Creed


クリード チャンプを継ぐ男  (2015年12月)

実はもう「ロッキー (Rocky)」が何作目なのかわからなくて調べてみた。正直言って「ロッキー」シリーズはそもそものオリジナルの第1作が最高最上で、後は下り坂、みたいな印象が強い。とにかく「1」の印象が強過ぎる。


実際、いまだに記憶に強く残っている「1」に較べ、「2」以降はほとんど覚えていない。「2」も「3」も見ているのだがほとんど記憶に残ってなく、「4」に至っては見たかどうかの記憶すらない。「5」は既に興味なく、「6」は痛々しくてほとんど避けていた。さすがに、まだ続きがあるとは思ってなかった。そもそも、「1」が製作されたのが1976年、ほぼ40年前の話だ。こんな息の長い話が、スポーツ・ドラマというのが信じ難い。もっとも、さすがにロッキー自身がいまだにボクシングをするわけではないが。


公開年を見てみると、「1」1976年、「2」1979年、「3」1982年、「4」1985年、「5」1990年、「6」2006年、そして今回の「7」こと「クリード」が2015年だ。ロッキーは「5」では既に引退しており、「6」は老体に鞭打ってリングに上がるという筋書きだそうだ。


まず、だいたい3年から5年の間隔で続いていたシリーズが、「5」と「6」の間はいきなり16年開く。「6」でまたまた我々の前に現れたロッキーは、既に現役ではない。ボクシングすることはするが、それはエキシビションだ。なんか、もう、そっとしておいてやれ、と思う。


今回「クリード」を見ていて、エイドリアンが既に死んでいたということにちょっと衝撃を受けたが、彼女は既に「6」で他界していた。私はまた、タリア・シャイアにギャラ払うのが嫌で死んだことにしたのか、失礼な、と思っていた。そしてまた、その「6」のさらに9年後に「クリード」だ。「ロッキー」はスタローンがいる限り終わらない不滅のシリーズだったのか。


かつて「ダイ・ハード (Die Hard)」について書いた時、息の長いシリーズということで「ロッキー」にも言及したことがある。その時、主人公がアスリートでもある「ロッキー」は、さすがに次はないだろうというようなことを書いた。そしたらそれから10年近くも経って続篇の公開だ。どうしてくれる?


と本気で言うほど憤っているわけではなく、どちらかというと既に気持ちとしては「ロッキー」から離れていたため、特に感慨めいたものはほとんど何もなかった、というのが正直なところだ。エイドリアンが既に他界していたことすら知らなかったわけだし。だから実は今回も、当初は見るつもりはなかった。


ただ、ヴェテランというか、息の長いシリーズってのはあるもんだなと思っていた矢先、華々しく公開され、様々な記録を塗り替えたのが、「スターウォーズ (Star Wars)」だ。これにはハリソン・フォード演じるハン・ソロがいる。フォードは、スティーヴン・スピルバーグの「インディ・ジョーンズ」を1989年に撮った後、こちらももうないだろうと思われた2008年に新作の「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国 (Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull)」を撮った。この間19年、シリーズ第1作の1981年のインディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク 《聖櫃》 (Indiana Jones and the Raiders of the Lost Ark)」から数えると27年だ。


これでも記録と思えるのに、1977年の「スター・ウォーズ」にハン・ソロとして登場したフォードは、38年後の今年2015年に、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (Star Wars The Force Awakens)」で同じキャラクターでまたまた我々の前に姿を現した。ロッキーに及ばないことわずか1年だ。


とはいえ遠い遠い宇宙のいつの時代かもよくわからない世界では、時間が我々のいる地球と同じように流れているかも定かではない。それなのに、その記録を生身のロッキーが塗り替える。これを快挙と言わずして何を快挙と言えばいいのか。その上、実は「クリード」、意外にも結構誉められている。これはやはり見ておくべきかと思ったのだった。


もちろん、さすがにいくらなんでも今回は、たとえエキシビジョンでもロッキー本人がボクシングをやるわけではない。かつてのライヴァルであり友人でもあったアポロ・クリードの息子、アドニスのトレイナーとしてリングに復帰を果たす。


アドニスは父譲りの負けん気、パンチ力、ボクシング・センスを持っていたが、子供の頃 は喧嘩ばかりして矯正施設のやっかいになってばかりだった。それをアポロの妻メアリが引き取り、教育を受けさせてビジネスマンとして成功させる。しかしボクシングから離れられないアドニスはアンダー・グラウンドで賭けボクシングの世界にはまっており、しかもその熱は増しこそすれ減ることはなかった。ついにアドニスはプロのボクサーになる決心をし、ロッキーの元を訪れる。しかしロッキーは既にボクシングから離れて久しく、誰かのトレイナーとして復帰する気持ちはなかった。


その後のストーリーは、オリジナルの「ロッキー」を思い出させるアンダードッグののし上がりストーリーで、特に新味や超面白い展開があるというわけでもないが、それでも、こういうスポーツものは、ツボをきっちり押さえられると、わかっていても乗せられる。ここという場面であの、タタンターン、タタンター、というロッキーのテーマが流れると、わかっちゃいるがアドレナリンが分泌してしまうのは、これはもう、話や演出に反応しているというより、ほとんど条件反射なんじゃないかと、自分がパブロフの犬になったような気になる。しかもそれは私一人じゃない。場内が一斉にどよめいて、待ってました、という雰囲気になるのだ。息の長いシリーズならではの観客の反応という気がする。この観客のたぶん、3分の2以上は、40年前のオリジナルの「ロッキー」の公開時にリアルタイムで劇場で見ているわけがない。それなのに今でもこうなるか。「ロッキー」侮り難しと思うのだった。


アドニスはロッキーと一緒に、あのフィラデルフィア美術館の階段の上に上る。私たち夫婦も、数年前にフィラデルフィアに行った時、当然この階段の上で年甲斐もなくテーマを歌いながらロッキーごっごをした。これはもう、観光客ならやらなければいけないほとんど義務みたいなもんだ。意外だったのはこの階段、美術館の正面ではなく、後ろ側になる。後ろ側にあの階段と、それに続く広場が広がっているのだ。「ライヴ8 (Live 8)」もここで行われた。美術館の正面の顔を知らなくても、後ろ側はたぶん、世界中の人間が知っている。「ロッキー」ってやっぱり、単純に映画という枠を超えつつある。











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アポロ・クリードの隠し子アドニス (マイケル・B・ジョンソン) は、父親同様喧嘩っ早くて腕っ節が強く、小さい頃から矯正施設の世話になってきた。そんなアドニスを見かねたアポロの妻のメアリ (フィリシア・ラシャド) は、アドニスを引き取って育てる。教育を受けたアドニスはビジネスマンとして若くして成功するが、しかしアドニスが本当に心から欲していたのは、ボクシングだった。アンダーグラウンドの賭けボクシングの世界に入り浸っていたアドニスはついに意を決して会社を辞め、ボクシング一筋に打ち込むことを決心する。アドニスの向かった先はフィラデルフィアで、かつて父と闘い、そして友情を育んだロッキー (シルヴェスタ・スタローン) に教えを乞う。しかしロッキーは首を縦に振らない‥‥


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