私たち夫婦は音楽番組が好きで、NBCの「ザ・ヴォイス (The Voice)」だけにとどまらず、さすがに飽きたねと言いつつもFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」も新シーズンが始まると結局見ちゃうし、アメリカではAXSというマイナー・チャンネルが放送している、英国版の「X-ファクター (X-Factor)」まで見てたりする。
FOXの「グリー (Glee)」、NBCの「スマッシュ (Smash)」等のミュージカル番組も当然押さえていたし、ミュージカルというよりはドラマだが、FOXの「エンパイア (Empire)」のパフォーマンス・シーンや、これだけは肌に合わんと敬遠していたカントリー・ミュージックを全編にまぶしたABCのドラマ「ナッシュヴィル (Nashville)」も、録画だけはして後でステラ姉妹のパフォーマンスがあれば、その部分だけは見ている。
しかしもちろん、世の中の人が全員音楽好きというわけではないし、さらにミュージカルとなると、見る者を選ぶ。うちの女房は高校時代は合唱部と、歌うのが好きで、今でも歌のサークルに入って歌っており、プロについて習ってもいる。一方彼女の弟はまったく歌好きではなく、というかはっきり言って少なくともミュージカルは嫌いで、いきなり人が歌い出すと、そこで歌うんじゃない、と思うそうだ。現実に生活していて人がいきなり歌い始めたりなんかしたら、正気を疑われるのはもちろんだ。それはドラマでも変わらないという意見の方が、確かに正論という気もしないではない。
うちの女房とはレヴェルが違い過ぎるが、かのジャッキー・エヴァンコももちろん歌好きで、家では四六時中歌ってばかりいて弟からうるさいと言われるとどこかで言っていた。同じ家族だからといって全員歌好きだとは限らない。女房の歌仲間の女性の白人の旦那はさらに徹底していて、歌が楽しいものだとは全然思っていないらしく、この世に音楽なんてなければいいのにと言っていた。さすがにそこまで音楽が嫌いな人間がいるとは思わなかった。彼にはすべての音楽は雑音にしか聞こえないらしい。
しかし、一般的に言って、音楽が嫌いという者の方が少数派だろう。だからこそミュージカルというジャンルが確立したのだし、今でもこうやってTVでミュージカル新番組が編成される。そして「クレイジー・エクス-ガールフレンド」の場合、ミュージカルはミュージカルでも、コメディ・ミュージカルだ。これはありなんじゃないかと思う。
要するに「クレイジー・エクス-ガールフレンド」の場合、だいたいにおいてミュージカルのシーンは、思い込みの強い主人公レベッカの妄想シーンだ。つまり、元々現実の描写ではない。だからまるで関係ない者たちが大挙登場して、一大群舞を繰り広げる。その中ではなんでもありなのだ。そのシーンがミュージカルになることに対しては、誰も特に抵抗はないのではないだろうか。
主人公のレベッカに扮するレイチェル・ブルームがまた、身体を張ってこれでもかというくらいの大仰演技に徹する。番組は元々はペイTVのショウタイム向けに企画されたものを、却下されたためにCWにお鉢が回ってきたものだそうだ。万人向けのネットワーク番組にするためだいぶ作り直したそうで、CW版はあれでもかなり最初のヴァージョンから描写の過激さを抑えたものになったらしい。たぶん変わらなかったのは、ブルームの演技のテンションの高さだけなんじゃないか。彼女とミュージカル・シーンだけを見ていると、NBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」のスキットを見ているみたいな気にさせる。要するにギャグなのだ。決めのポーズで歌い終えられると、思わずTVに向かって拍手したくなる。