オフィス、仕事場を舞台とするコメディというと、何はともあれ真っ先に思い浮かぶのはかつてのNBCの人気コメディだった「ジ・オフィス (The Office)」だ。他にも古くは「ザ・メアリ・タイラー・ムーア・ショウ (The Mary Tyler Moore Show)」、「マーフィ・ブラウン (Murphy Brown)」、近年では「オフィス」と共にオフィス・コメディを牽引した「パークス・アンド・レクリエイション (Parks and Recreation)」もあった。
現在進行形ではFOXの「ブルックリン・ナイン-ナイン (Brooklyn Nine-Nine)」とHBOの「ヴィープ (Veep)」が、頭一つ抜けているという感じがする。女性が主人公のオフィス・シットコムを多く思い出すのはアメリカだからと言うべきか、最近のMeeTooムーヴメントを鑑みるに、アメリカでも女性の社会進出に苦しんでいたからこそ、女性が主人公のオフィス・シットコムが多数製作されたと見るべきなのか。
「コーポレイト」の場合は、現代という時代を反映して、やたらと暗いというか、ペシミスティックな話になっている。なんてったって主人公の二人に覇気がない。全体に脱力感が漂っており、なんでこれがコメディなのかよくわからないというくらい笑う頻度は少なかったりする。かといってできが悪いというわけでもない。登場人物に覇気がないという点では、一昨年のFXの「アトランタ (Atlanta)」がこんな感じだった。やはり時代を反映するとこんな感じになってしまうのだろうか。
「コーポレイト」がオフィス・コメディであることを強く意識させるのは、本当にすべてがオフィスの中だけで進行することにある。巨大企業であるハンプトン・デヴィルは、自社ビルの中にほとんどすべてが揃っており、外に出ずになんでも用が足せる。最初の2回を見ただけだが、それでもビル内に託児所やジム、プールがあるのは間違いあるまい。
他方、そのことが閉塞感を増す。ほとんどオフィス外にカメラが出ることがないのだ。その上、そのことを意識した暗めのライティングによって、どんどん社員は内向的に追い込まれる。主人公のマットとジェイクがどんどん生きながらゾンビ化していくように見えるのも故ないことではない。
番組第2回では、多国籍企業のハンプトン・デヴィルが中米に展開しているバナナのプランテイションの絵が最初と最後に挿入されるが、屋外シーンということもあり、異様に明るく感じる。むろん意図的なのは言うまでもないだろう。社名のハンプトン・デヴィル (Hampton Deville) の Deville というのは、Devil に掛けているのも一目瞭然だ。巨大オフィスは、社員にとって地獄のようなものだ。
だいたい、主人公のマットとジェイクがいったいどういう役職なのかも、実はよくわからない。調べてみると、Junior-Executive-in-Training ということになっていた。将来幹部候補という職名になるか。そんなのが仕事として通用するのか。要するに閑職というか、コネで入ってきて空いている部署がないからそういう職名になるのか。
この二人にしゃしゃり出てきていつも命令するジョンとケイトも、いったい何様なんだ、正直言ってあんたら、仕事しているようにはまったく見えない。大企業になればなるほど、こういう、仕事しない社員が増える。他で粉骨砕身働いている者のおかげで、使えない社員働かない社員も養っていけるからだ。因みに二人の名前が、TLCの「ジョン・アンド・ケイト (Jon and Kate)」から頂いているのもまず間違いあるまい。
ハンプトン・デヴィルの血も涙もないCEOクリスチャン・デヴィルに扮するのはランス・レディックで、いつもながら印象的な顔立ち。あんた、「ジョン・ウィック (John Wick)」のどっちかっつうと使われる方の立場が、「コーポレイト」では血も涙もないワンマン経営者だ。でも、合っている。