Duets   デュエッツ

放送局: ABC

プレミア放送日: 5/24/2012 (Thu) 20:00-22:00

製作: キープ・コーム・アンド・キャリー・オン・プロダクションズ

製作総指揮: ロバート・ディートン、チャールズ・ウォクター

ジャッジ/メンター: ジョン・レジェンド、ケリー・クラークソン、ジェニファー・ネトルズ、ロビン・シック

ホスト: クダス


内容: 勝ち抜きのデュエット・シンギング・リアリティ・ショウ。


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Duets


デュエッツ   ★★

一昨年から昨年にかけて、NBCが「ザ・シング-オフ (The Sing-Off)」「ザ・ヴォイス (The Voice)」で、それまでFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」が一人勝ちしていたシンギング・コンペティション・リアリティ市場に風穴を開けて以来、またぞろネットワークがこのジャンルに注目し始めた。特に現在、「ザ・バチェラー (The Bachelor)」「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ (Dancing with the Stars)」等の勝ち抜きリアリティが局を代表する番組となっているABCが、特にこのジャンルに注目している。


とはいえ、単純に歌の優劣を競うという根幹部分には手の入れようがないシンギング・コンペティションは、他の番組との差別化が容易ではない。「シング-オフ」はそれをグループ・ア・カペラにし、「ヴォイス」はメンター/ジャッジが参加者と同列に立ってチーム化して優劣を競うなど、新しいギミックを取り入れることでジャンルに新風を吹き込んで再活性化させた。


今回ABCが投入した「デュエッツ」は、読んで字のごとく、デュエットによる歌の優劣で参加者を篩いにかける。参加者同士がデュエットするのではなく、「ヴォイス」で時々やるようにメンター兼ジャッジと参加者がチームを組んで歌い、視聴者投票によって参加者を絞っていくというのがポイントだ。


全米から集められた参加者は8名で、ジャッジはジョン・レジェンド、ケリー・クラークソン、ジェニファー・ネトルズ、ロビン・シックの4人。この4人がそれぞれ二人ずつを選んでメンターとして指導すると共に、一緒に歌う。歌ったジャッジ以外の3人がパフォーマンスを評価するという寸法だ。


最初ジャッジの4人の人選を聞いた時には、思わずうーん、と唸った。こないだ、番組とは関係なくたまたまレジェンドの「ワンス・アゲイン (Once Again)」を聴いてて、こいつはやっぱり才能あるなあと感心していた矢先だったので、まずレジェンドはまったく問題はない。とはいえ番組放送が最初に発表になった時は、ジャッジはレジェンドではなく、ライオネル・リッチーだった。いったいどういう経緯でいきなり変更になったんだろう。


一方、「アメリカン・アイドル」初代優勝者のクラークソンは、確かに今ではヴェテランという感じはするが、これまで特にデュエットを歌ってきたわけではない。シックも、わざわざこういうところに呼ばれて人に教えるほどのキャリアの持ち主かという気もする。「ジ・エヴォリューション・オブ・ロビン・シック (The Revolution of Robin Thick)」は、確かに格好いいとは思うが。


カントリー・シンガーのネトルズの場合、今回初めて顔と名前が一致した。なんせカントリー・ミュージックだと音が右から左に抜けていく私の場合、シンガーの顔を覚えきれない。最近ではどうしてもシュガーランドとレディ・アンテベラムを混同して覚えられず、何度見ても間違えるので、もういいやと思っていた。シュガーランドは男一人女一人、レディ・アンテベラムは男二人女一人と構成も違うのだが、なぜだかどうしても頭に残らない。


それがさすがに今回、番組でこれだけ見せられると、少なくともネトルズの顔はやっと覚えることができた。しかもネトルズは自分の歌の実力だけでなく、メンターとしても4人の中で最もうまい。「ヴォイス」でも、実は教え方が最もうまいのは、カントリー・シンガーのブレイク・シェルトンだった。カントリー・シンガーって、伝統的に人に教えるのがうまいとかそんなのがあるのか。日本でも歌唱力だけをとると、演歌歌手ってのは非常にうまかったりする。伝統の厚みってやつか。


