Cowboys & Aliens


カウボーイ&エイリアン  (2011年8月)

19世紀末西部。一人の男 (ダニエル・クレイグ)  が荒野で目覚める。しかし彼には記憶がなく、なぜ自分がこんなところで目覚めなければならないかわけがわからない。しかも腕にはよくわけのわからない金属製の腕輪がはめられており、どうしても外すことができない。さらにそこへやってきた荒くれ男どもを一瞬の早業で倒したところを見ると、かなり腕は立つようだった。町に入った男は酒場で彼を知っていると思われる男たちやエラ (オリヴィア・ワイルド) の好奇の目に迎えられる。しかし一息つく間もなく、バーシー (ポール・ダノ) が現れて無法に振る舞った挙げ句男にたしなめられ、結果、パーシーの実力者の父ウッドロウ (ハリソン・フォード) が出馬してくる。しかし男とウッドロウの対決と思えたシーンに突如現れて町の者たちを驚愕させたのは、なんとUFOだった‥‥


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テレンス・マリックの「ツリー・オブ・ライフ (The Tree of Life)」を見逃してしまった。やっとうちのとこでも上映が始まったのでいそいそと見に行ったら、もしかしたらとは思っていたが案の定混んでいる。しかし我々夫婦は翌週から2週間休暇で帰省予定なので、今しか見るチャンスがない。


それで運を天に頼んで劇場まで来てみたはいいものの、この狭い劇場でこの人の並び方だと、切符が売り切れになるのは間近か、よくて座れるのは最前列というのは、これまでの経験からして明らかだ。それでちょっと最前列で首が痛い思いをしてまで見るのはやめようと、ここは諦めて帰ってきた。この人出ならあと一と月くらい上映しているだろう。


それなのに、休暇を終えて帰ってきたら、「ツリー・オブ・ライフ」がラインナップから消えている。東京滞在中はTVをつける度に近日上映開始の「ツリー・オブ・ライフ」を盛んに宣伝していたので、帰ったらまず何はともあれこれだなと思っていたのに、「ツリー・オブ・ライフ」が消えている。なんてこった。初めてマリックの新作の公開を見逃した。


しかも実は今回、帰省中の田舎ではなんと台風直撃という事態に直面してしまった。私の田舎は台風銀座ではあるが、ここ2、3年台風が上陸したことはなかったそうで、私の家族もちょっと不感症というか事態を楽観視していて、まあ大丈夫じゃない、くらいの意見しかなく、それで私も気楽に構えていた。


それが東京に行く当日の朝、NHKニューズを見ていたら、JAL、ANA共に全便欠航というテロップが流れる。全然大丈夫じゃないじゃないか。それでとにかく、空港に行けば翌日以降の便に振り替えてもらうための整理券を配っているはずだからと、空港に足を運ぶ。しかしもらった整理券の番号は1717と1718という4ケタの番号で、我々の前には1,700人も既にキャンセル待ちがいる。しまった、もうちょっと早く行動を起こしていればよかったと思っても後の祭りである。


しかも私は大学の受験で歴史の年号を覚えた時から数字を語呂合わせで覚えるという癖が抜けず、とっさに、いないな (1717)、 いないや (1718) と語呂を合わせ、縁起でもないとそばの女房から睨まれる。いずれにしてもカウンターの係員の話だと、たぶん明日の夕方くらいから飛び始めるだろうとのこと。とにかくこちらとしてはそれまでは待つことしかできない。


とまあ、それくらいならまだよかったのだ。問題はこの台風9号、ほとんど史上最遅と言ってもいいくらい足の遅い台風で、いつ見ても天気図上で位置が変わらない。翌朝天気予報を見てもほとんど前進している気配がなく、この日も全便欠航となった。ちょっと焦り始める。こちらは旅行中の身で、昨日と合わせ丸々二日ふいにするのは痛い。


雨風は吹き止まず、外に友人らと飲みに出ることもできず、家籠りを強いられる。一日中何もせずに家でぶらぶらしているという、それはそれで休暇といえば休暇らしい生活ではある。夜、強風で庭の木の大枝が轟音と共に折れて持っていかれる。親父や弟と共に折れて側道に落ちた枝を拾い上げ、のこぎりで切って束ねる。これも休暇中ならではか。


結局飛行機が飛び始めたのはさらにその翌日の午後からで、我々はなんとしてでもこの日のうちに東京入りしたいと空港に来たものの、生まれて初めてここまで混雑した空港を経験したというくらいの激混みで、本当に足の踏み場もないくらいでまったく収拾がつかない。空席待ち整理券の番号は4000番以上まで表示されている。我々はまだいい方だ。我々の隣りに立っていた子供連れの若いお母さんは携帯で誰かに向かって、生き地獄だよ、生き地獄、としきりに叫んでおり、頼むからよけい気が滅入るからそんなことがなりたてんでくれと思う。


夜まで待って、やっと臨時便に乗れそうだということになったのだが、聞くと9時出発予定が遅れて離陸は10時過ぎになりそうだという。それはイヤだ。9時ならともかく、10時に那覇を発ったら羽田に着くのは深夜零時を回る。モノレールも山手線も動いてない。羽田に着いてもそこから動けない。1万円かけて都内のホテルまでタクシーで行くのはいくらなんでもバカらしい。どうせホテルに着いても寝るだけなのだ。それで結局この日も飛行機に乗ることは諦め、またまた実家に戻った。これで3日ふいだ。一日中空港にいて、待ち疲れでくたくただ。3年ぶりに休暇で帰省した実家でこんな報いを受けるほど日頃の行い悪かったっけ。


