放送局: ディスカバリー・ヘルス

プレミア放送日: 7/23/2004 (Fri) 21:00-22:00

製作: アトラス・メディア

製作総指揮: ブルース・クライン、アロン・オーステイン

出演: ジャン・ガラヴァリア (Dr. G)


内容: フロリダ州オーランドの監察医務局 (Medical Examiner's Office) で働く女性監察医Dr. Gことジャン・ガラヴァリアの仕事ぶりを追う。


_______________________________________________________________


ディスカバリー・チャンネルはドキュメンタリー専門のチャンネルであるが、現在の看板番組は「モンスター・ガレージ」や「アメリカン・チョッパー」といった、どう見てもドキュメンタリーとは言えない類いのリアリティ・ショウであり、最近は娯楽色を前面に押し出したエンタテインメント・チャンネルと化しつつある。姉妹チャンネルのTLCもそれは同様で、TLCとはThe Learning Channelを意味する教育チャンネルのはずだが、そこでも最も人気のある番組は、やはりリアリティ・ショウの「トレイディング・スペイシズ」だ。


で、そもそも本来の目的であったはずのドキュメンタリー番組はどこへ行ったかというと、ディスカバリーとTLCを基幹とする、さらなるスピンオフ・チャンネルに移行している。すなわち、ディスカバリー・タイムズ、ディスカバリー・ヘルス、ディスカバリー・ウィングス、ディスカバリー・ホーム、ディスカバリー・キッズ、サイエンス、トラヴェル、アニマル・プラネットといったところだ。


その中でもタイムズやサイエンス、ウィングスあたりはドキュメンタリー色が強いが、ホームとなると、はっきり言ってリアリティ・ショウ専門チャンネルというのとほとんど変わらないなど、やはりチャンネルによって特色はある。また、ディスカバリー・コンシューマー・プロダクツ、ディスカバリー・トレード・アンド・ビジネスなんてチャンネルも最近できたが、この辺になるとさすがに私でも見たことがない。ついでに言うとディスカバリー・エスパニョールというスペイン語チャンネルもあるし、なぜだかBBCアメリカにも一部経営に参画している。


このディスカバリー・チャンネル群の一つであるディスカバリー・ヘルスは、健康問題に的を絞ったハウ・トゥ的番組をやっているかと思えば、ごくごくスタンダードなドキュメンタリーを編成している場合もあり、最近は、ちょっとした流行りの人間メイクオーヴァー系番組も編成しているなど、どちらかというとその辺の境界が曖昧なチャンネルだ。特に夜中だと、似非ドキュメンタリー的な番組が多いといった印象がある。当然ディスカバリーやTLC等の姉妹チャンネルでやった番組の再放送等もあり、要するに、大雑把に言って人間の健康というチャンネルのテーマに多少とも引っかかる番組であれば、内容はあまり気にせずになんでも編成しているようだ。


そのディスカバリー・ヘルスによる最新の番組、「Dr. G: メディカル・エグザミナー」は、最近急激にタブーの閾値が低くなってきた、人間の死に関係する番組である。死というものがここ数年のTV界においてあまりタブー視されなくなってきていることは、「ファミリー・プロッツ」のページでも書いたのでここでの再度の詳述は控えるが、以前ならニューズ番組でもほとんど考えられなかった死体の映像が、普通の番組内でも散見されるようになってきた。「Dr. G」は、その傾向をさらに推し進めた感が強い。


「Dr. G」は、フロリダの監察医務局に勤務する女性監察医Dr. Gことジャン・ガラヴァリアの仕事を追う番組だ。監察医とは、遺体になんらかの疑問点があった場合に解剖を担当する者のことで、日本語の検屍官とほとんど同一の職業と思っていいだろう。確かパトリシア・コーンウェルの検屍官シリーズの主人公ケイ・スカーペッタはオリジナルではmedical examinerと表記されていたはずで、要するにDr. Gと同じ職業なのだが、Dr. Gの場合、自宅と職場を往復するだけの毎日で、スカーペッタのように事件解決を求めて色んなところを駆けずり回ったりはしない。考えたら検屍官なんだから、こちらの方が職務に忠実という気がする。まあスカーペッタの場合、同じところに詰めっきりだったら物語が展開しないということもあるが。


Dr. Gはこの道十何年のヴェテラン監察医だ。当然その仕事ぶりをとらえるわけだから、番組に死体が写るのは避けられない。とはいえ死体が写るシーンは、できるだけさり気なく、瞬間的にとらえられているのだが、それでも、プライムタイムに放送する普通のシリーズ番組で、これだけ本物の死体が画面に写ったことはこれまでになかっただろう。この番組は「CSI」じゃないのだ。


また、Dr. Gの仕事は、不審な点のある死者を解剖してその死因を究明することが目的であるわけで、その焦点は、死体そのものというよりも、機能障害を起こして持ち主を死に陥れた内臓の方に向かう。この辺が、同じように死者が番組のテーマではあっても、防腐処理をする以外はほとんど内臓には手を入れず、専らいかに死者に美しい死化粧を施すことができるかということが仕事の中心である、「ファミリー・プロッツ」のエンボールマーの仕事とは一線を画している。


