Crimson Peak


クリムゾン・ピーク  (2015年11月)

一昨年の「パシフィック・リム (Pacific Rim)」、昨年のFXの「ザ・ストレイン (The Strain)」に続くギレルモ・デル・トロの監督作は、今度はロボットでも虫やエイリアンでもなく、「パンズ・ラビリンス (Pan's Labyrinth)」を思い出させるファンタジー・ゴシック・ホラーだ。出演は「パシフィック・リム」のチャーリー・ハナム、プロデュースに回った「ママ (Mama)」のジェシカ・チャステイン、ヒロインはミア・ワシコウスカ、そのラヴ・インテレストにトム・ヒドルストンと、かなり旬を感じさせる俳優を揃える。


しかし実は私にとって、この映画の印象は帰り道の出来事で定まってしまった。上映時間の関係で私はこの日、いつもよく行く近場ではなく、かなり離れた初めてのマルチプレックスに行った。そうやって時々は新しい映画館を発見したり、ついでにその辺をドライヴしたりして、行動半径を増やしている。この日もそんな日の一つだった。


無事映画を見て、帰途についた、そこまではよかった。ステアリング・ホイールを握りながら、デル・トロ、自分の撮りたいものを好きに撮れるようになって枷がなくなった分、詰め込み過ぎて逆に的が絞りきれてない、みたいな部分が出てきたな、ま、しかし、その分次が期待できるかも、なぞと考えながらドライヴしていた。


帰りがけに、うちのネコのトイレ用の砂を買う必要があったのを思い出した。これはペット・ショップより大型マーケット・チェーンのウォルマートの方が安いので、普段からウォルマートで買い溜めしている。それでこの日もウォルマートに寄るつもりでいた。さすがにアメリカ庶民の味方ウォルマート、初めての道を通っても一件道沿いにあったのを行きがけに見ている。


とはいえついでに野菜や食品関係も買うつもりでいたので、できるだけ自宅に近いいつものウォルマートまで行こうと思っていた。それが間違いの元だった。


そのウォルマートはハリソンというところにあり、周りを川が取り囲むように流れていて、はっきり言って交通の便はあまりよくない。この日のようにニューワーク側から入ろうとすると、特に大きくもない三つある橋の一つを渡らなければならない。とはいえ特に交通量が多いわけではないので、不便ということのほどでもない。いつもならば。


ところが、この日に限っては事情が違った。私はニューワークを通過して南側からハリソンに入ろうとしたのだが、近づくに連れて目に見えて交通が滞ってくる。なんで今日に限ってこんなにクルマが動かない? と訝る私のクルマの横を、若者の一団が徒党を組んで何やら大声で叫んだり歌ったりしながら過ぎていく。なんだ、こいつら、今日、何か特別なパレードかなんかあったっけ、と思って、彼らが着ている揃いのウェアを目にして、愕然とした。彼らが着ているのは、メイジャー・リーグ・サッカーの、ニューヨーク・レッド・ブルズのジャージだ。なんてこった、よりにもよってレッド・ブルズのゲームのある日に、ハリソンに足を踏み入れようとしている。


近隣のジャージー・シティやニューワークに住む者にとって、通常、ハリソンに行く理由は二つしかない。ウォルマートに行くか、さもなければレッド・ブルズの本拠地であるレッド・ブル・アリーナに行くかの二つに一つだ。そして近年、アメリカでもサッカー熱は上昇気流に乗っており、女子はワールド・カップでも優勝するなど、熱い視線を浴びている。最近まで唯一のニューヨーク・チームだったレッド・ブルズは、当然人気も高い。


しかも後で知ったことだが、この日はレギュラー・シーズンを首位で終えたレッド・ブルズが、DCユナイテッドを本拠地に迎えてのコンフェレンス・セミファイナルのゲームの日だった。そのゲームがちょうど終わった辺りの激混みの時刻に、よりにもよって私はハリソンに足を踏み入れようとしていた。間抜けにもほどがある。


当然のように南からハリソンに入る橋は封鎖されている。ポリスによって大きく迂回を強制させられる。進みたい道に入っていけないのでガーミンのGPSは「Recalculated」を繰り返すばかりで役に立たず、スマートフォンでグーグル・マップを出して混雑状況を見て少しでも空いている道を選ぼうとするも、こんな状況を想定してなくてしっかり充電してなかったため、しばらくして死んでしまう。アダプタはこないだ壊れて新しいのをネットでオーダーしたばかりで、今はクルマにはない。二進も三進もいかないとはこのことだ。


結局、鬼のように渋滞で動かない道でじりじりしながら牛歩の歩みを進め、普段なら橋から3分で到達するところを、1時間以上もかけてやっとのことで辿り着いた。私は何が嫌いかって、先の読めない渋滞とか待たされることほど嫌いなものはない。一度、どういう理由でか超渋滞したリンカーン・トンネルに入るのに1ブロック進むのに30分くらいかかった時は、イライラして気が狂いそうになった。


いずれにしてもおかげで、その合い間合い間に思い出す「クリムゾン・ピーク」が、なんかとてもイラついた空気をまとってしまい、刺々しい。なんとか買い物を終えて家に辿り着いても気分は優れない。因みにこの日はレッド・ブルズはユナイテッドに勝ったそうだが、あまりそれを喜ぶ気にもなれない。


シャープ邸はほとんど朽ち果てんばかりに老朽化して、邸へと続く道は紅く染まっているのだが、その紅い道からレッド・ブルズを連想してしまい、これではなにをかいわんやだ。この刺々した気分を、たぶんルシールはずっと持ってたんだな、あの顔を見りゃわかる、と、こればかりはルシールに同情を禁じ得ないのだった。











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20世紀初頭。アメリカで美しく成長したイーディス (ミア・ワシコウスカ) は、イギリスからやって来た謎めいた没落貴族のルシール (ジェシカ・チャステイン) とトーマス (トム・ヒドルストン) のシャープ姉弟に心惹かれるものを感じる。しかし父はイーディスがトーマスに惹かれていくのを快く思わず、財政的援助を条件に姉弟にこの場所から去ってもらおうとしたが、その前に父は何者かによって殺害される。イーディスはトーマスと結婚してイギリスに渡る。シャープ家の邸宅は朽ち、今にも崩れ落ちそうでもはや使用人もいなかったが、イーディスは新しい生活に胸を膨らませていた。しかし開かずの間があったり、ルシールはなにかと屋敷のルールにうるさい上、イーディスの健康状態は段々芳しくなくなっていく。さらに屋敷には人間ではない何ものかが存在していた‥‥


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