Contraband


ハード・ラッシュ (コントラバンド)  (2012年2月)

クリス (マーク・ウォールバーグ) はかつて腕のいい麻薬の密輸入業者だったが、今では足を洗い、防犯システム設置の会社を設立し、妻のケイト (ケイト・ベッキンセイル)、子供たちと平和に暮らしていた。しかしケイトの弟のアンディ (カレブ・ランドリー・ジョーンズ) が小金を得ようとして発覚したために、ドラッグ・ディーラーのティム (ジョヴァンニ・リビシ) のドラッグを川に捨てて窮地を逃れたものの、失った分のドラッグの代金の返済を迫られる。クリスはかつての仲間を再び集め、南米からドラッグを密輸入する一回限りの最後の大仕事を計画する‥‥


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映画の新作が公開されると、だいたい主演スターはトーク・ショウにゲスト出演して、ここを先途とばかりに宣伝に努める。覚えているところでは、最初の「アイアン・マン (Iron Man)」が公開された時に、主演のロバート・ダウニー・Jr.が、たぶん寝る暇もなくて、目の下にクマができるくらい色んな番組に出演して宣伝にあい努めていた。チャンネルを合わせたほぼすべてのトーク・ショウにダウニーJr.が出ており、たぶん本物のアイアン・マンより忙しそうな超人的なスケジュールをこなすプロ根性に感心した。


というのを思い出したのも、今回、一時ありとあらゆるトーク・ショウに、「コントラバンド」主演のマーク・ウォールバーグが出ていたという印象があるからだ。ダウニー・Jr.の時もそうだったが、今回も、見る番組見る番組のほとんどにウォールバーグが出て「コントラバンド」の話をしていた。これが現実にどのくらいの興行成績の向上となって反映してくるかは判定しようがないと思うが、いずれにしても、真面目に自分の仕事をしようとするその姿勢には感心する。


ただしこれだけ露出度を高めると、時にはポカもする。今回は、公開時期が「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (Extremely Loud and Incredibly Close)」と重なったこともあって、その話も出たんだろう、とある雑誌のインタヴュウで、「オレが9/11の時にハイジャックされた飛行機に乗っていたら、ああいう風にはならなかった」と発言して、かなり9/11関係者、端的に言って遺族の反発を買った。


そりゃそうだろうと思う。実際にもしウォールバーグが乗っていたとしたら、事態は異なった展開を迎えたかもしれないが、問題はそんなところにはない。9/11は起こってしまったのであり、死んだ者は帰らない。遺族にとっては、ウォールバーグの発言はいまだに消えない心の傷口に塩を塗り込むようなものでしかない。結局ウォールバーグは自分の主演作の宣伝行脚中に、今度は一転して9/11遺族に謝罪する羽目になった。これをまた斜に見て、ちゃんと新作の宣伝になったと言う者もいる。どうなんだろう。


とまあ、ケチがついたのか宣伝になったのかはわからない「コントラバンド」、今回ウォールバーグが扮するのは、かつての稼業から足を洗った元ドラッグ・スマッグラー、すなわち麻薬密輸人のクリスだ。腕がよく、かなり羽振りもよかったクリスだが、今は家族もでき、小さな防犯システムの会社を経営している。


しかしできの悪い義弟のアンディがかつてのクリスよろしくドラッグ・スマッグリングに手を出し、しかもポカをして、仕入れるべき大量の麻薬を文字通り水に流してしまう。ディーラーのティムに期日までに金を払わなければ、アンディだけでなく、クリスと妻ケイトの子供たちにも手が伸びると脅され、クリスはもう一度だけ、最後の大仕事のためにかつての仲間に連絡をとる‥‥


要するに、これ、「ミニミニ大作戦 (The Italian Job)」の変奏だ。バディ・ムーヴィだ。見るまでは単純にウォールバーグ主演のアクションものとしか思っておらず、派手なアクションでも見るか、ぐらいにしか思ってなかったので、お、こういう話だったのかと期待する。


