Death Race


デス・レース  (2008年8月)

近未来。ジェンセン (ジェイソン・ステイサム) の家計は苦しいながらも家には愛する妻とまだ幼い子が彼の帰りを待っていた。しかしある時暴漢が押し入り妻を殺害して去る。妻殺しの罪を着せられたジェンセンは刑務所に入れられる。公的な刑務システムは破綻して刑務所は民間経営となっており、その刑務所は女性所長ヘネシー (ジョーン・アレン) の指揮の下で受刑者間でカー・レースをさせるデス・レースが中継され、資金源となる呼び物となっていた。5回優勝を飾れば恩赦で出所が許されるが、負ければほとんどの場合死を意味していた。覆面レーサーのフランケンシュタインは4回勝ってもう一度勝てば出所というところまで来ていたが、そこで事故って死んでしまう。レースの経験のあるジェンセンは最初からフランケンシュタインの替え玉にさせられるために罠に嵌められたのだ。ジェンセンはあと一度勝てば刑務所から出られるという約束でフランケンシュタインの代わりにレースに出ることを引き受ける‥‥


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ジェイソン・ステイサムがまたドライヴァーになる。だいたいアクション映画にはカー・アクションが必須だったりし、007やジェイソン・ボーンのようなヒーローものはカー・アクションがないと始まらないが、役の上ではなく俳優個人がカー・アクションと分ち難く結びついていて、この人が出ているとまたどんなカー・アクションを披露してくれるのかと期待させる点で、ステイサムほどカー・アクションとイコールで結ばれている俳優はいない。


この傾向は2002年の「トランスポーター (The Transporter)」と翌2003年の「ミニミニ大作戦 (The Italian Job)」というヒット作品でドライヴァーを務めたという経緯が大きくものを言っている。特に請け負った仕事はなにがなんでも遂行するプロの運び屋に扮した「トランスポーター」は、続編が作られたことからでも、彼のイメージに強くマッチしたことが窺われる。


強面ではあるが、それ故に逆に一抹の愛嬌さえ感じさせるステイサムは、ほとんど同様のキャラクターでやはり「ワイルド・スピード (Fast and Furious)」でドライヴァーとして登場して人気をさらったヴィン・ディーゼルを彷彿とさせる。二人ともハゲ頭のところまでそっくりだ。結局「トランスポーター」同様「ワイルド・スピード」も今度ディーゼル出演でまた新作が作られるわけだし。アメリカ人のディーゼルは英国のステイサムより鷹揚でギャグのノリが強いという印象があるが、二人の持ち味は本質的に同じと考えてよかろう。ディーゼルは現在、SFアクションの「バビロンA.D. (Babylon A.D.)」が公開中で、そのこともあってディーゼルを思い出した次第。


今回の「デス・レース」は、1975年の「デス・レース2000年 (Death Race 2000)」のリメイクだ。実はオリジナルを見ているわけではなく、今回の予告編を見ただけで面白そうだと劇場に足を運んだ口なのだが、オープニングのテロップでロジャー・コーマンという名を見た瞬間に、そうか、こいつはコーマン作品のリメイクだなと気がついた。実際に話が始まると、その内容は囚人が刑務所で命を賭けるカー・レース、優勝候補はマスクをして誰も素顔を知らず、人からフランケンシュタインと呼ばれている。しかも優勝したら釈放なんて言語道断な話を平気で撮れるのは、これはもうコーマンくらいしかいまい。


デス・レースでは5回優勝すると刑務所から釈放される。そのためレースに出場する者たちはそれこそ命がけでレースに挑む。しかし5回優勝で釈放に王手がかかった本命フランケンシュタインはそのレースで事故で大怪我をする。そこで白羽の矢が立ったのがジェンセンで、ドライヴァーとしての腕を買われたために妻を殺され、娘も略奪されて妻殺しの罪で刑務所送りになる。手ぐすね引いて待っていた所長のヘネシーからオファーを受けたジェンセンは覆面を被ってフランケンシュタインになりすまし、釈放への一縷の望みをかけレースに挑む‥‥という展開。


当然刑務所では囚人の社会復帰を図るため、腕に技術をつけさせるための様々な工場があるわけだが、ここのガレージに至っては車にマシンガンやロケット砲まで積んでいる。そういうのを囚人にタッチさせたら一気に暴動が起こってレースどころじゃなくなるだろうにという突っ込みは一応おいておく。それよりも気にかかるのは覆面レーサー、フランケンシュタインで、さらに車が銃器を装備していたり派手にジャンプしたり煙幕振りまいたりオイル流したり、果てはボディ横からドリルが現れて相手にダメージを与えたりという展開で連想するのは、こいつは「マッハGoGoGo」こと「スピードレーサー」だ。要するに家族向け「スピードレーサー」に対し、大人向けというか単純にアクション・ファン向けに製作されたのが、「デス・レース」だ。


実際、レース中に相手を出し抜こうとやっていることは、「スピードレーサー」も「デス・レース」も変わらない。ただ「デス・レース」では相手を殺すことが最初から認められている。「スピードレーサー」だって事故れば高い確率で死ぬだろうが、そこまでを描くか描かないかが家族向けか大人向けかで分かれる両者の最大の相違点と言える。


主人公ジェンセンを演じるステイサム以外のキャスティングは、刑務所の女性所長ヘネシーにジョーン・アレン、その下の看守にジェイソン・クラーク、ステイサムを助けるメカニックにイアン・マクシェインと、半分はシリアス系の役者で固めており、浮わついたところをなくそうと考えているのが見てとれる。特にショウタイムの「ブラザーフッド (Brotherhood)」のクラークとHBOの「デッドウッド (Deadwood)」のマクシェインを知っていると、まったくギャグになる要素はないんだが、それでもマクシェインはここではどちらかというと愛嬌たっぷりで、人間、強面が過ぎると愛嬌が生まれるものなのだなと納得する。真面目すぎると真面目バカになって笑えるのと一緒か。


一方シリアス系というにはちと柔らかい印象を持つ俳優としてキャスティングされているのが、フランケンシュタインと優勝を争うライヴァル・ドライヴァーのタイリース・ギブソンで、むろん彼も「ワイルド・スピード」フランチャイズの一作「ワイルド・スピードx2 (2 Fast 2 Furious)」出身だ。レースはナヴィに女性囚人が宛てがわれるのだが、ジェンセンのナヴィ、ケイスに指定されるナタリー・マルティネスが、どこかで見たことがあるのは間違いないんだが思い出せない。のどに小骨が引っかかったような気分のまま家に帰ってきて調べて、「ファッション・ハウス (Fashion House)」の彼女だったことが判明した。そうか、「ファッション・ハウス」なら覚えてなくてもしょうがないと自分で納得したのだった。


演出は「バイオハザード (Resident Evil)」のポール・W. S, アンダーソンで、ホラー作品が多いとはいえスタイリッシュな演出に特長のあったアンダーソンは、確かにアクションと相性がいい。今後はかつてのようなホラー色は薄まり、「デス・レース」のようなアクション路線で活躍するものと思われる。







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