター・ロマノの腕、およびそれを手術でくっつけ直すというもので、そんなことが可能だとは知らなかった (結局ドクター・ロマノはその後義手になった。) さらに彼は今度はヘリコプタが落ちてくるという事故に巻き込まれて命を落とす。よくよくヘリコプタと相性の悪い医者だ。


命を落とすと言えば、番組では患者だけでなく、医者も何人か死んでいる。その印象度では上述のルーシーもドクター・ロマノも強烈だしドクター・プラットもいたし、ガントほどざわざわと毛が立つホラー色満点の死に方をした者もなかった。しかし、やはりここはガンにやられだんだんと身体が蝕まれ、そして死んだドクター・グリーンが最も後々まで記憶に残る。ドクター・グリーンの死は、そこで番組に一つの区切りをつけたと言ってもよく、私はその次のシーズンから「ER」をあまり見なくなった。


病院の中で話が展開しない、番組の中では一種のサイド・エピソードっぽい話も、逆にいつもと乗りが違うため新鮮で、結構印象に残ってたりする。病院内での行き過ぎた行状の罰として、ドクターや看護士が何人か揃って講習会のようなところへ行かされ、そこでいつまでも来ない講師を待ちながら延々とバカ話に興じていたエピソードだとか、キャロルが外のデリで買い物をしていて強盗に巻き込まれた (強盗犯は名が売れる前のユワン・マグレガーだった) エピソードだとか、ドクター・ロスとドクター・グリーンが、二人でアメリカの荒野を旅するロード・ムーヴィっぽい道行きの話だとか、たぶん一般的にはどちらかというと不評だと思えるそれらのエピソードも、個人的にはわりと好きだったりする。


さて「ER」が今シーズン限りということは前々から発表になっていたので、私もかつては毎週のように見ていたドラマでもあることだし、最後のシーズンはまた以前のようにちゃんと見るかと思って、今シーズンはわりと真面目にチェックしていた。最終シーズンということで、オリジナル・キャストの面々や途中参加/退場の主要キャストの多くがまた顔を出すということが盛んに宣伝されており、それらのメンツが今度はいったいどういう展開で話に絡んでくるのか、やはり興味はある。


たとえば、既にこの世の人ではないドクター・グリーンも登場するらしいが、果たしてそれはどういうシチュエイションなのか。ドクター・ロスことジョージ・クルーニーは本当に姿を見せるのか。彼を追って去っていったキャロルは? ドクター・ベントンは? そういえばドクター・ルイスはいったん番組を去ってまた復帰してきたが、昨シーズンはまだいたんだっけ? ルイスを演じるシェリー・ストリングフィールドは、当時私が熱心に視聴していた「NYPDブルー」と、その翌年から始まった「ER」で、その両方のオリジナル・キャストという金字塔を打ち立てている。


なんせ「ブルー」では、翌年の「ER」のジョージ・クルーニーとタメを張るほどの人気大暴発となったデイヴィッド・カルーソの元奥さん役で、これでもし「ER」でもクルーニーと絡む役だったりしたら、アメリカ中の女性から妬まれたに違いない。「ER」に移ってからも、しばらくして辞めてまた「ブルー」に戻り、そしてそこも辞めてまた「ER」に戻ることを繰り返したという、ネットワークの壁を超えた掟破りの仁義なき振る舞いが、なぜ彼女にだけは許されたのかまるで謎だ。



(注) 以下、最終シーズンのストーリー展開に言及しています。


さて、その最終シーズン、軸となるのは帰ってきたカーターの動向だ。アフリカに去ってそこで医療業務に従事していたカーターは、激務とかつてのドラッグ使用の後遺症で腎臓に障害が起きたために、腎臓移植をするためアメリカに、かつての職場に、半分は患者、半分は医者という微妙な立場で帰ってくる。


それにしてもやはり、カーターはドクター・カーターじゃなくて、いくら出世しても役職なしのカーター呼び捨てが今でもしっくり来るんだが、それでも、彼も大人になった。15年前の番組のプレミア・エピソードで、インターンとして手術に立ち会って、血を見て失神した青二才が、今では自分はベッドに横になりながらも、新米医師にアドヴァイスしたり指示を出す。成長したもんだ。「ブルー」のシポウィッツ刑事もそうだったが、こういう長く続いた番組の場合、期せずして登場人物の成長の記録にもなっており、後から振り返るとまた違った興趣がある。