しかも今回は、主役級の面々を揃えた「ミニミニ大作戦」に較べ、名の売れている俳優はウォールバーグと、妻のケイトに扮するケイト・ベッキンセイルくらいなのだが、そのため、逆に配役が曲者揃いで、それがいい。冒頭のクレジットで、お、こいつも出ているのか、こいつもだ、という名前がいくつも出てきて、このキャスティングならこれは面白いかも、と期待させる。


冒頭で地元のドラッグ・ディーラーに運ぶべきドラッグを川に流して自分の首を絞める羽目になるアンディに扮するのは、「X-Men: ファースト・ジェネレーション (X-Men First Class)」にもちらと出ていたカレブ・ランドリー・ジョーンズ。いかにもできが悪く、ポカをしそうな青二才的な雰囲気がいい。義弟のアンディではなく、本当の弟のセバスチャンを演じるのはベン・フォスターで、「3時10分、決断のとき (3:10 to Yuma)」「ザ・メカニック (The Mechanic)」と来て、今度はどうやって裏切ってくれるのかと思っていたら、今回はちゃんとした家族思いの青年だ。


気の弱い仲間のデニーに扮するのはルーカス・ハース、私はいまだに彼を見ると反射的に「刑事ジョン・ブック/目撃者(Witness)」で、トイレの個室の便器の上に立って震えていた少年を思い出してしまうのだが、むさいおっさんになってしまった。他にも南米の切れたボスに扮するディエゴ・ルナ、地元ニュー・オーリンズのドラッグ・ディーラーにジョヴァンニ・リビシ、密輸船に仕立て上げる船の船長にはJ. K. シモンズといった面々が扮しており、この癖のあり方がたまらない。


実はこうやって一癖も二癖もある面々に囲まれて、最も割りを食ったのは誰あろう主演のウォールバーグではなかったろうかという懸念もなくはなく、なんか、これってかなり「ザ・ファイター (The Fighter)」で周りの者に出番を食われたことを再現していないかという気がする。「アンダーカヴァー (We Own the Night)」「ディパーテッド (The Departed)」で、ホアキン・フェニックスやレオナルド・ディカプリオを立てて脇に回った時はかなりよかったことを思うと、いささか残念。しかし、彼自身が「ファイター」でも「コントラバンド」でもプロデューサーであり、出演者の決定に口出しているだろうことを考えると、人を見る目は確かなようだ。


「コントラバンド」は、実はアイスランド製映画「レイキャヴィク-ロッテルダム (Reykjavik-Rotterdam)」のリメイクだ。なんか、見ている時からなんとなくハリウッド映画っぽくない雰囲気をまとっているのは、アメリカでは最も異国情緒が漂う街の一つであるニュー・オーリンズが主要舞台であり、海を越えてパナマにも足を伸ばすからかと思っていた。しかしそれよりも、オリジナルで主演のクリストファー (スペルはKristóferだ) を演じていたバルタザール・コルマウクルが、今回は演出を担当していることの方に大いに関係がありそうだ。


レイキャヴィク-ロッテルダムの航路が、「コントラバンド」ではニュー・オーリーンズ-パナマになる。たぶんオリジナルはそれこそ「陰謀のシナリオ {Smilla's Sense of Snow)」(またまた情けない邦題。なんで「スミラの雪の感覚」じゃダメなんだろう) みたいな北海ドラマになっていると思うが、それを夏のカリブ海に置き換える。リメイクにこそこういう舞台転換が必要と思っている私としては、非常に同意する。デイヴィッド・フィンチャーの「ドラゴン・タトゥーの女 (The Girl With The Dragon Tattoo)」も、ニュー・オーリンズとかを舞台にして、ほとんどヴァンパイア・ドラマ的なホラーの雰囲気をまとわせればよかったのに。








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