放送局: スパイクTV (Spike TV)

プレミア放送日: 4/2/2008 (Wed) 23:00-0:00

製作: アル・ローカー・エンタテインメント、サイズ12プロダクションズ

製作総指揮: アル・ローカー、ラッセル・マス、ハンク・キャプショウ


内容: ミシガン州デトロイトのDEA (麻薬取締局) の第14グループの活動に密着する。


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近年アメリカのTV番組において目につくようになってきた傾向として、危険な仕事や活動に従事する者たちを追った、ドキュメンタリーともリアリティ・ショウとも言える番組が増えてきたことが挙げられる。20年近く前から始まっているFOXの「コップス (Cops)」をそのそもそもの嚆矢として挙げることができるだろうが、半分はお笑い番組として機能している「コップス」を補完するものとして、近年は同系統番組でありながらよりシリアスなテイストを持つ、人間の限界に挑戦する番組が増えてきたことが特色だ。


この種の番組としては、ディスカバリーの「ベーリング海の一攫千金 (Deadliest Catch)」がまず現れ、同チャンネルの「マンvsワイルド (Man vs Wild)」、「サヴァイヴァーマン (Survivorman)」、「ダーティ・ジョブス (Dirty Jobs)」等がその傾向を推し進めたことは、昨年のヒストリー・チャンネルの「アイス・ロード・トラッカーズ (Ice Road Truckers)」の項で書いた。その後も続々と同種の番組は編成されており、ヒストリーは今年、こちらは山間で木々の伐採事業に従事する者たちをとらえた「アックス・メン (Ax Men)」を製作、さらについ先頃、アラスカで自然相手に生活する男に密着する「タファー・イン・アラスカ (Tougher in Alaska)」の放送が始まったばかりだ。


この潮流に乗り遅れるなとばかりに、ドキュメンタリー系チャンネルのナショナル・ジオグラフィックも、LAの港湾で危険な作業に従事する者たちをとらえた「アメリカズ・ポート (America’s Port)」の放送を開始、著名人に焦点を当てた番組が並ぶバイオグラフィ・チャンネルまでもが、生死の境い目を体験した、というか片足棺桶に突っ込んで彼岸を覗いた者たちの体験を綴る、「アイ・サヴァイヴド… (I Survived…)」なる番組の放送を始めた。一方、半お笑いリアリティの「コップス」系統も、マイ・ネットワークTVに「ジェイル (Jail)」、「ストリート・パトロール (Street Patrol)」というちゃんと「コップス」の衣鉢を継いだ番組が現れ、このジャンルはにわかに百花斉放の体裁を帯び始めている。


このほどスパイクTVが放送を始めた「DEA」は、アメリカで最も麻薬関連の死亡率が高く、危険な地域として知られるミシガン州デトロイトで、その麻薬摘発という仕事に従事するDEA (麻薬取締局: Drug Enforcement Administration) ユニットのエージェントたちに密着し、その行動の一部始終を追うリアリティ/ドキュメンタリーだ。一瞬、「コップス」、「ジェイル」系の脱力トンデモ犯罪者を追ったリアリティ・ショウかと納得しそうになるが、そうではない。どちらかというと「DEA」は、「ベーリング海の一攫千金」、「アイス・ロード・トラッカーズ」系の、シリアスな限界挑戦系に連なる番組の一つだ。つまり「DEA」は本気で命がけの危ない仕事をしているエージェントたちに密着して、彼らの仕事振りを追う。


番組を見て真っ先に受ける印象は、なんかこの人たち、皆映画の俳優みたいだということだ。何も知らずにこの番組を見ると、全部俳優が演じている擬似ドキュメンタリー/リアリティ番組を見ているとカン違いする可能性は非常に高い。黒人のボス、こわもてのお腹の出た中年白人のリーダー、2枚目の部下、お前がよほどドラッグ・ディーラーみたいなガタイのいい黒人エージェント、長髪エージェント等、それぞれキャラ分けした俳優を起用して番組を製作しているように見える。つまり、こういう実在のユニットをモデルに映画や小説ができているからこういう印象を受けるのだと思うが、本当にこういうやつらが現実に存在して、セイフティを外したいつでも撃てる本物の銃を抜き身で構えてドラッグ・ディーラーのアジトをレイド (急襲) するのだ。まったく映画みたい。


これがシリアスな番組である証拠に、番組に登場する人物はDEAの主要な面々を除き、実際にドラッグ・ディーリングに関係している容疑者たちの顔には皆ぼかしが入る。アメリカでは有罪が確定するまではイノセント (無罪) であることは憲法で保障されている。しかし、かといってこんな番組に顔が出てしまっては、少なくとも世間一般が受ける印象は、灰色どころか真っ黒だ。ぼかしはそのための人権擁護という意味合いだろう。それでも知っているやつが見れば誰だか一発でわかるだろうし、調べれば住んでいる場所なんかもすぐにわかるだろうから、付け焼刃的な印象しか受けないが、しかしやらないよりはやった方がましか。というよりも、訴えられた時に顔は隠していたという逃げを打つための方便というだけかもしれない。


一方、DEAの面々は皆素顔をさらしている。彼らはそれでもいいのだろうか。番組を見ていたら、こういう職業でもあり、特に若いやつらはほとんど囮捜査で現行犯逮捕、みたいな感じでディーラーを逮捕している。面が割れるのはかなりまずいと思うのだが。実際、危険度はかなりのものみたいで、ディーラーだって生活かかっているからほとんどの者は銃を携帯している。そのためディーラーのアジトをレイドする時は、一にも二にも要求されるのはスピードだ。


