Draft Day


ドラフト・デイ  (2014年5月)

ケヴィン・コスナーが復活している。3年前に「カンパニー・メン (The Company Men)」で、お、コスナー、久し振りと思っていたら、一昨年、ヒストリー・チャンネルでのミニシリーズ「ハットフィールズ&マッコイズ (Hatfilelds & McCoys)」に主演してケーブル・チャンネルの視聴率レコードを作り、ついでにエミー賞も受賞、昨年、「マン・オブ・スティール (Man of Steel)」にも出演、映画界でも大作に出始め、今年は「エージェント: ライアン (Jack Ryan: Shadow Recruit)」、「ラストミッション (3 Days to Kill)」と続け様に出演作が公開、そしてほとんど最初から最後まで出ずっぱりの、今回の主演作、「ドラフト・デイ」だ。


「ドラフト・デイ」はコスナーがNFLチームのジェネラル・マネージャーに扮するアメリカン・フットボールものだ。かつてのコスナーはよくスポーツものに主演しており、ベイスボールを描いた「さよならゲーム (Bull Durham)」、「フィールド・オブ・ドリームス (Field of Dreams)」、ゴルファーを演じた「ティン・カップ (Tin Cup)」がある。農夫で自分が実際にベイスボール・プレイヤーというわけではない「フィールド・オブ・ドリームス」を除くと、「さよならゲーム」でも「ティン・カップ」でも、演じているのは芽の出ない2流プレイヤーというのが共通しているのがちょっとなんだが、コスナーがスポーツ映画に出てくると、これは映画界完全復帰かという気になる。


しかし残念ながら、「ドラフト・デイ」は、興行的にはほぼ惨敗だった。作品としてのできは決して悪くない「ドラフト・デイ」が興行的には失敗したのは、なんといっても、素人目にはよくわからないそのドラフト・システムにあると思われる。特にファンでもない限り、一般人はスポーツのドラフトまでは見ない。ゲームじゃないから当然だ。一方で、筋金入りのファンはドラフトも見る。それが少なくない数なのは、ドラフトがイヴェントとして数日間にわたって行われ、その一部始終がTV中継され、そして視聴率が驚くくらい高いことが証明している。スポーツ専門局のESPNが一日中ドラフトを中継し、それを多くの者が見ているのだ。


しかし、それでもその枠を超えると、それ以外の者にとっては、TVでドラフトを見ようとはまず思わないだろう。ドラフトを見る者と見ない者との間には確実に一線が引かれており、たぶんその境界が跨がれることはない。興味のない者にとっては、それは興味のないものでしかないのだ。


そういう私のような者にとって、ドラフトのルールは図り難いとしか言いようがない。あれって、くじか順番かでドラフト権が決められ、順に意中の者を指名していくというものじゃないのか。それぞれ指名する者の腹案があり、その者が他のチームに先に指名されたら、こちらは次の優先順位の者を指名する、という風に進んでいくものだとばかり思っていた。


そしたら、サニーはドラフトの直前まで他のチームのマネージャーと連絡を取り合って、そのドラフト権を交渉している。あんたに今年のドラフト権を譲るから、来年の何位指名枠を向こう何年間譲ってくれ、なんて話を持ちかけるわけだ。ドラフト権を交渉する、なんてことができるというのがまず初耳だった。考えたら、それぞれのチームにはそれぞれの事情があるから、今年はディフェンスを強化したいのに出物がなく、来年目をつけているやつが大学を卒業する。どうしてもそいつを抑えたいが、来年はうちは指名権は下の方になる、どうする、なんてこともあるだろうから、ドラフト権を交渉するなんてことがあってもおかしくはない。おかしくはないが、しかし今日の今日までそういうシステムが実際にあることなんてまったく知らなかった。


さらに、実際にドラフトが始まっても、指名を発表するその直前まで交渉は続けられる。そうすると、まだ他チームと交渉中なんだ、もうちょっと待ってくれという事態が起こる。そうなると、そのチームは「時計にかけられる (on the clock)。」10分間の猶予が与えられ、その時間内に指名を発表しないといけない。たぶん制限時間内に決められなければ、無指名のまま指名権が次のチームに移るのではと思われる。


例えば、私がよく見るPGAゴルフでも、この「時計にかけられる」ゴルファーがたまにいる。ショットするまでの明確な制限時間があるわけではないゴルフだが、ゴルファーによっては明らかにスロウ・プレイで、他のゴルファーにもギャラリーにも迷惑という者もいる。そういうゴルファーを急がせるために、オフィシャルがスロウ・ゴルファーに向かって、あんたは時計にかかっていると宣告し、ストップ・ウォッチにかけ、ある時間内にショットを打たなければペナルティが課される。相撲の待ったなしも、これ以上は待たないよという宣言であり、意図は同じものだろう。しかし、そういう実際のプレイをだれさせないようにするのはわかるが、しかしドラフトですら同じようなシステムがある。


さらに、興行成績がよくなかった理由として、これは事前にわからなかったのか、あるいは知った時には既に様々な関係でいったん決まった公開時期を動かせなかったのかは知らないが、今年のNFLドラフトは、例年より2週遅れで設定されていたということがある。当然「ドラフト・デイ」は例年同様のドラフト時期に合わせて公開が予定されていた。それがフライングとなってしまったため、実際のドラフトに合わせて盛り上がることができなかった。映画興行は水物とよく言われているが、大いにありそうなことにも思える。


それでも、スコット・ロスマン、ラジヴ・ジョセフの脚本、アイヴァン・ライトマンの演出は見る者を飽きさせない。私は基本NFLは見ないし、ましてやドラフトなんてまるで興味もないのだが、それでも映画自体はよくできていると思う。結構わけもわからず手に汗握らせるのだ。ドラフトも駆け引き重視のプレイ、あるいはスポーツか。










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サニー (ケヴィン・コスナー) はNFLのクリーヴランド・ブラウンズのジェネラル・マネージャーだ。前期あまり芳しくなかった成績を払拭するために、ドラフトでは大きなチームの梃入れを求められていた。チーム・オーナーのモリーナ (フランク・ランジェラ) は手っ取り早く花形クオーターバックのボー・キャラハン (ジョシュ・ペンス) を指名するようせっついてくるが、コーチのペン (デニス・リアリー) は現QBが順調に育っているとして、むしろディフェンスを強化したがっていた。一方サニー自身の考えや、これまでに培ってきたプレイヤーたちとの関係もある。さらに私生活では新しい恋人アリ (ジェニファー・ガーナー) に子供ができるが、ドラフトで気もそぞろのサニーは、アリのことまで気が回らず、怒らせてしまう。ドラフト開始まで数時間を切り、サニーの思いは千々に乱れるのだった‥‥


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