4人のメンターはそれぞれ二人ずつ、計8人の弟子を得て指導するが、その前にまず、メンターが集められた候補者の中から二人を選び出すという最初の篩いがある。この時点で既に上手な奴を選んであるから、当然みなそこそこうまい。ただしポイントはあくまでもデュエットという点にあるから、素人目では、彼よりはこちらの方がうまいんじゃないかと思える場合でも、メンターはそうじゃない方を選んだりする。要するに個人としてどちらがうまいかではなく、自分の声と重ねて歌った場合に、よりよく響く声の持ち主の方を選ぶのだ。思わずなるほどと納得する。


本選になると、最初の方では多くをメンターの持ち歌を参加者とのデュエットで歌っていたが、それは最初だけで、すぐに様々なジャンルの曲を歌うようになった。メンターの持ち歌だけでは当然足りないだろうし、最初だけちょっとメンター自身の歌を歌うことで、よいしょして持ち上げるみたいな意味合いもあっただろう。


それはいいが、皆様々なジャンルの歌を歌うようになると、実は、そこからが番組があまり面白くなくなっていくのだ。つまり、世の中に星の数ほど曲はあれど、最初からデュエット用に作られた曲は限られている。そういう曲を探すとかなり古い時代まで遡らざるを得ないが、そうやってせっかく探し出した曲は、もう若いとは言えない私の世代ですら古くて知らなかったりする。


あるいは、新しいヒット曲をデュエット用にアレンジしたりするが、デュエット用のアレンジというのはたぶんに難しいんだろう、今イチのれない、そんなに面白くないと思う場合の方が多い。上手は上手だと思うんだが、それと面白いと思うかは別問題だ。うーん、これならやはりもっと思いきり斬新にアレンジして歌う「アイドル」や「ヴォイス」の方が面白い。あるいは、デュエットではなく多人数でハモって見せる「シング-オフ」の方が盛り上がる。


また、番組進行も、メンターがそれぞれジャッジして得点を出し、順位を決めるのだが、順位は出てもどのジャッジが何点をつけ、誰が何点獲得したか、なんて詳細は出ない。ただ1位は誰、最下位は誰、と誰かが歌う度に順位が決まっていく。しかもその上、最初の数回はそれで最下位になったとしても別に追放されるわけでもなく、次の回ではまた一からやり直しで、どういう趣旨でこういう進行にしたのかわかりかねる。実際に視聴者投票で最下位の者が追放され始めたのは番組が始まって4、5回めくらいからだ。


私たち夫婦は歌もの番組好きで、この手の勝ち抜きリアリティがあるとだいたい見ているのだが、今回は、自分も合唱をやっており、私よりもこのジャンル好きなうちの女房の方が、先に番組に飽きた。確かに、1時間、もしくは2時間番組につき合って、面白いと思える曲が1曲か2曲しかなかったら、次も見ようという気にはあまりならないだろう。私も後の方のエピソードは、リモート片手にパフォーマンスの部分だけを見ていた。


それでも、何回かは印象的なパフォーマンスはあり、特にネトルズが選んだパフォーマーの二人、ジョンとジェイロームは、勝つのはこの二人のうちのどちらかだろうと早い段階で思わせ、実際に優勝したのはジェイロームだった。


だいたいこの段階では既に明らかになっていたが、たとえクラークソンがシングルで何万枚売り上げようと、デュエットに限ればネトルズの方が何枚も上手だ。なんとなればネトルズは元々ほとんどすべての曲をデュエットやトリオで歌っており、人との合わせ方の年季の入り方がクラークソンとは比較にならない。ネトルズの歌を聴いていると、どうやったら相手の力をうまく引き出し、それを有効に使うことで自分もまたうまく歌えるかということを知り尽くしているという感じが濃厚にする。クラークソンには、こういう駆け引きはまだ無理だ。


ただしクラークソンは、そのため、自分との相性というよりも、単に相手の声の質や今後の成長を考えてパートナーを選んだという印象が濃厚で、つまり彼女が選んだまだ10代のジェイソンは、そういう考え方を如実に反映していた。ジェイソンは毎回ジャッジの判断ではいつも最下位か下の方だったのに、結局最終回まで残ったのは、彼が歌う度にうまくなっていったのが見ててわかったからで、当然そこが評価された。ネトルズなら最初からジェイソンをパートナーに選ぼうとは考えなかったろう。


番組としてはそれなりに考えており、なかなかと思える点もあったが、歌番組としてみると、「デュエッツ」は明らかに「アイドル」や「ヴォイス」の面白さには到達できていない。視聴率もそのことを証明している。これはたぶん「デュエッツ」に第2シーズンはないな。









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