Croupier

ルール・オブ・デス/カジノの死角  (2000年5月)

本当はジョン・トラヴォルタ主演のSF大作「バトルフィールド・アース」を見に行こうと思っていたのだ。そしたらこれが、最近ここまで叩かれた映画はなかったと思うくらいボロクソ言われている。「氷の接吻」も結構こきおろされていたが、それでもここまでではなかった。うーん、何となくそういう予感はないでもなかったが、やはりそうだったか。こういう原作つきのもので、しかも原作がシリーズ化しているようなものは、映像化が難しいのである。原作で確立しているキャラクターの書き込みを映画でもやるとうざったくなるし、かといってそれをしないでアクションばかりというわけにも行くまい。


その点だいぶ昔の例だが、「スタートレック」はうまくやったよなあ。第1作は職人ロバート・ワイズが監督してTVと似ても似つかない映画オリジナルになってうまくシリーズ化したし。まるで面白くなかったけど。要するに、だから「バトルフィールド」も難しいかもと思っていたら、私の予想をはるかに上回って面白くないらしい。興行成績も、最も稼ぐ公開初週ですら既に公開2週目の「グラディエイター」の3分の1の成績しか上げられず、翌週はさらに落ちて既に公開後一月経っている「U-571」「フリークエンシー」にすら及ばなかった。口コミでも観客を呼べなかったということは、これは間違いなく面白くないに違いない。今年のラズベリー賞はもう決まったな。ニューヨーク・タイムズ曰く、「もしかしたら今世紀最大の失敗作」とのこと。ここまで言われると、逆にどのくらい下らないのか見てみたい気もする。しかし、やはり踏ん切りがつかない。金出して本当に不愉快な思いをするのも嫌だし。


というわけで結局見に行ったのが、マイク・ホッジスが98年に監督した「ルール・オブ・デス/カジノの死角」。アメリカでは今回が初公開である。原題のクルーピアー(Croupier)とは、カジノのディーラーのこと。南アフリカ生まれで昔そういう環境に育ち、今はロンドンで作家を目指している男が、当座を凌ぐ金が必要になったため再びカジノでディーラーとして働き始める。その彼が経験するめくるめくようなカジノ体験を、二転三転するプロットを絡めて描き出す。


いやあ巧いもんだ。ホッジスはテレンス・マリックが絶賛し、映画評論家のポーリーン・ケイルが仮借ないそのヴァイオレンス描写や悪意を大いに論じたということは知っていた。しかし「フラッシュ・ゴードン」と「死にゆく者への祈り」しか見ていない私は、「フラッシュ・ゴードン」はこんなものか、「死にゆく者への祈り」も、雰囲気は悪くないけど、くらいしか印象に残らなかった。だって、マイケル・クライトンの原作を映像化した「電子頭脳人間」なんて、自分の性格をコントロールするために、頭脳にマイクロチップを埋め込む科学者を主人公にした荒唐無稽なSFなのだ。それを撮るならせめてハリウッド大作にしてもらいたい。こんな常軌を逸した作品は思いきり金をかけないとよけいみすぼらしくなるだけなのに、そんなのに製作/脚本/監督までされると、やはり距離を置いてしまう。でもマリックはこの作品を絶賛してるのだよ。「ブラック・レインボウ」もカルト化している。これはヴィデオを探さなければならないか。


今回「ルール・オブ・デス」を見て認識を新たにしたが、ホッジスの本領というのはこういう小品にあったのだ。これまでホッジスという名前に気づかなかった不明を恥じなければならない。そういえばクエンティン・タランティーノもホッジスのファンだとか。それはどうでもいいけど。まったく玄人好みの作風が災いして、新作が公開するのに2年もかかっている。いかんなあ。来週「ミッション・インポッシブル2」を見る代わりに「ルール・オブ・デス」をもう一度見に行って、少しはこのような隠れた佳作をサポートする姿勢を明確に打ち出すか。


ホッジスが監督として一線に踊り出ることができないのは、あくまでもインディペンデント然としたその作風にあることはありあり。画面の荒い粒子も、35mmではなく、16mmをヴァージョン・アップしたものに見える。金がなかったか機動性を重視したか。多分前者の方だろう。主人公のジャック・マンフレッドに扮するクライヴ・オーエンも、そのガール・フレンド、マリオンに扮するジーナ・マッキーも、共にスター然としたカリスマ性にはまったく欠けている。そういうのを廃した、本当に普通の人々が日常の中で陥る陥穽というものを描きたいということはわかるのだが、でもなあ、我々観客は隣りにいそうな人物を見るためにわざわざ劇場に足を運ぶわけでもないのだ。上映中ずっとつきあうわけだから、せめて主人公くらいもうちょっと華がある人間ではいけないだろうか。作中でオーエンが被るハットは結構似合っていたけど。


ホッジスは、自分は完全にアンセンチメンタルな人間であると言っている。もちろんその通りだろう。どうしても受けつけないのがハリウッドのセンチメンタリズムだとも。まったく納得できる。「ルール・オブ・デス」のような勧善懲悪ではない、誰が正義で誰が悪かのラインが明確に引かれていない世界は、アメリカでは受け入れられないだろう。多分今の日本でも。しかしホッジスのような人が定期的にこのような新作を撮っているということは、実に勇気づけられる(とはいっても、前作からほぼ10年ぶりだが。)実はそのホッジスの出世作である「狙撃者」のリメイクの製作が今進んでいる。マイケル・ケインが演じた主人公、ジャック・カーターに扮するのは、なんとシルヴェスタ・スタローン。私としては、これを機会に見ていないオリジナルの「狙撃者」が再公開されないかということだけが望みである。蛇足だが、作品中に「ER」の女医役で出ていたアレックス・キングストンが結構重要な役で出ている。まったく印象が異なるが、頽廃の雰囲気を醸し出すこっちの方が私は似合っていると思った。






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