Dreamcatcher


ドリームキャッチャー  (2003年4月)

ローレンス・カスダンが初めてこの種の超常現象ドラマを撮るということで気になっていたんだが、いやあ叩かれている。新聞、雑誌、TV、ついでに言えば知人の口コミまで、誰も誉めない。誉めないというのはまだいい方で、積極的に貶す意見の方が多い。そんなに面白くないのだろうか。予告編を見た限りではなかなか期待させてくれたんだが。


ヘンリー (トーマス・ジェイン)、ジョーンジー (デミアン・ルイス)、ピート (ティモシー・オリファント)、ビーヴァー (ジェイソン・リー) の幼馴染みの4人は、少年時代にいじめられっ子のダディッツを助けたことから特殊な能力を持つようになっていた。成長した4人が週末を雪山で過ごして羽目を外していたところ、正体の知れない太った中年男が山小屋の前を通りかかる。男は憔悴しており、何かわけのわからない病気にかかっているように見えた。さらに買い出しに出かけたヘンリーとピートも、雪山に人柱のように埋まっていた女性を避けようとして車を横転させてしまう。一方、山の獣は先を争って山から脱出しようとしており、さらには軍のヘリコプタが頭上を飛び回る。彼らの知らないところで、何か想像を絶する事態が出来しようとしていた‥‥


久しくカスダンの名を聞いてないなと思っていたら、99年公開の前作「マムフォード (Mumford)」以来。しかもこの映画、徹底的に無視されて、私は公開されたのにも気づかず、あれ、と思った時には既に劇場から消えていた。実は評価は割れていたとはいえ、わりと面白かったという人間もいたので、是非見たいと思っていたんだが。というわけで、カスダン作品はその前に公開された95年の「フレンチ・キス」以来ということになる。


カスダンって、わりと名前が売れているわりにはそれほど大ヒットしたという作品はない。たぶん興行的に最も成功したのは、ケヴィン・コスナーが出演した西部劇の「シルバラード」じゃないかと思うのだが、そのコスナーをもう一度起用して撮った「ワイアット・アープ」は興行的には惨敗だったし、となると、やはり代表作はデビュー作の「白いドレスの女」か「偶然の旅行者」ということになるか。あれ、ふーん、ウィリアム・ハートはその両方に主演しているな、でもハートも最近名前はあまり聞かないな、などとつまらないことをつらつらと考えながら見に行った。


「シルバラード」みたいなアクション、「白いドレスの女」なんてスリラーを撮っているとはいえ、カスダンは、やはり、スティーブン・キング作品とはあまり結びつかない。しかも「ドリームキャッチャー」は「スタンド・バイ・ミー」みたいな友情ものの比重が高いとはいえ、基本的にはSF、しかもエイリアン侵略ものである。さらに、それに軍関係者の権力争いが絡み、後半は一気に何がなんだかよくわからない怒濤の展開を見せる。


要するにこの映画、なんでもかんでも詰め込み過ぎだ。前半の、ややゆったりとではあるが、何が起こるかわからない、という雰囲気を段々盛り上げていくところは大いに期待させるんだが、米軍大佐に扮するモーガン・フリーマンが現れる辺りから徐々に辻褄が合わなくなり出し、最後はまったく、これはギャグか? と思わせる展開になる。実際、最後のオチ (とでもいうんでしょうか、最後の一匹になってしまった生まれたばかりのエイリアンを踏み潰すシーン)なんて、B級SFでも今時こんな終わらせ方はしまいと思え、私は思わず、ぷっと噴き出してしまった。


カスダンは自分で脚本も書いているからほとんど人のせいにはできないと思われるのだが、この映画、ほっといたら暴走して4時間くらいにはなりそうなのを強引に端折ってしまったからこういう結果になってしまったのだという気配が濃厚だ。原作はキングが交通事故に遭って、わりとブランクを置いて最初に発表した作品で、たぶんキングも、人生なんていつ何の前触れもなく終わってしまうかわからないという気持ちがあったんだろう、これまでの自分の集大成という感じで、とにかく何でもかんでも色んな要素を詰め込んだ作品になった。それをまたカスダンが律義に脚色したものだから、結局、見た後で、これはいったい何が言いたかったのかと、観客に首を傾げさせるものになってしまった。


