Die Another Day

ダイ・アナザー・デイ  (2002年11月)

3年ぶりの007シリーズの新作である。アーノルド・シュワルツネッガーの主演作と同じように、定期的に見てスカッとしたいアクション映画の代表作といえば、やはりこれだろう。ただし、このくらい息が長く、見ようによってはマンネリとも言えるかもしれないシリーズだと、うちの女房のように、予告編を見る前からげっぷ状態でもういいと言う者もいる。しかし、やはり007シリーズは癖になる。


北朝鮮に乗り込んだジェイムス・ボンド (ピアース・ブロスナン) は、任務を遂行したのはいいものの、捕えられ、監禁の身となる。ボンドは拷問にも耐え、1年後、捕虜交換で西側に戻る。しかし、ボンドを獲得するために英国が払った代償は大きかった。ボンドはキューバに飛び、アメリカ側のエージェント、ジンクス (ハリー・ベリー) と出会うと共に、北朝鮮がアイスランドのダイヤモンド王、グレイヴスと関係があることをつかむ‥‥


007シリーズは毎回その突拍子もない設定に大真面目に取り組むところが大人のお遊びというか、醍醐味なのだが、それは今回も健在である。だいたい、いくら毎回今度はどんなガジェット (特に車だ!) が登場するのかが注目されるとはいえ、今回はなんと、周囲の景色と同化し、一見どこにあるのかわからなくなるアストン・マーティンの登場である。なんだ、それ。これって「ウルトラQ」かなんかで見たことのある様な設定だなあ。その上、いったん死んだ人間がDNA移植によってまったく他人の姿形で蘇るという設定も、これまた常軌を逸している。しかし、007だとこういうことも気にならない。というか、こういう突拍子のなさこそが007シリーズの身上だ。


つまり、007シリーズは、こういうお遊びを承知した上での大人のファンタジーなのだ。だから、主人公のジェイムス・ボンドをこれまで何人もの俳優が演じていようとも、基本的にこういう枠組みを理解した上でのお遊びと納得して見ているから、別に気にならない。どのボンドが好きだとか嫌いだとかはまっているという意見は見る人によってそれぞれ一言あるだろうが、それでも007シリーズが続いているのは、基本的にボンドの首のすげ替えが利くからだろう。


これは監督にも言え、007シリーズというより大きな枠組みがあるため、誰が撮っても結局似たようなものになりやすい。今回の演出を任されたリー・タマホリも、いつもの政治的などろ臭さはほぼ完全に消え去り、やはり007シリーズという枠組みに組み込まれてしまった。とはいえ、このシリーズでは、やはりそれが欠点になるとも思えない。まったく不思議なシリーズである。しかしタマホリは、どんどんハリウッド化していっている。元々この人は生の感情を発露するアクション、というところに特色があり、007の洗練されたアクションとは対極の位置にいたはずなのだが。なんか、昔の「ワンス・ウォリアーズ」が懐かしくもなる。


007シリーズを見ていると、安上がりな世界旅行をしているような気分にさせられるが、今回も英国のみならず、北朝鮮に始まって香港、キューバ、アイスランドと、ばんばん舞台が移動する。特にキューバが舞台になる理由は、今回のボンド・ガール、ハリー・ベリーの水着姿を見せるためという以外にはまったく必然性がない。だがしかし、もちろんそれで全然構わないのだが。


そのベリー、今回はわりとアクション・シーンもこなしている。「X-メン」ではほとんど飾りでスクリーンに登場する機会も少なかったが、今回はボンド・ガールだからね。とはいえ、やはり彼女は運動神経ばりばりには見えない。彼女がアメリカの秘密エージェントというのは、ちょっと無理がある。でも、007シリーズだから、それもいいか。


今回なかなか気に入ったのは、最初に出てきて頓死してしまう北朝鮮の武官を演じたウィル・ユン・リーと、彼が死んだ後にDNA移植を受けて復活するダイヤモンド王、ギュスタフ・グレイヴス役を演じるトビー・スティーヴンスの二人である。リーは、TNTのSFシリーズ「ウィッチブレイド (Witchblade)」で心優しい刑事 (と幽霊) の役を演じており、わりと気になっていたのだが、今回はその対極の切れた悪役で、これまた意外でなかなかよかった。彼は今後重要な役が増えるだろう。


スティーヴンスを最もよく覚えているのは、A&EのTV映画「偉大なるギャツビー」でのギャツビー役である。実は「ギャツビー」を見た時、この俳優は貴族というより悪役をやらせた方がよりはまりそうだなあと感じたのだが、今回図らずもそれを証明したような気がする。つい最近見たニール・ラビュートの「ポゼッション (Possession)」でも、やはり嫌みな役で出ていた。今回注目されていた悪役の一人である「ワイルド・スピード (The Fast and the Furious)」のリック・ユーンは、別にそれほど印象に残らなかった。主題歌を歌っているマドンナも、ちょい役ながら登場する。







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