まずアジトの周りを何台もの車に便乗した10人弱程度のグループのDEAエージェントが間隔を置いて位置し、万が一ターゲットが逃げようとした時の逃げ道をまず押さえる。そしてリーダーの合図によって一斉に踏み込むのだが、むろんその時は逮捕状も出て捕まえるためだけに出張ってきているわけだから、玄関のチャイムを鳴らして案内を乞いたりなぞしない。そんなの、わざわざ相手に身構えるチャンスを与えるだけだ。


でどうするかというと、いきなりドアをぶち壊す。消火器のような形状の、30kgくらいはあろうかと思われる合金の塊を持った先導のエージェントが、いきなり有無を言わさずドア・ノブの上にそれを叩きつけて鍵をぶっ飛ばすのだ。本当にこんなことやってるんですか。システムは完全に分業であり、先導のエージェントが鍵を壊した後、抜き身の銃を構えた後続のエージェントたちが喚きながら家の中に突入していく。この時はドラッグ・ディーラーは黒人女性で、当然銃を (何丁も) 用意しており、もう少しでそれを使われるところだったと後でレイドに加わったエージェントの一人が述べていた。コンマ何秒の差で本当に生き死にが分かれるのだ。全員防弾ヴェストを着用しているとはいえ、ちょっと、やっぱり、あまりやりたくない仕事だと思われる。当然このカメラマンもヴェスト着用で撮影しているものだと思うが、こういう番組の製作に関係するのも命がけだ。


むろんこういうレイドや待ち伏せが毎回成功するわけではない。一度なんか、車で帰宅する瞬間を待ち伏せていたDEAの面々が男をとらえようとすると、愚かにも退路を防ぐ予防策を張らずにいきなり全員が正面から男の乗るレンジ・ローヴァーに向かっていったため、バックで急発進した男に見事に逃げられた。こちらも慌てて車に乗って追いかけようとしたエージェントの一人は、間に合わないからと車に乗れずに置いてきぼりになってしまうし、とんだへぼである。


それだけでなく、今度はガス・ステーションに給油しに来た男を、今度は前も後ろも車で押さえて進路を断ち、今度こそ逮捕と思わせた。そしたら、これでやったと思って男の車のところに自分たちの車を寄せようと、いったんは断っていた退路を開けてしまったため、その隙を突いてまたまた逃げられた。信じられない大失態である。しかも全米ネットのカメラがとらえているその目前で。このミッションに加わったエージェントはよくて始末書、減俸処分も覚悟せねばなるまい。当然男は信号なぞ無視して猛スピードで逃げる。こういう手負いの奴は必死で、平気で歩行者なぞ撥ねて逃げようとするから、町中でのカー・チェイスは危険であり、前回に続いて今回も、DEAは男の逮捕を諦めざるを得なかった。


結局DEAは絡め手から攻めざるを得なくなり、男の娘に目をつける。男に頼まれて急場しのぎのキャッシュを携えて家を出てきた娘の身柄を確保し、男に逃げ道はないと思わせる。結局こういう方法が奏功し、男は弁護士を通して出頭してくる。DEAの次なる仕事はこの男をCI (Confidential Informant) と呼ばれる内通者に仕立て上げることだ。彼らの内部情報なくしてはDEAも路頭に迷う。こうやって逮捕した者をなんとかして「フリップ (flip)」、つまり転向させ、そしてそうやって逮捕した次のディーラーもフリップさせることで、地道に大物を手繰り寄せるのだ。


とはいえこういう捜査法は、かなり道義的、法的に灰色である。犯罪者にあんたの罪を軽くしてやる代わりにドラッグの出所や大物の居所を教えろと迫るのだ。むろんこういう取り引き自体は法の場でも日常茶飯的に行われている。多少例えは異なるが、有罪を認めれば罪状を軽くしてやる、みたいな感じで持ちかけて罪を認めさせるという取り引きは、プリー・バーゲン (Plea Bargain: 司法取り引き) と呼ばれ、検察と弁護側の間で普通に行われている。一方、基本的に囮捜査というのは法律で認められていない。NBCの「ロウ&オーダー」とかを見ているとよくわかるが、囮捜査によって得た証拠は、裁判においては証拠として認められない。だから囮捜査を利用する時は、囮捜査によって犯罪の現場が押さえられる時に限られる。それだってなかなかその判断は難しいだろう。


しかしまあ、世の中に危険な職はいくつもあるだろうが、DEAは通常の刑事や警官と比較してみても、その危険度はさらに高いだろう。ほとんど前線の軍隊並みと言えるんじゃなかろうか。常に生死すれすれのところで仕事しているからだろう、エージェントたちの連帯感はかなり強そうだった。相棒の行動如何に自分の命がかかっていることもあるだろうから、それも当然だ。そして、そういう経験を経て関係する元犯罪者のCIたちとも、ひねった愛憎関係があることもエージェントの一人は口にしていた。あいつらは「バッド・ガイ」だといいつつも、CIなしではDEAエージェントは仕事にならない。CIだって内情をDEAにばらしていることが露見すれば、かなりの確率で消されるだろう。やはりあんまり関係したくない世界だ。








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DEA


DEA   ★★1/2

 
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