Contagion


コンテイジョン  (2011年9月)

香港への主張から帰ってきたばかりのベス (グウィネス・パルトロウ) がいきなり倒れる。慌ててベスを病院へ連れて行くミッチ (マット・デイモン) だったが、医師からベスの死を伝えられる。さらに悲しみに暮れる間もなく今度は息子までもが帰らぬ人になる。強力な感染力を持つ病原菌の存在が予想された。さらに香港、東京、ロンドンでも感染者が出る。感染は猛烈な速さと威力で今や全世界に蔓延しようとしており、ブロガーのクラムウィード (ジュード・ロウ) はここを先途とばかりに世論を煽る情報を発信し続ける。CDC (疾病管理予防センター) のチーヴァー (ロウレンス・フィッシュバーン) は原因を究明すべくミアーズ (ケイト・ウィンスレット) を現地に派遣すると共に、ヘクストール (ジェニファー・イーリー) らが寝る暇もなくワクチンの研究に取り組む。WHOからはオランテス (マリオン・コティヤール) が香港に派遣される。しかし研究者たちの懸命な努力にもかかわらず感染源は特定できず、ワクチン開発も遅々として進まず、日に日に感染者は増え続ける‥‥


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SARSや狂牛病、鳥インフルエンザ、地震に津波に竜巻地滑り大雨台風ハリケーンと、近年、自然災害の頻発は列挙に暇がない。しかもその頻度はさらにスピードを増し、昨年から今年にかけて、かつて例のないほどの大規模で世界同時多発的に、ありとあらゆるところで災害が起き、犠牲者が出ている。アメリカ東海岸では過去、100年近くもなかった地震が起き、一国の中で干ばつと大雨洪水災害が同時に起きている。そう遠くないうちに冷害と酷暑も同時に起こるようになるかもしれない。本気で人類の将来を憂えざるを得ないというのが、今の正直な気持ちだ。


改めて自然災害の脅威をあげつらう必要はないだろうが、今は下火に見える、新種の病原菌による病気の蔓延も怖い。「コンテイジョン」が描いているのはそれだが、実は「コンテイジョン」に先立って、そのことを描いた作品があった。「猿の惑星: ジェネシス (Rise of the Planet of the Apes)」だ。「ジェネシス」では、人間が滅びる理由を、人類が人為的に作り出したウィルスによるものだとしていた。


そして見事にその続編となっているのが、「コンテイジョン」だ。「ジェネシス」を見た直後に「コンテイジョン」を見ると、「コンテイジョン」は「ジェネシス: パート2」にしか見えない。それくらい似たようなテーマの連続したストーリー展開になっている。「ジェネシス」の終わりに「コンテイジョン」を継ぎ足したら、どこが切れ目かわからないんじゃないかというくらいだ。


今回、その未知の病原菌の蔓延というホラーを演出するのがスティーヴン・ソダーバーグで、とにかく有名どころの俳優を使いまくったという感のある、派手なハリウッド・アンサンブル・ドラマを提供する。ソダーバーグ演出のアンサンブル・ドラマというと、近年では「オーシャンズ (Ocean’s)」シリーズ、そしてやはり「トラフィック (Traffic)」だろう。しかし今回の、世界中を股にかけての同時事件勃発は、規模においては「トラフィック」も軽く凌駕している。よくこれだけの規模で作品を撮れるよなと、ただただ感心する。


出演する俳優陣も、綺羅星の如く登場するスターを次々と使い捨てという感じだ。本当に使い捨てという印象が強く、グウィネス・パルトロウは冒頭数分で死ぬ。今回は死に至る痙攣の演技を見せるためだけに登場したという感じ。あるいは死ぬ順番だって1番にこだわったか。しかしさすがにうまい。パルトロウくらい知名度があると、簡単には死なせないだろうという先入観があるので、すぐに死んでしまうと意外性が大きくて、観客をあっと言わせる効果が高い。「スクリーム (Scream)」のドリュウ・バリモアや「エグゼクティブ・デシジョン (Executive Decision)」のスティーヴン・セガールみたいなもので、最初の犠牲者としてすぐいなくなるわりには印象は大きく、実は設け役だ。


さらにパルトロウだけじゃなく、他にも有名どころが死ぬ。そういう病気が蔓延しているのだから当然死者も次々出るのだが、しかしあまりにもあっけなく死ぬ。実はどうやら「コンテイジョン」は、ソダーバーグが名の知れた俳優を次々と死の病気に冒させるために撮ったのではと思ってしまうくらいだ。


そういう死者たちに囲まれて、実は自分は病気に対して免疫を持っており、女房子供が死んでも自分はぴんぴんしているマット・デイモンがまた、異彩を放つ。デイモンはソダーバーグ作品では、「オーシャン」では他の詐欺師どもに囲まれて彼だけがまだ青二才的な印象を与え、「インフォーマント (The Informant)」でもピントのずれた密告者と、実はこれまであまりまともな役をもらっていない。今ではソダーバーグ作品以外では無敵のアサシン、ジェイソン・ボーンの印象が固まっているデイモンが、まともな役をやらせてもらえないのだ。


そうこうしているうちに、デイモンはクリント・イーストウッドの「ヒアアフター (Hereafter)」で死者と対話し、「アジャストメント (The Adjustment Bureau)」ではほとんど自在に空間を移動して未来を変え始める。そして今回デイモンが演じるのは、ボーンのように鍛えられた男などではまったくない、いまだに妻の浮気にうじうじしている男でありながら、結果的には誰もが望んでも得られるわけではない、ワクチンのない新種の病原菌に対して最初から免疫を持っているという男だ。何にもしてないのに最初から無敵なのだ。いったいこれはどういうことだろう。


さらに「コンテイジョン」には、デイモン、パルトロウが出た「リプリー (The Talented Mr. Ripley)」から、ジュード・ロウも出演している。ロウはここでは詐欺師まがいのブロガーで、外出する時は病原菌に対して完全武装の防護服を着ている。しかし一方のデイモンは、少なくとも病原菌に対しては恐怖を感じることはない。「リプリー」で大金持ちのロウ、貧窮していたデイモンとは、役柄がまったく違う。それにしてもやはり見えない中心の位置にいるのはパルトロウか。


パルトロウは設け役だと思うが、もう一人儲けものの役をもらったと思わせるのが、CDCでワクチン開発に関わるヘクストールを演じるジェニファー・イーリーだ。あまり感情を表に出さないが芯の強い女性という役どころを演じさせたら、この人ほどはまる人はいない。結局、そういう人が気づいたらおいしいところを持っていく。そういえばイーリーとパルトロウは、「抱擁 (Possession)」でも共演している。まったく別の時代の人間で、二人は出会うわけではないが、パルトロウはイーリーの末裔ということになっていた。


その他にも「コンテイジョン」には、ロウレンス・フィッシュバーン、マリオン・コティヤール、ブライアン・クランストン、エリオット・グールドといった面々が出ており、こいつら全員だといったいアカデミー賞とエミー賞をいくつとってんだろうと思うくらい豪華な布陣だ。要するにこういう者どもを一堂に集め、いじめてみたかったというのが今回の目的か。


もしかすると人間がほとんど死に絶えた場合、病原菌に対して免疫を持っているほんの一握りの者を幸運と言えるかどうかなんて、誰にもわからない。結局、最終的に待っているものはサルの奴隷でしかないのだ。そういえば「ヒアアフター」でデイモンは、死者と会話できるという特異な能力を特権、才能と称する兄に対し、これは呪いだと言ってたなあ。









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