Doctor Strange


ドクター・ストレンジ  (2016年11月)

マーヴェル・コミックスのスーパーヒーローものの最新映像化が、「ドクター・ストレンジ」だ。スーパーヒーローものは様々な出自や能力、武器や弱点があるが、ドクター・ストレンジが異色なのは、そのスーパーパワーが魔術ということによる。ドクター・ストレンジは、明らかにマーヴェルの他のスーパーヒーローとは毛色が違う。アベンジャーズだって眉唾ものの科学技術が至るところに出てくるが、それでも魔術、魔法で片付けられはしなかった。


それが「ドクター・ストレンジ」では、主人公が堂々と魔法を使う。これでは「ハリー・ポッター (Harry Potter)」になってしまって他のマーヴェル・スーパーヒーローとは相容れなさそうだが、映画の最後にはアベンジャーズの一人、ソーが顔を出して、ドクター・ストレンジと話している。どうやらドクター・ストレンジもマーヴェル・シネマティック・ユニヴァースの一員のようだ。


私はたとえマーヴェル・スーパーヒーローの一員でも、X-メンは別格扱いで他の作品には顔を出さないものと思っていたが、予想に反してサブ・キャラ扱いで「デッドプール (Deadpool」に登場していた。しかし「デッドプール」に出てきたX-メンは、X-メンはX-メンでもギャグ化した別ヴァージョンで、実際には我々と住んでいる世界が違うパラレル・ワールドものと言ってよかった。


しかし、それでもそこに魔術を使って時間を遡る「ドクター・ストレンジ」が加わると、パラレル・ワールドのタイム・トラヴェルものというさらに新しい次元が加わってしまう。ああ、もう、たぶんマーヴェルは事態を収拾しようとは考えてないな、とにかく行けるところまで行ってみようとどんどん話を膨らませているだけなんだろう。


なんか、私も段々この仁義なき展開について行くのが億劫になってきた。一つの問題を解決すると、別の次元や時代から新しい難問が持ち上がる。しかもその解決は、解決したというよりもなんか騙されたような気がするというもので、どうもしっくり来ない。それともこういう拡散撹乱が、スーパーヒーローが進む避けられない道だろうか。


話としては、先週見たエイリアン登場ものの「メッセージ (Arrival)」同様のループ、もしくはタイム・トラヴェルが重要なプロットとして用いられる。ただし「ドクター・ストレンジ」の場合は、運命を受け入れている「メッセージ」の主人公ルイーズと異なり、一度起こったことを何度もやり直してなんとかしようとあくせくする。どちらかというと、「メッセージ」というよりも「オール・ユー・ニード・イズ・キル (Edge of Tomorrow)」、もしくは「ミッション: 8ミニッツ (Source Code)」だが、「ドクター・ストレンジ」の場合は、その時間帯を制している魔人のようなものに嫌がらせして過去を変えようとするという、なんともしょうもない展開になる。やっぱこの作品、他のマーヴェル・スーパーヒーローとちと毛色が違う。


一方、主人公のドクター・ストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチは、結構いい。我儘で唯我独尊的威張りんぼが、なかなかはまっている。元々英国出身の男優は、傲岸で男尊女卑的な役をやらすとみんないい。レイディーズ・ファーストという紳士の嗜みは、現実はそうじゃないからこその作られた作法というのは、あながち的外れでもない指摘じゃないかという気がする。ただし、後で原画を見ると、ドクター・ストレンジはいかにもアメコミらしいムキムキ強者WWE面で、魔術を使う者は、むしろ肉体的には貧弱であってもらいたいと思うのは私だけだろうか。


実は映画を観終わって家に帰ってネットで細部をチェックしていて、初めてティルダ・スウィントンの演じたエンシェント・ワンが、原作では男性だったことを知った。それをスウィントンが演じることで、より年齢性別が不詳な人物になっており、これまた楽しめる。その第一の従僕モードに扮するのはキウェテル・イジョフォー、裏切ったかつての弟子カエシリウスにマッツ・ミケルセン、ストレンジのかつての恋人クリスティンにレイチェル・マクアダムスと、かなり豪華な布陣。全員アカデミー賞にノミネートされたことがあるよな。


あっと思ったのがストレンジの同僚の医者に扮しているマイケル・スタールバーグで、こいつ、先週も「メッセージ」に出ていた。そこでも宇宙のループに巻き込まれ、ここでもまた世界はループしている。しかも自分の知らないところで。そういえばこいつ、「メン・イン・ブラック3 (Men in Black 3)」でもタイム・トラヴェルに巻き込まれていた、と思い出す。しかもそこではその混乱の中心だった。もしかしたらこいつこそが、世界の不条理を生み出した張本人か。










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スティーヴン・ストレンジ (ベネディクト・カンバーバッチ) は天才的な脳外科医だったが、傲岸で自尊心が強いのが玉に瑕だった。ある夜、山道をドライヴしていたストレンジは、運転を誤り、大怪我を負って手を自由に動かすことができなくなってしまう。絶望した日々を暮らすストレンジは、ある日、かつて二度と身体を自由に動かすことはかなわないと思われた男が、バスケットボールを楽しんでいるのを見る。男はネパールのある場所のことを告げる。半信半疑でカトマンドゥを訪れたストレンジは、そこで導師エンシェント・ワン (ティルダ・スウィントン) に出会い、数々の信じられない力を目の当たりにし、これなら自分の腕を治してくれるかもしれないと弟子入りを志願する。一方、かつてのワンの弟子だったカエシリウス (マッツ・ミケルセン) は、書庫から秘伝の書の一部を破りとって、時間を自由に操作する力を得ていた‥‥


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