翌日だって前日ほどではないとはいえまだ空港はかなり混雑しており、JALの係員の対応も情報や指令が行き届いておらず、こちらに並べと言われたから並んでいるのに他の者にこちらではありません、こちらですと並び直しを強いられ、そこでもまた別のことを言われる。ここまで台風の影響を受けた経験は向こうもないだろうから多少は同情すべき点もあるだろうとはいえ、それに振り回されるこちらの身にもなって欲しい。こういう時にうまく客さばきができてこそのサーヴィス業だろうが。こんなだからお前らつぶれるんだと、さすがにこちらも切れそうになった。


そんなこんなで旅先で3日ふいにした痛手は大きく、予定していた東京5泊は2泊に切り詰められ、スカイツリー見学も断念せざるを得なかった。スカイツリーは原宿の歩道橋の上から遠くに霞んで見えるのでよしとすることにした。


私は旅先でも時間があれば映画も見るが、今回はさすがにそれは状況が許さなかった。田舎にいた時は時間だけはあったが、なんせ外に出られない。東京ではまったく時間がなかった。それで結局、アメリカの一週間と合わせ都合丸々3週間、一本も映画を見ずに過ごした。一と月近く映画一本も見ないというのは、東京でサラリーマン生活を送っていた時は疲れていてままあったが、アメリカに来てからはたぶん初めてだ。20年ぶりくらいだ。ああ、それなのに帰ってみると「ツリー・オブ・ライフ」が終わっているなんて。


とまあ長々と映画に関係のない話を綴ってしまったが、今回映画が見れなかった遠因でもあるということで。それにしても旅行って、なにかしらハプニングが起こる。


さて、そんなこんなで帰米して最初に見た映画は、「ツリー・オブ・ライフ」ではなく、まったく方向としては対照的な、「カウボーイ・アンド・エイリアン」になった。実はこれはこれで面白そうだなと、帰省する前から予告編を見て思っていたのだ。なんでもヒットしたグラフィック・ノヴェルの映画化だそうだ。


カウボーイとエイリアンの対決って、その舞台設定だけを耳にすると、そんなのありかと一瞬絶句してしまう。こんな奇想天外な話はちょっと聞いたことがない。しかし、よく考えると、エイリアンが現代や未来に地球に降り立ったり征服しようとしているなら、それが過去に何度も起こっていたとしてもなんの不思議もない。日本の奈良時代だったかもしれないし、中国の群雄割拠の時代だったかもしれないし、古代ローマやマヤ、チベット等、それはどの時代でも起こり得た。カウボーイとエイリアンが遭遇していたとしても、別にあり得ない話ではないのだ。


というわけで、エイリアンが秘密の基地を築いていたのは19世紀も終わりのアメリカ西部の荒野。そこで秘密裏に人間をさらってきては何かの調査をしていた。ジェイクもそのエイリアンに拉致されたうちの一人だったが、隙を見て脱出、その時に腕輪のような武器らしきものを身につけるが、その時の後遺症で一時的に記憶をなくす。町に帰ってきたジェイクは巡り巡って権力者のウッドロウと手を結び、一緒にエイリアン討伐に乗り出すことになる。それに謎の美女エラやジェイクのならず者仲間の一行等が絡み‥‥という展開。


上で言っていて言うのもなんだが、やはりこの話、奇想天外だ。いや、カウボーイとエイリアンが遭遇することが奇想天外というのではない。それは単純に確率で言うとまったくあり得ない話ではないと思う。奇想天外なのは、カウボーイとエイリアンが遭遇するというそのことではなく、出会ってしまったエイリアンに対し、カウボーイが臆することなくエイリアンに戦いを挑むというその構図にある。


100年以上も前、科学もまだ発展途上で、たぶんエイリアンという概念すらなかった当時の状況で、空を飛び、説明不能の武器でこちらを攻撃してくる相手に対し、やっつけてやるなんて発想が浮かぶだろうか。単純に恐れおののき、畏怖するのが普通の反応ではなかろうか。このカウボーイたちの無鉄砲な反応にこそ度肝を抜かれる。正直言うと、お前ら、揃いも揃ってみんなバカ、という印象を拭い難い。むろんそこでひるむことなく立ち向かっていったからこその冒険SF活劇なのだが。


そのカウボーイの筆頭のジェイクに扮するのがダニエル・クレイグ、ライヴァル関係にあると言える町の大立者ウッドロウに扮するのがハリソン・フォードだ。両雄揃い踏みという感じで、これはこれで楽しいキャスティングではある。しかしフォードは「スター・ウォーズ (Star Wars)」だけではなく、西部劇の世界でもやはり宇宙人と遭遇するんだな。


彼らの絡む謎の美女エラに扮するのがオリヴィア・ワイルドで、「トロン (Tron)」といい、SF系作品への出演が続く。独特の切れ長の眼の印象がSFと相性がいい。「ミークズ・カットオフ (Meek’s Cutoff)」で見たばかりのポール・ダノもSF‥‥ではなく西部劇への出演が続く。これまた癖のある顔が印象的な脇として好まれる。演出は「アイアン・マン (Iron Man)」のジョン・ファヴローで、「アイアン・マン」もそうだが、いかにもハリウッド的な視点からちょっと外れた地点で大作を撮る。ちょっと、次に何を撮るかが気になる。








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