Don't Say a Word
サウンド・オブ・サイレンス (2001年10月)
Don't Say a Word
サウンド・オブ・サイレンス (2001年10月)
テロリスト・アタックは映画界にも影響を与えており、色んなところで自粛が起きている。まずアーノルド・シュワルツネッガーが主演のアクション、「コラテラル・ダメージ」が、シュワちゃん演じる主人公が妻子をテロリストに殺されるという設定のため、世論の感情を鑑みて延期、飛行機で核輸送を企む男たちを描いたコメディ「ビッグ・トラブル」も延期された。
トビー・マグワイヤ主演の「スパイダーマン」の予告編は、ツイン・タワーの合間をスパイダーマンがびゅーんと勢いよく滑るように飛んでいくというものだったため、即刻キャンセルされた。この予告編はスピード感といい特撮効果といい、さすがハリウッドと思えるもので、機会があれば何度でも見たいと思っていたのに、もう劇場にかからないのかと思うと残念である。映画とは関係ないが、自由の女神に登っていく姿をとらえたジープの新しいコマーシャルは、自由の女神の後ろにツイン・タワーが見えていたため、これもボツになった。
それなのに、「サウンド・オブ・サイレンス」でさり気なくスクリーンに映ったニューヨークの摩天楼の背景に、今はないツイン・タワーが見えた時は、思わず息をのんだ。あれって、やっぱりどきりとする。「コラテラル・ダメージ」や「ビッグ・トラブル」が延期になったことを思えば、たった1シーン、しかも何気に見てては気づかないような1秒にも満たないようなショットだとはいえ、目に入ればどうしても人々にテロリスト・アタックを思い出させずにはいられないだろうあのショットは、カットの対象にならなかったのだろうか。
「サウンド・オブ・サイレンス」は、91年発表のアンドリュー・クラヴァンの原作「Don't Say a Word」 (邦題「秘密の友人」) を、「コレクター」のゲイリー・フレダーがマイケル・ダグラスを起用して映像化したものである。クラヴァンの作品は、クリント・イーストウッド主演で「トゥルー・クライム (真夜中の死線)」も映画化されている。発表する作品はすべてベストセラー入りする人気作家だ。
著名な精神科医のネイサン・コンラッド (マイケル・ダグラス) は、知り合いの医師ザックス (オリヴァー・プラット) から長い間ドラッグ濫用、精神分裂の病歴のある女性エリザベス (ブリタニー・マーフィ) の治療を頼まれる。診療を終えて自宅に帰ったネイサンは、翌朝、まだ幼い娘のジェシーが何ものかに誘拐されたことを発見する。犯人からネイサンに電話がかかり、ネイサンが昨夜会ったエリザベスから、6桁の数字を聞き出せ、さもなくば娘の命はないと脅迫される。いったいエリザベスは何ものなのか、何を知っているのか。ネイサンは必死でエリザベスの心の殻を破ろうと試みる‥‥
冒頭の、そもそもの話の発端となる10年前の銀行強盗のシーンから、スピーディな話の展開やツボを押さえた演出、タイトな編集で、緊張感を持続させる。その後も同様のテンションを維持したままクライマックスまで持っていってくれるため、文句はない。金払った分のエンタテインメントは充分提供してくれる。しかし、この手の作品って途中までは面白いのに、ネタが割れて後の最後のクライマックスがどうしても尻すぼみの感になってしまうのはしょうがないところか。
マイケル・ダグラスは、役者としてはそれほど好きな役者でもないのだが、一応このくらいの名の売れた役者になると、自分で作品を選べるから、この人とかモーガン・フリーマンとかが主演しているサスペンス/スリラーものは、見る前から一応ある程度の水準には達しているだろうという安心感がある。実際、フレダーの前作がフリーマン主演の「コレクター」だし。それにダグラス以外の脇を固める者たちも一様によい。妻のアジーを演じるファンケ・ジャンセン (ファムケ・ヤンセン) は、スキー事故? で片足骨折のためベッドから動けないという設定で、それほど出番も多いわけではないが印象を残す。悪役のショーン・ビーンも悪くない。
そう言えば、ジャンセンとビーンは「ゴールデンアイ」で既に共演している。ジャンセンはその時の切れていた悪女から、今では「X-メン」を経てどちらかというと正義の味方的印象を受ける女優になっている。ここでは片足が石膏で固められているが、もう一方の足はショーツからすらりと伸びており、プロポーションのよさははっきりとわかる。一方のビーンは、「RONIN」もそうだったが、依然として悪役の方が多い。しかし印象的な悪漢を演じることのできる役者は実力のある証拠なので、そのことがどうということはない。ジャンセン同様セクシーな役者だと思うが、マンネリの悪役にだけはならないで欲しい。
一匹狼的女性警官に扮するジェニファー・エスポジトは、きっと原作では彼女の活躍がしっかり書き込まれているものだと思ったら、実は男のダメ刑事が活躍するという設定になっていたものに手を加えたらしい。男臭い話に、あまり登場しないジャンセン以外の色気を出したかったのだろう。いずれにしても役の重要さという点では4番目から5番目というところなため、ここではあのくらいが限界か。あの役は膨らませようと思えばもっと膨らませられるだけに、もったいない気がした。オリヴァー・プラットもいつものようにわりとだらしのない役を好演? している。
わりと印象的な役者が多く出ているが、しかし、やはりポイントはエリザベスを演じるブリタニー・マーフィだろう。カリスタ・フロックハートとケイト・ハドソンを足して割ったような顔立ちをしており、この5年間に21本の映画に出ているという超忙しの役者であるが、そのほとんどが端役で、マイナーな映画が多いということもあり、ほとんど知られていない。その中では「クルーレス」や「17歳のカルテ」が知られているが、それでもそれに出ていた彼女を覚えているものは少ないだろう。しかしここでは、ついに芽が出たというか、作品の最も重要な謎の鍵を握る登場人物として、実に印象的な表情を見せる。彼女が一人精神病棟の個室のベッドの上で「I'll never tell」と節をつけて身体を捩らせながら呟くところは、予告編でも使われていたが、危なさと脆そうな色気が混じってて、特にいい。こないだ深夜トーク・ショウの「トゥナイト」を見ていたら、ゲストにマイケル・ダグラスが出ていて、ホストのジェイ・レノが何度も「I'll never tell, I'll never tell」と、そのシーンの真似をしていた。やはりあのシーンは誰にとっても印象深かったようだ。ただし、これも役の上では大幅な変更が加えられているようで、原作からはかなり簡略化された性格付けになっているらしい。
映画のクライマックスは、幼かった時のエリザベスが保護された場所であるハート・アイランド。私は知らなかったのだが、このハート・アイランドはニューヨークの無縁仏が埋葬される場所であるようで、地図で見ても橋などなく、フェリーで行き来するしかない孤島である。実はその島のすぐそばのブロンクスには、私も何度かプレイしたことのあるパブリックのゴルフ場がある。そこは鬱蒼とした森のような緑に囲まれたゴルフ場で、プレイする度に、一緒にパーティを組まされる地元のゴルファー (もちろん皆別人だ) が、こないだは16番グリーンのすぐそばで死体が見つかったとか、夜中に13番フェアウェイで警官とマフィアが撃ち合いをしたとかという話をさも自慢気にするという、日が暮れると非常にやばいところである。そういう前知識があったので、その辺りの雰囲気がよくわかって楽しめた。