Criminal


クリミナル  (2016年4月)

実は本当は「クリミナル」ではなく、エマ・ワトソンが主演の南米が舞台のポリティカル・スリラーの「コロニア (Colonia)」(ザ・コロニー (The Colony)) を見に行こうと思っていたのだ。ちゃんと上映時間もチェックして時間に合わせて家を出て、いざマルチプレックスの窓口でチケットを買おうと思ったら、なんと私が見ようとしている回の表示がない。


私が見ようとしていた回の前の回と後の回の時間の表示はあるのに、私が見ようとしていた時間は、その下の電光表示に、まったく見たことも聞いたこともないどうやらインド映画らしいタイトルと共にあった。要するにその回だけ急遽上映に変更があったらしい。いくらインターネットが普及して事前に情報を得ることが楽になったといえ、直前にスケジュールを変えられたら、こちらとしてはどうしようもない。


今でもごくたまにではあるが、こういうことはある。だいたい、私が見ようと考えているような微妙にマイナーな映画が予定されているマルチプレックスで起きる。上映作品を直前に変更できる余裕があるのだ。人が入らないと思われたか、あるいは配給上のなんらかの理由で、上映作品がスウィッチされる。


もぎり兼コンセッション・スタンドのおねーちゃんに訊いても、それはやってないの、申し訳ないけど、といかにも申し訳なさそうな顔で言われる。それはこちらももぎりのねーちゃんに訊いたからといってそこで一旦変更されたスケジュールが再度覆るとはゆめゆめ考えてないが、それでも確認しないではいられない。


しかも南米チリが舞台の「コロニア」は、たとえワトソンが出ていようともマイナーな部類に入り、この辺りでは他の映画館ではやってない。そのためどうしても「コロニア」に固執するなら次の回まで待たなければならないが、こちらも今日はその時間の余裕がない。どうしよう、しょうがない、諦めた。というわけで、その場で他の映画をチェック、そのマルチプレックスではない、そこからクルマで10分くらいのところであと15分ほどで「クリミナル」が始まることを発見、いそいそとクルマを走らせたのだった。


「クリミナル」は、予告編を見た時から、アクション、悪くはなさそうだがなんかビミョーな感じと思っていた。どうやら主人公の頭の中に別人の記憶が移植されているらしい。最近なんか似たような作品なかったっけ? それも似たようなやつが出てたような気がする。そうだ、「セルフ/レス (Self/less)」だ。


「セルフ/レス」は年老いた富豪 (ベン・キングズリー) が、やはり記憶を移植して若い肉体を手に入れるという話で、これにもライアン・レイノルズが出ていた。ただしこちらではレイノルズは新しい記憶/人格を挿入される側だが、「クリミナル」では殺されて自分の記憶を別人の脳に移植される。果たしてどちらがマシか。もちろんどちらも嫌だ。それにしても続け様に頭をいじられる役が続く俳優ってのもそうはいまい。


考えたらレイノルズは今年最大のスリーパー・ヒットとなった「デッドプール (Deadpool)」で、やっぱり人体実験を施されている。よほど身体をいじられる運命にあるようだ。どの作品でも死ぬか死にそうな目に遭い、ミュータント化する。なんでこんな役ばっかり、と本人も思ってんじゃないか。そろそろ現実に幽体離脱を体験してそうだ。


とはいえレイノルズは、別に主人公というわけではない。「クリミナル」の主人公は、死んだレイノルズ=CIAエージェントのポープの記憶を移植される犯罪者、ジェリコに扮するケヴィン・コスナーだ。コスナーは「スーパーマン」シリーズでスーパーマンの育ての親を演じており、ポープの妻に扮しているのは、「バットマン vs スーパーマン/ジャスティスの誕生 (Batman v Superman: Dawn of Justice)」でワンダーウーマン役のガル・ガドットだ。先週見たばかりだ。さらにCIAのポープの上司ウエルズに扮しているのは、旧「バットマン」シリーズでゴードンを演じていたゲイリー・ゴールドマンであるなど、なにやら「クリミナル」はDCコミックス色が強い。なるほどマーヴェル・コミックスの「デッドプール」主演のレイノルズは、最初から貧乏くじを引かされる運命だったようだ。


ところで「クリミナル」の舞台はロンドンだ。近年、ロンドンを舞台にしたアクション映画が増えており、たぶん観光産業に力を入れるロンドンが、これまで許可してこなかった市街地での大掛かりな撮影を認めて、むしろ率先して撮影を誘致しているんじゃないかというようなことを「エンド・オブ・キングダム (London Has Fallen)」を見た時に思ったのだが、今回「クリミナル」を見て、さらにその意を強くした。さもなければこんなにロンドン市街でアクションばかりある作品が続くわけがない。最近はニューヨークやロサンゼルスより、ロンドンで銃撃戦やカー・チェイスが起こる確率の方が高い。


ビミョーに面白そうだがビミョーにずれていそうな気もした私の予感は、実際に映画を見て間違っていなかったことを知った。結構すごい面々が出ていると思うが、しかし一番の失敗は、やはり主演のコスナーが、そこまで悪そうなやつに見えないことにある。この役はやはりもっと強面か、さもなくばもっと危なそうな雰囲気を醸し出す奴にしてもらいたかった。また、コスナーを追う立場のオールドマンが、やることなすこと全部後手後手というかすぺりまくるので、いい加減開いた口が塞がらない。いくらなんでもここまで使えない奴がCIAの上級職にいるわけがなかろうと思う。「バットマン」でゴッサム・シティを支えていた奴が、ここまで外しまくるはずがない。


医学の最先端技術を手にする医者が、旧人類を代表するトミー・リー・ジョーンズというミス・マッチもまた違和感を誘う。記憶を移植するというSF擬きの作品ゆえ、意図的に重要なキャスティングをずらしているのかとすら思え、そうすると確かにそのビミョーなずれ感覚を楽しめないこともないとは言える。ジョーンズも「メン・イン・ブラック (Men in Black)」で記憶を消されたりしていたからな。











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ロンドンで活動するCIAエージェントのビル・ポープ (ライアン・レイノルズ) は、国家機密に関する重要な情報を持っているザ・ダッチマン (マイケル・ピット) と称するハッカーと取り引きする約束をしていた。しかし約束の場所に向かうためにビルが乗ったタクシーは別のハッカーの手によって違う場所に誘導され、ビルは命を落とす。なんとしてもビルがそれまでに知り得た情報にアクセスしたい上司のクエイカー・ウェルズ (ゲイリー・オールドマン) は、脳神経科医のフランクス (トミー・リー・ジョーンズ) の力を借りて、ポープの記憶を、収監されている粗暴な犯罪者のジェリコ (ケヴィン・コスナー) の脳に埋め込む実験を許可する。最初、実験は失敗に見えたが、段々とポープの記憶がジェリコの記憶を侵食するようになる‥‥


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