最終的にカーターは現在ではドクター・ベントンのいる病院で腎臓移植手術を受ける。実はこの時のエピソード「オールド・タイムス (Old Times)」では、噂されていたクルーニーとジュリアナ・マーギュリースがカップルとして再び顔を出す。いまだに続いていたんだな、彼ら。カーターに移植される腎臓は、実はシアトルのドクター・ロスが勤める病院で死んだ患者のもので、その腎臓を摘出した医者こそドクター・ロスだった。むろんそのことをカーターは知らない。臓器移植は関係者の匿名が原則だからだ。


このエピソードで死んだ男の子の母親を演じているのがスーザン・サランドンで、「告発のとき (In the Valley of Elah)」で、息子を亡くした時に見せた印象的な演技をここでも再現している。息子の心臓はサムとニーラの手によってシカゴに運ばれるが、もちろん彼女らは腎臓やドクター・ロスや、カーターのことなどまるで知らず、空港では搭乗予定だった飛行機を逃がしてしまい、右往左往する。そして結局、心臓を移植した方の患者は、労むなしく死亡してしまうのだ。


このエピソードは作り方がうまかった。全盛時の「ER」の意外性やドラマは確かにこんな感じだった。ドクター・ロスやキャロルは、あざとくない感じでちゃんと顔を出しながら印象を残し、別の病院ではドクター・ベントンがいまだに皮肉っぽい、口数の多いうるさ型を維持しながらちゃんと面倒見のよさも見せる。昔のキャストが、ドクターたちが、見えない手によってすべて連鎖していながら話の作りに無理がない。巧い。最後の数シーズンでベストのエピソードだろう。


ドクター・グリーンの場合は、最終シーズンのレギュラーであるアンジェラ・バセット演じるドクター・バンフィールドの恩師という役で、彼女の回想シーンに登場した。ドクター・グリーンが、死なせてしまった妊婦にいつまでも心臓マッサージをし続けるエピソードは、番組の初期の頃の最も印象的なエピソードの一つとしていまだに記憶に残っているが、ドクター・バンフィールドも子供を亡くしており、それらのエピソードを共鳴させている。


最終シーズンは他にも準レギュラーのウィリアム・H・メイシーも顔を出した。彼はERに運ばれてきた、ERのそもそもの生みの親の付き添いとしてやってくる。そうすると、ドクター・モリスがこの人は伝説なんだとわざわざ説明したりする。ドクター・モリスはカーターがERに戻ってきた時もこの人は伝説なんだといちいち解説入れてたりしていた。その彼も、最初はまったく使えない医者だったが今ではERの中心人物だ。他にも最終シーズンは、アーネスト・ボーグナインが長年連れ添った妻を亡くすというシチュエイションで登場してくるなど、全体的に過去を振り返るというような視点や印象が濃厚だった。


そして最終回は、ドクター・ルイス、ドクター・ウィーヴァー、ドクター・コーデイ、さらにカーターの元妻ケム (サンディ・ニュートン) もやってきて、カーターが設立に奔走した恵まれない人々のための病院施設、カーター・センターのオープンを祝う。こういう懐かしの顔を見るのもいいが、しかし一番印象的なのは、ドクター・ベントンの聾唖の息子や、ドクター・グリーンの忘れ形見のレイチェルの成長した姿だ。レイチェルは、父のいた職場に医者志望として姿を見せるのだが、一時ぐれかけたレイチェルがまあ妙齢の美形になっていて驚く。


また、最終回は新人インターンのジュリアがフィーチャーされ、彼女が慣れない職場で右往左往する様が描かれる。出産時に大量の出血を見た妊婦の血を止めるために、カーターがジュリアに妊婦の膣の中に手を突っ込んで子宮を押さえて止血しろという。やるしかないと膣の中に手どころか腕を突っ込んだままのジュリアが、妊婦もろともストレッチャーで移動していく描写はキョーレツだった。要するに、15年前にカーターが体験したことをここでまたジュリアが繰り返している。あまりの想像を超える激務に果たして自分が勤まるかと疑問を感じ始めるジュリア。そのジュリアに、かつて同じ道を辿ったカーターが今度は一人前の医師として指示と励ましを与える。歴史は繰り返し人は成長する。思えば遠くまで来たもんだ。


そしてラスト・シーンは、ERのスタッフの面々が建物の外に勢揃いして、大きな事件が起きて運ばれてくる怪我人たちを待っているというもので、そのままカメラが引いていって幕となる。「NYPDブルー」で、最後に執務室に一人残って書き物をしているアンディをとらえたカメラがやはり後ろに引いていって幕となったのを思い出した。この中で医者としてはたった一人のオリジナル・メンバーであるカーターが、一人、自分だけは白衣をまとわず皆から一歩距離を隔てて佇むように立っているのが印象的。彼はもう、指導者ではあってもERの仲間とは必ずしも言えないのだ。
























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