とはいえ面白いのは、「Dr. G」と「ファミリー・プロッツ」という死体を中心に回っている二つの番組において、実際に死体に触れ、検分したり、防腐処理等を施したりするのが共に女性であることで、しかもこの二人、結構印象が似ている。Dr. Gことジャン・ガラヴァリアと、「ファミリー・プロッツ」のチーフ・エンボールマーのショナは、共に中年の域にさしかかろうとしている女性で、二人共わりと恰幅がよく、家ではごく普通の家庭の主婦業をこなし、わりとさばけたような印象が強い。共に死体を解剖したり死化粧を施したりしながら、よく喋るのだ。Dr. Gなんて、なんらかの原因によって肥大した心臓を切り離して手に取りながら、まあ、こんなに大きくなっちゃって、なんてにこにこしている。 また、二人共ちょっとオーヴァーウエイト気味であるが、これがもう少し体重を落とし、ちゃんと化粧すれば、二人共かなり見映えがすると思う。


そして、これは二人共たぶんそうであろうと邪推するのだが、理解のある旦那さんがいるに違いない。なぜなら彼女らの職業はストレスが高いのは間違いなく、家で多少なりともその疲れをほぐしてくれるパートナーがいるのは必須だと思うからだ。彼女らが二人共よく喋るのは、ストレスからの反動と言ってたぶん間違いなく、家に帰ったら、今日一日職場であったことを旦那に話して聞かせるに違いない。それをところどころ合いの手を入れながらふんふんと聞いている旦那の姿が目に見えるようだ。「Dr. G」でも「ファミリー・プロッツ」でも、共に少しではあるが、二人の私生活を見せ、旦那もいると言っている。それなのに、子供は見せるくせに旦那は見せないところがまた、後ろで物腰柔らかく縁の下の力持ちに徹している夫という姿を想像させる。


で、「Dr. G」であるが、だいたい番組の一回につき、Dr. Gが3件程度の死因に疑問のある死体を解剖に処する。80歳にもなって薬の服用過多で死亡した女性は果たして自殺だったのか事故だったのか、それとも誰か他の者の意志が介在しているのか。寝ている時に突然呼吸困難に陥った3人の子の母は、なぜ突然死んだのか。隣りで寝ていた夫は何か関係しているのか。友人宅に泊まりがけで遊びにきて、就寝中に死んだ男性の死因は? というような例が、Dr. Gの解剖所見によって、死因が明らかになっていく。だいたいそれらの患者は、死ぬ前や死亡直後に病院に運ばれており、救命措置がとられていたりするため、ある程度は死因も明らかになっている。とはいえ、病気の者を治すことが仕事の病院では、では、なぜ心臓が止まったのか、どうして動脈が破裂したのかなんて疑問には答えを出してはくれない。そこでDr. Gの出番となるわけだ。遺族にとっても、死因がはっきりするかしないかでは毎日の寝覚めが違う。


そのため当然この番組は、Dr. Gによる人体解剖の模様をとらえるのが興味の焦点となっている。とはいえカメラは、Dr. Gが死体にメスを入れる瞬間をとらえるわけではない。その部分はカットするか、カメラ・アングルの調整によって、見えないようになっている。そして心臓なら心臓、肺なら肺、脳なら脳を人体から切り離して手に取るところでは、その臓器にはぼかしがかかっている。ところがその後、臓器をテーブルの上に置き、なにかおかしなところがないかとそれを切り刻む段になると、今度はカメラは鮮明にその臓器をとらえるのだ。心臓を秤に乗せて重さを量る時にはぼかしをかけておきながら、その後、結局しっかりと写してしまうというのは、いったいどういうことだ。私の心証では、秤に載っている心臓は別になんとも感じないが、テーブルの上でそれにメスで何本も切り込みを入れたり、動脈やら静脈やらの管がぱくりと口を開けているのを見る方がよほどえぐい。


私の考えでは、このような区別は、たぶん、臓器が、今現在、死体から取り出したばかりという印象を与える場合、そのシーンは見せないか、ぼかしがかかるのだと思う。要するにその臓器がある特定の者の死と結びついているかどうかが問題になるのだ。ところが、いざその臓器だけに興味が向かい、詳しく調べる段になると、それは今度は誰の臓器であってもかまわず、匿名性を帯びてくる。そのためそれは写してもかまわないということになるのではなかろうか。とはいえ、このあたりの線引きは非常にビミョーで、実際の話、番組製作者もどこからどこまでは写してかまわず、どこからは写していけないという判断には頭を悩ましていると思う。写さなければほとんど番組は成り立たないが、一方で死者の関係者の心証を損ねることも、できれば避けたいところだ。


しかし、脳梗塞かなんかで死んだ誰かさんの脳を見るために、でっかい鋸や鋏みのようなもので頭蓋を開け、取り出した、まだ血の滴る脳を蛇口から出る水道水でジャブジャブ洗い (こいつははっきりと見せるのだ)、それを真っ二つにし、死因となった箇所を見つけて嬉しそうにここだと特定するDr. Gを見ていると、なんだか頭がくらくらしてしまう。Dr. Gがこうやって切り刻んだ死体を、今度は葬儀屋のショナのような人間が綺麗に死化粧を施してくれるんだなと思うのであった。この番組、臓器フェチのデイヴィッド・クローネンバーグなんて、舌なめずりしながら見そうである。






< previous                                    HOME

 

Dr. G: Medical Examiner

Dr. G: メディカル・エグザミナー   ★★1/2

 
inserted by FC2 system