Crash/クラッシュ

放送局: スターズ (Starz)

プレミア放送日: 10/17/2008 (Fri) 22:00-23:00

製作: ライオンズゲイトTV、スターズ・エンタテインメント

製作総指揮: ポール・ハギス、グレン・マツァラ、ボビー・モレスコ、ボブ・ヤリ

監督: スタンフォード・ブックステイヴァー

脚本: グレン・マツァラ

音楽: シンディ・オコーナー

撮影: ラッセル・リー・ファイン

出演: デニス・ホッパー (ベン・センダース)、クレア・キャリー (クリスティン・エモリー)、ロス・マッコール (ケニー・バタジラ)、ブライアン・ティ (エディ・チョイ)、アーリーン・タール (ビビ・アーケイ) ジョッコ・シムス (アンソニー・アダムズ)、ルイ-ス・チャヴェス (シーザー・ウマン)、ニック・タラベイ (アクセル・フィネット)、モラン・アトラス (イネス)


物語: 音楽業界の大立者センダースは奇矯な振る舞いで知られており、今日も雇いの女性ドライヴァーにイチモツを開陳して立腹させ辞められる。代わってその職を得たのは黒人のアンソニーだった。警官のケニーはほとんど私事でサイレンを鳴らしてパトカーを運転してイネスの車に衝突、大破させた上に非をイネスに押し付ける。同乗していたパートナーのビビは同僚の刑事アレックスとできていた。そのアレックスはコリアン街から余禄をかすめていたが、コリアン・タウンの中心的人物が殺され、その調査を命じられる。アレックスは昔悪事に手を染めていたエディから事件の黒幕を手繰り寄せようとするが、すんでのところでエディに逃げられる。エディは現在は救急隊員として救急車に乗っており、先だってもクリスティンの年老いた父を救急車に乗せて病院に運んだばかりだった‥‥


_______________________________________________________________



自慢じゃないが私の嗜好は昔からマイナーに偏っている。だからといって特に普段生活する上でメリットもデメリットも感じるわけじゃないが、それでも毎年秋になると、自分がマイナー嗜好であることを痛感させられる。私が気に入った新番組、見たいと思っていた新番組からどんどんキャンセルされるからだ。


今シーズンは年初のWGA (脚本家組合) のストの影響を受け、投入された新番組が例年の約半分くらいに落ち込んだため、手駒のないネットワークは番組の視聴率がとれなくても簡単には番組をキャンセルすることができなった。それなのに、やはり私が見ている番組がキャンセルの憂き目に遭う。


今シーズンのその手の番組の筆頭が、クリスチャン・スレイターが一人二役のスパイに扮するNBCの「マイ・オウン・ワースト・エネミー (My Own Worst Enemy)」だ。J. J. エイブラムスの「フリンジ (Fringe)」とかは当然誰でも見ていて、それなりに話題になって誰かがどこかで書くだろうから別に私のページで採り上げるまでもなかろうと思っていたのだが、私の興味度では、「エネミー」はその下の2番手、3番手辺りに来ていた。そのため、当然番組について何かコメント書こうかなと思っていた。


スレイター演じるスパイのエドワードは、一方で敵の目を欺くため一般人ヘンリーとしても生活していたが、それを完璧にするため頭にチップを埋め込み、記憶を消すことで完全なスパイ活動をこなせていた。なんせ一般人になった時には本人に自分がスパイという自覚がないから、少なくと二重生活はほぼ完璧にこなせていたはずだが、もちろんそうは問屋が卸さず、だんだん生活が破綻を来たし始め、ヘンリーがついにエドワードの存在を知り、お互いに憎みあうという展開になる。面白そうだと思ったんだが、一般視聴者には受けず、やっぱりキャンセルだ。かといってNBCは番組を引っ込めても差し替えて編成する番組の手駒がないから、既に製作済みの9話は放送してから番組を降ろすそうだ。それでも、番組の一応の決着なぞつかないんだろう。


とまあ今回は、それでも9話は放送するのだからその分だけでも「エネミー」について書こうかなと思っていたんだが、結局踏ん切りがつかなかった。一昨年、私が面白そうだと思っていたのにたった3回放送されただけで終わったCBSの「スミス」も二重生活をする泥棒の話で、どうやら私はそういう話に目がないようだ。それでも「スミス」はせっかく見てたんだからと意地で書いたが、やはり尻切れトンボで終わるのが最初からわかり切っている番組についてあれこれ書くのもなあと思って、今回はよすことにした。無念。


というわけで、今回はこちらも面白そうかもと思っていたスターズ (Starz) の「クラッシュ」にすることにした。この番組、ポール・ハギス脚本監督で一昨年のアカデミー賞を受賞したあの「クラッシュ」のTVシリーズ版ということになっている。ハギスも製作総指揮として参加する。とはいえハギス自身がまた脚本も書いて演出するなんてことはなく、要するにハギスの「クラッシュ」を下敷きに新しく製作した群像劇という印象が強い。ハギスは昨年もTV界にまた一時戻ってきて「ブラック・ドネリーズ」を作っていたし、きっと今でもかなり忙しく、本当は休みたいところを担ぎ出されただけ、みたいな感じがする。


