Cry Macho


クライ・マッチョ  (2021年10月)

アメリカではどうしてもあるレヴェルより下にならないコロナウイルスの感染者数は、来年までなんらかの対応策をとらざるを得ない必要があることを明らかにした。一方で、鬱屈感はあるにせよ、一年半も半軟禁状態にあっても、それに対応してきた自分も含めた人々の柔軟性、忍耐力、対応力は、なかなか大したものだと思う。対応できなかった者もいることはいるが。 

 

いずれにしても、ここまで来て、ワクチン接種済みなのにブレイクスルー感染するのだけは絶対に嫌なので、「ノー・タイム・トゥ・ダイ (No Time to Die)」や「デューン (Dune)」を大きなスクリーンで見れないのは無念ではあるが、今年いっぱいは映画館通いを諦める。個人的には実は一方で、家見も楽で悪くないと思い始めたこともある。これが歳をとってきたということなのかもしれない。新規公開作品も多くが同時期にストリーミングで見れるし。 

 

さらに今回、その上有料ストリーミング・サーヴィスのHBO Maxが、半額キャンペーンを始めた。本来$14.99/月の視聴料が、今に限って今後半年間$7.49/月になるということで、かなり心を動かされる。ほんの数か月前に、加入しているサーヴィスの合理化を考えてHBO Maxを切ったばっかりなのだが、それでしか見られない作品もあったりして、結構後ろ髪を引かれていたのだ。 

 

さらに、HBO Maxを運営しているワーナーメディアとディズニーは、新規公開映画を同時にストリーミングでも提供する。つまり、クリント・イーストウッドの新作「クライ・マッチョ」も、劇場公開と同時にHBO Maxでも見られるのだ。ついでに言うと、間もなく公開のドゥニ・ヴィルヌーヴの「デューン」も見れることになる。これは、もう、再加入するしかないと思って即座に手続きした。コロナに感染する心配なし、追加料金なしだ。これをパスする理由はない。 

 

その「クライ・マッチョ」、イーストウッドの演出作品というだけでなく、主演作品でもある。しかも今回、イーストウッドはほとんど引退したカウボーイということで、またウマに乗る。さすがに本当かと驚いてネットでイーストウッドの年齢を調べてみたら、今年御歳91歳だ。それでウマに乗るのか。 

 

イーストウッド演じる主人公マイクは、かつてはロデオのスターだったが、落馬して怪我を負い、一線から退く。妻子も失って凋落の一途だったが、ある時旧知の牧場主から頼まれ、彼の一人息子をメキシコからアメリカに連れて来るという仕事を請け負う。 

 

要するにイーストウッドがウマに乗り、クルマにも乗るロード・ムーヴィだ。それにしてもイーストウッド作品に余計な思い込みほど邪魔なものはないと、これまでイーストウッド作品を見るたびに思い知らされているのに、やはりまた、えっ、と自分が既成概念に囚われていることに気づかされる。


まさかまた主演はしないだろうまさかまたウマに乗ることはないだろうまさかまた女性といい仲になるようなことははないだろうというようなつまらない先入観、思い込みは、やはりまた覆されるのだ。こういう別世界的快感を与えてくれる映像作家は、イーストウッドをおいて他にない。 

 

特に今回連想させるのは、これは一にも二にも「センチメンタル・ジャーニー (Honkytonk Man)」で、ついでに意外にも「マディソン郡の橋 (The Bridges of Madison County)」が絡むという、なんともはや面映ゆい展開だ。 

 

90を超えた人がウマに乗るのを見ることは、それがたとえイーストウッドであろうとなかろうと、かなりサスペンスには違いない。落ちればよくて骨折、かなりの確率で命にかかわりかねない怪我を負うだろう。さすがにちょっと駆け足気味になると、カメラが引いてスタント・ダブルを使っていることは明らかだが、それでも実際にイーストウッドがウマに乗っている時は、周りは冷や冷やもんだったに違いない。 

 

そして90を超える人間の枯れた (のか?) 恋愛模様というのは、これまた微妙なサスペンスというか、暖かく見守るというのとはまた別の感情が湧いてきて、こういう既成観念に囚われた思い込みこそが、イーストウッドとは無縁のものなのだろうなと改めて思わせられる。そういう過去を思い出させ、それなのに同様に未来にも思いを馳せてしまうという、イーストウッド作品をまだまだ見ていられる幸せを思うのだった。 











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1979年テキサス。マイク (クリント・イーストウッド) はかつてロデオ界のスターだったが、落馬して一線を退き、交通事故で妻子を失い、実情はほとんどアルコールに溺れた老人以上のものではなかった。マイクはある時、牧場主のハワード (ドワイト・ヨーカム) から、メキシコにいる彼のティーンエイジャーの一人息子ラフォ (エデュアルド・ミネット) を、別れた妻から取り返してもらいたいと頼まれる。なんでもいじめられて道を踏み外しそうになっているらしく、元妻は頼りにならないという。金も必要でハワードには世話になっていることもあり、マイクは仕事を引き受ける‥‥ 


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