Drive


ドライヴ  (2011年9月)

ガレージで働く青年 (ライアン・ゴズリング) は、ボスのシャノン (ブライアン・クランストン) と共にハリウッドでアクション映画のスタント・ドライヴァーとしても働き、さらに裏の副業として、シャノンには内緒で強盗等の雇われドライヴァーもしていた。シャノンは青年と共に日の当たる世界でカー・レースを夢見ており、スポンサーのバーニー (アルバート・ブルックス) が青年の実力を認めたことで、歯車が動き出す。一方、青年はアパートの同じ階の女性アイリーン (キャリー・マリガン) と近しくなる。彼女は夫のスタンダード (オスカー・アイザックス) が刑務所入りしており、その間、幼い息子となんとか家計をやりくりしていた。しかし仮出所してきたスタンダードはギャングに大きな借りがあり、それを返済しないことには普通の生活には到底戻れなかった。青年はアイリーンを助けるため、最後にもう一度、押し込み強盗のドライヴァー役を引き受ける‥‥


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「ドライヴ」は、アクション映画ながらかなり評がいい。評に関係なく、カー・アクションなら「ワイルド・スピード (Fast & Furious)」シリーズを例に引くまでもなく一通り気になるこちらとしてはとにかく見る気でいたが、しかしカー・アクション主体で批評家が挙って誉めるなんて作品は最近聞いたことがないので、さらに気になる。


「ドライヴ」は、副業で雇われドライヴァーとしても働く若い男を描く話だ。あらすじを書こうとして名が思い出せず、確かクランストン演じる青年のボスは、彼を「キッド」と呼んでたなということしか覚えていない。 で、調べてみると、ライアン・ゴズリング演じる主人公は、ただ「ドライヴァー」とだけ記されてある。彼には名がないのだ。


主人公に名がないというと、最近では思い出すのは昨年のロマン・ポランスキーの「ザ・ゴースト・ライター (The Ghost Writer)」だ。他にも「母なる証明 (Mother)」「ワンス (Once)」なんてのがあった。「ゴースト・ライター」、「母なる証明」は、役職、社会的地位が主人公を指している。そのことを描いているのだ。一方 「ワンス」では主人公はカップルの二人で、いつの時代にでもある名もなき若者たちの恋愛、青春を描くという含みがある。


「ドライヴ」の場合は、主人公の職業はドライヴァーであり、その仕事、ドライヴが作品名だ。やはり仕事が彼という存在を意味しているタイトルと言える。ではあ るが、「ドライヴ」は、実はタイトルから予想するほどには特にカー・チェイス主体の作品ではない。冒頭のカー・アクションはなかなか面白いが、それとて最も手に汗握らせるのは、カー・アクションが始まる前の、警察のパトロール・カーにそれと気づかれないように一般車の振りをしているところで、それがばれた途端に一転してエンジン全開で逃げるという、その辺りの呼吸にある。


スティーヴ・マックイーンの「ブリット (Bullitt)」が最もよく証明しているように、カー・アクションが最も興奮させるのは、もちろん高速のカー・チェイスもそうだが、普通に走っている、 あるいは停まっていたりのろのろ運転だったりするクルマが、ある瞬間からアクセルべた踏みエンジン全開になるという、その瞬間もまたその一つだ。


要するにその緩急の落差が大きければ大きいほどエキサイトさせる。クリント・イーストウッドの「ダーティ・ハリー (Dirty Harry)」でイーストウッド自身や彼の運転するクルマが実はそれほどスピードがあるわけではないのにもかかわらず、それでもアクション満載という印象を見る者に与えるのは、むろん常態からいざアクションになった時との差の大きさから来ている。


その次のカー・アクションは中盤のチェイスで、これもなかなか悪くないが、この2つのシークエンス以外では、カー・アクションはスタント・ドライヴァーでもある青年が映画撮影で事故ってみせるシーンと、レース場を走ってみせるという、二つの短いシーンくらいしかない。「ドライヴ」というわりには、それほどカー・アクションがあるわけではないのだ。


むしろ印象に残るのは突発するヴァイオレンス描写で、近年、HBOの「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」から過激さが増したこの種の突発するヴァイオレンスの描き方は、年々派手に、より迫力を増している。いきなり撃たれて脳みそ飛び散っ たり、どちらかというと物静かな青年がキレたり、ちょっと心臓に悪いようなヴァイオレンス・シーンがかなりある。


一方でそれらをスタイリッシュに描くことにも気を使っており、特に、わりと固定で対象をとらえるショットを必要以上に長く撮るところが随所にある。あるいは、あるシーンをこう撮りたいと思うと、必然性や話の流れを無視しても構図の方を重視している。


しかし不思議なのは、この作品、わりと誉められているのだが、それなのに昨年、なんでアントン・コービン演出ジョージ・クルーニー主演の「ラスト・ターゲッ ト (The American)」が、あんなに貶された上に派手にこけたのかがよくわからない。「ドライヴ」も「ラスト・ターゲット」も、同様に社会不適合の男が主人公のスタイリッシュなノワール・アクションなのだ。両方ともヨーロッパ人演出家によるヴィジュアル重視の作品で、主人公は両方とも悪事、というか裏の社会に片足突っ込んでいる。その主人公が自分が住む世界とは異なる世界に住む女性に惹かれる。同じ構造じゃないか。賭けてもいいが「ドライヴ」主演のライア ン・ゴズリングも、やがてクルーニーみたいな男前俳優としてハリウッドを代表するようになるぞ。実際この二人、やがて公開の「ジ・アイズ・オブ・マーチ (The Ides of March)」でも共演している。


演出はデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン で、やっぱり「ラスト・ターゲット」のアントン・コービンがオランダ人であるのと同様、ヨーロッパだ。ついでに言うと、上に挙げた主人公が名無しの作品 も、ポランスキーはポーランド人、「母」のボン・ジュノは韓国人、「ワンス」のジョン・カーニーはアイリッシュと、見事なくらいアメリカがない。本当は 「ラスト・ターゲット」の主人公も名無しで行きたかったんだろうが、原作つきだし、クルーニーだし、そういうわけにもいかなかったんだろう。


「ドライヴ」主演のゴズリングは「アイズ・オブ・マーチ」以外にも、つい最近「ラブ・アゲイン (Crazy , Stupid, Love)」が公開と、ついにブレイクという感じ。こないだ、ニューヨークの路上で喧嘩の仲裁に入ったところを一般市民のケータイがとらえてそれがまた話題になるなど、ブレイクする時は何やっても話題になる。


相手役のアイリーンに扮するキャリー・マリガンは、ただただもう可愛い。たとえ夫が刑務所にいようと、ゴズリングが惚れるわけがわかる。今回悪玉役のアルバート・ブルックスは、コメディアンという印象が定着しているだけに、逆に今回のキレ具合は意外で印象的。同様に、今回落ち目のシャノンを演じるブライアン・クランストンは、近年AMCの「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」でキレていく男を熱演中だが、彼だって私が名を知ったのはFOXのコメディ、「マルコム・イン・ザ・ミドル (Malcolm in the Middle)」だった。コメディアンというのはいつも人を笑わせるという印象があるだけに、逆にキレるとよけいに怖い。








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