「クラッシュ」の持ち味、面白さは、何人も登場する多くの登場人物が、それぞれに異なる階級、場所、世界で生活していながら、運命の輪に弄ばれるようにお互いの人生のある一瞬に接触し、影響し、影響され、悲劇や喜劇を紡いでいくという点にあった。細部にわたって本格ミステリのように縦横無尽に伏線が張り巡らされ、クライマックスはそれらの伏線がかちかちと収まるべきところに収まって収束する。私の女房はそれこそが息苦しくて好きじゃないと言う。それもわからんじゃないが、私のようなミステリ好きにはこたえられない作品を作ってくれるのがハギスなのだ。それは当然「ブラック・ドネリーズ」も、昨年の「告発のとき (In the Valley of Elah)」もそうだった。


TV版「クラッシュ」では、番組は1時間なり2時間なりですべて終わるわけではないから、物語の網の目がどう絡み合って最後に大団円なりを迎えるのかはわからないが、当然オリジナル同様の群像劇でやはり途上人物はそれぞれに大なり小なりの連携や接触があって影響し合っている。その登場人物も、オリジナルに近い立場の者もいれば、まったく新しく造形してみたみたいな者もいるなど、100%同じわけではないが、かなりオリジナルを意識している、あるいは影響されているのは確かだ。


それらを演じる俳優も、オリジナルと異なり、基本的にあまり知られていない俳優の占める割合が大きい。ただ一人の例外が、音楽界のヴェテラン・プロデューサー役で登場するデニス・ホッパーだろう。彼以外は私の場合、「ワイルド・スピードX3 Tokyo Drift (The Fast and the Furious: Tokyo Drift)」に出ていたブライアン・ティの顔を覚えているだけだった。


役柄で言うと、まずオリジナル版では主人公と言えなくもない、ドン・チードルとジェニファー・エスポジトの刑事ペアがここでは見当たらない。マット・ディロンとライアン・フィリップが演じていた悪徳/良心的警官のペアは、TV版ではケニーとビビということになろうかと思う。一方、TV版でわりと大きな役柄の遊軍的な刑事アレックスは、オリジナルにはいない。救命隊員のエディもそうだ。ただしエディは、ルダクリスとラレンツ・テイト、およびアラブ系のおっさん等が演じていた差別される側を、ホッパーの運転手として登場するアンソニーと共に体現しているとも言える。サンディ・ニュートンとテレンス・ハワード、ブレンダン・フレイザーとサンドラ・ブロックが演じていた上流階級役は、TVではクリスティンの家族が代表している。


とまあ、オリジナルを連想させたり明らかにその延長線上にあると思えるキャラクターもないではなく、その関係をあれこれ考えるのも楽しくないわけでもないが、ここはやはり全員新しいキャラクターとして、白紙の状態で楽しむべきだろう。たぶん作り手もオリジナルのキャラクターは念頭にあったろうが、それに縛られることは欲してないに違いない。


TV版で最も印象的、というか気になるのは、これはどうしてもそうならざるを得ないんだろうが、気の利いたセリフの一つや二つ、印象的なシーンの一つや二つを挟み込もうとかなり頑張っている、あるいは苦労しているのがわかることにある。例えば冒頭のホッパー演じるセンダースのシーンでは、素行に問題のあるセンダースは、わざと女性のショーファーに対してパンツのジッパーを降ろして自分のイチモツを出してみせる。ショーファーは激昂して仕事を辞め、センダースは路肩に取り残されるという展開なのだが、ハギス自身が脚本を書いていたら、こういう画一的というかありふれているというか、ホッパーならやりそうなことを実際に書いてしまうという独創性のないシチュエイションはまず書くまいと思う。同様のことは悪徳警官に扮するケニー関連の言動にも通じる。なんというか、使い古された展開という印象を受ける。


一方、これはなかなかと思ったのが、クリスティンの父が救急車で病院に運ばれる時、車内でエディに対し色々骨折ってくれたお礼を言った直後に、世話になってこんなことを言うのもなんだけど、父がしていた腕時計が見当たらないんだけど、知らない? と尋ねるシーンで、この展開はなかなかと思わせられた。主要登場人物の中で、警官とか派手な見せ場のあるキャラクターよりも、少なくとも私は、家族劇といった趣のある、舅と婿の確執、間に入るクリスティンをとらえるこのパートを最も面白く感じた。むろん話が進むに連れて色々とダイナミズムは変わってくるだろう。


特に今後の展開に大きく影響を与えそうなのだが、これから登場が予想されているトム・サイズモアの出演で、こいつ、悪徳警官以外の役が何かあるのかと思ってしまう。もしそうだったらきっとケニーは霞むと思うが、そういうキャラクターが既にあるので、たぶん何か別の新しい性格づけをされるのだろう。また、「クラッシュ」は13話製作が予定されているわけだが、その結末、大団円のつけ方が最も気になるところだ。それまでの話が巡り巡って収まるべきところに収まるのか、収拾はつくのか、つかないのか。13週あると最初の方にあったはずの伏線なんてもう覚えてないことも予想される。とはいえペイTVのスターズの放送であるからして、「ブラック・ドネリーズ」が辿ったような途中キャンセルという羽目にはならないだろうから、安心して最終回を睨みながら話を按配することも可能だろう。まずはお手並み拝見といったところか。








< previous                                    HOME

 

Crash


クラッシュ   ★★1/2

 
inserted by FC2 system