しかし、だからといってつまらないわけではないというのは言える。特に前半部、雪の山小屋で週末を過ごす友人たちの間に、素性のわからないデブ男が現れ、げっぷをしたり屁をこいたりしながらも何やら危機感を募らせるところなんて、笑いと恐怖がブレンドされて、居心地の悪い恐怖感をうまく醸成していたし、その後、正体のわからないものをトイレの便器に閉じ込め、蓋をしてその上に座ったビーヴァーが、それでも床に落ちたつまようじをとろうと四苦八苦するところでも同じことが言える。また、主人公たちの少年時代を演じる俳優はみんなよく、「スタンド・バイ・ミー」でもそうだったが、アメリカの少年たちというものは、なぜこうもいい感じに自然体の演技ができるのか、感心してしまう。


とはいえ、作品タイトルでもあり、山小屋の中にも吊るされている、作品のポイントになるはずのオブジェである「ドリームキャッチャー」についての描き込みや説明がほとんどなかったのは、ほとんど致命的な失策であったと思われる。4人の親友同士と不思議な力を持つダディッツとの関係を象徴するはずのドリームキャッチャーについてほとんど時間を割いていないことは、すなわち彼らの関係を描き込めてないことに他ならず、結果として、何十年ぶりかにヘンリーがダディッツと邂逅するシーンでも、あまりにも唐突という感じは否めず、その上、盛り上がらない。(因みに成長してからのダディッツを演じているのはドニー・ウォールバーグで、「シックス・センス」の冒頭で自殺した患者と同じような自閉的な役柄をまたやらされている。TVではNBCが放送している刑事ドラマ「ブームタウン (Boomtown)」に主演するなど、わりと渋いところを見せているのだが。)


それともう一つ、主人公たちの「記憶」を格納していると思われる書庫にいると思われるジョーンジーが、これまたあまりにも唐突で、私は、この描写の効果は、この、わりと大きなセットを建てるにあたってかかった費用を正当化してないなあと、つい、思わずケチなプロデューサーのような気持ちになった。


いずれにしても、せめてフリーマンとトム・サイズモアが出演する後半のシーンのほとんどをカットし、4人とダディッツとエイリアンに話を絞り込んで風呂敷を広げすぎたりしなければ、とにかくなんとかまとまりがついたと思うのだが。キング作品の映像化は、最近では「グリーン・マイル」では90分でまとまる作品を3時間に水増しして退屈にしてしまったと言われ、今回は本当に全部描くなら最低でも4時間は必要だと思われるものを強引に2時間15分に縮めて、やはり不評だ。


実はキング作品は、アメリカではわりと定期的にTV映像化されており、昨年も「キャリー」の再映像化と、新作の「ローズ・レッド」がTV化されている。「キャリー」は3時間 (正味2時間15分程度か)、「ローズ・レッド」は6時間だった。それを考えても、やはり「ドリームキャッチャー」の2時間15分は短い。とはいえ、3時間以上のキング作品を劇場で見たいかといえば、ちょっと尻込みしてしまうのも確かではある。


ところで、実は「ドリームキャッチャー」の上映前に、ウォーショウスキー兄弟がプロデュースした、「マトリックス」みたいな20分程度の短編がかかった。一度実写で撮影したものをわざわざアニメ化したような、要するに「ファイナル・ファンタジー」のような手触りの作品だったのだが、ワーナー・ブラザースのロゴが現れて始まったため、こちらはてっきり「ドリームキャッチャー」が始まったもんだと思っていた。そしたら何やらほとんど「マトリックス」で、「ドリームキャッチャー」ってこういう映画だったの? と思っていたらやっと終わり、「ドリームキャッチャー」が始まった。


要するに、あれは「マトリックス・リローデッド」の長い宣伝のようなものであったらしいと、そこで初めて気づいた。結局、何本もある予告編とさらに短編を見せられ、劇場に入ってから出るまで、3時間かかってしまった。最近ではこういう予定外の作品を見せられると、得したというよりも、時間を損したという気分になる。



追記:

私がこれはいったいなんなんだと不思議に思った本編開始前の短編であるが、これは私の予想通り「マトリックス: リローデッド」宣伝用の短編で、アニメに多大な影響を受けたウォーショウスキー兄弟が、主として日本のアニメ作家関連に依頼して製作した9篇の短編アニメーションのうちの一つだそうだ。全9篇で「アニマトリックス (Animatrix)」と題され、6月にヴィデオ発売されるらしい。


私が見た、まるで「ファイナル・ファンタジー」みたいだと思ったやつは、「ファイナル・フライト・オブ・ジ・オシリス (Final Flight of the Osiris)」というタイトルで、実際「ファイナル・ファンタジー」のアニメーション・ディレクターであったアンディ・ジョーンズが監督している。道理で。他にも、今カートゥーン・ネットワークで放送され、劇場版も公開中の「カウボーイ・ビバップ」のシンイチロー・ワタナベや、「アキラ」のコージ・モリモトらが参加しているそうで、これはこれで面白そうだ。







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