異界のものを感知できる超常能力を持つジョン・コンスタンティン (キアヌ・リーヴス) は、その能力を用い、この世で悪さを働く悪を退治して回っていた。一方、刑事のアンジェラ (レイチェル・ワイス) は、双子の妹が病院の屋上から飛び降りて自殺していたが、そこに作為を感じ、真実を知るために半信半疑ながらコンスタンティンと接触する。最初は乗り気でないコンスタンティンだったが、二人は徐々に真実に近づいていた‥‥


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先週、切符が売り切れで見れなかった「コンスタンティン」、一週遅れでまったく同じ曜日の同じ回を見に来ているのに、今度は席はがらがら。要するに先週は公開初週で、若者を中心とした新しもの、珍しもの好きが席を埋めたが、口コミではまったく人気は広まらなかったということで、まあ、そんなもんだろうとは思っていた。いくらリーヴスがお得意の超常現象ものに主演しているとはいえ、彼だけでは心もとないというのは確かにある。


とはいえ、リーヴスだからこの映画を見たいと思わせるのもまた事実。要するに、たぶん、人に薦めるような映画ではないだろうけど、やはり興味はあるのだ。あの端正な顔でまた「マトリックス」並みのアクションを見せてくれるなら、と多少の期待はあるわけだが、しかし、やっぱり誉められてないよね、この映画。


その、たぶんB級の匂いふんぷんの予感は、スクリーンに最初のイメージが現れる前に確信に変わる。まず最初に、この映画の背景が文章で説明されるのだが、それを持っていると世界を支配すると伝えられる伝説の槍 (既にその名を忘れてしまった) が、メキシコの片田舎で発見される。あー、では、こうやって埋もれる前の槍は、いったい誰が持っていたのか。神にせよ悪魔にせよどこかの普通の人間にせよ、そういう槍を持っていた誰が世界を支配していたかなんて話はまるで聞いたことがない。史前だったからそれを記した文書がないなんて言うなよ。だったらそういう事実も誰も知らないはずなのだ。


もう、作品が始まる前から既に突っ込みどころを提供してくれるこのB級さ加減。さらに映画が始まった途端、その槍を発見してスーパーパワーを獲得してしまうメキシコ人の男の描き方もB級ホラー。そしてそうやってこの男どうなるんだと思わせておきながら、核となるはずのこの設定をほとんど忘れて、最後にまたほとんどこじつけで描かれるいい加減さ。いくらコミックが原作といえども、破綻を怖れないこのB級パワーの炸裂にはほとんど感心してしまう。


そして実際の話、こちらも最初からそれを期待しているのだから、それはそれで構わない。リーヴス主演のSF映画でいったい誰が辻褄の合う話を期待しているというのか。ポイントはただ一つ、いかにリーヴスが格好よく絵として決まっているか。もう、見るべきポイントはそこにしかない。40歳になったとはいえまだまだあの美しい顔は健在。あの顔で現在の体型を維持し、ついでにアクション満載で異形のものと戦い続ける限り、こちらも劇場まで足を運ぶことにいささかの不満もない。


それにしてもリーヴスは不思議な俳優で、あれだけ演技ができないできないと叩かれながら、これだけ主演作が途切れない俳優というのは、たぶん世界中でリーヴスただ一人だけなのではないか。いくら演技力が求められているわけではないアクション・スターでも、一応文句は言われないくらいの表情の変化はどんな俳優でも示すものだが、リーヴスに限ってはそれすらない。それでも彼はスターなのだ。一昔前なんて、ほとんど表情の変化なしで連続してコメディに主演していた。なぜそれが可能なのかよくわからない。コメディなんて、特にブラック路線を狙っているのでもない限り、顔の良し悪しよりも表情の変化の方が求められるはずなのだ。


実際、「マトリックス」で誰もが覚えているのは、弾丸をスロウ・モーションで身体を捻ってよけるリーヴスのはずで、あの姿勢を真似してみたことのない「マトリックス」ファンはいないはずだ。その時ですらリーヴスは、最も感情を表す目をサングラスで隠していた。感情の起伏を隠せば隠すほど役者として珍重されるというのは、とりもなおさず俳優としてというよりも存在そのもの、あの顔が買われているわけで、これはつまり、リーヴスがスターであることのなによりの証明ではないか。考えれば、かのクリント・イーストウッドも、西部劇に出ている時はあのカウボーイ・ハットでできるだけ顔を隠し、「ダーティ・ハリー」でもシリーズの最初に登場した時のサングラス姿が非常に印象的だった。もしかしたらこの二人は同じ系統なのかもしれない。


一方、リーヴスとは逆に、その相手役を務めるワイス、超自然界のキャラクターを務めるピーター・ストーマー、ティルダ・スウィントン等はなかなかの演技派だ。ワイスは「ハムナプトラ」のようなコケティッシュな役も、こういうシリアスな役もこなすし、それはストーマーにも言える。しかし、それよりも私が最も楽しんだのはティルダ・スウィントンである。


だいたい、スウィントンは男女の性別、正と邪の境界、過去と現在を簡単に飛び越えて行き来できるこの世でただ一人の俳優なのだ。その上「ディープ・エンド」での強き母、「猟人日記」での弱い母、「ビーチ」のカリスマ・リーダー、さらにはいるだけでなにかよからぬことを企んでいるだろうと思える「バニラ・スカイ」「アダプテーション」のキャリア・ウーマン等、役幅という点では彼女を超える女優はこの世には存在しないと断言できる。主演とちょい役をこれだけ余裕をもって演じ分けられるというのもほとんど例がない。これだけはケイト・ブランシェットも太刀打ちできまい。スウィントンができないのは子役だけだろう。いや、まじで。


そのスウィントンがここで扮するのはゲイブリエルで、もう、いかにも性別不詳の堕天使という役に相応しい。今回はちゃんと天使らしく羽まで生やしている。これだけ見どころ満載の堂々としたB級アクション大作なんて、最近見た記憶がない。というか、これだけ一応金をかけている作品をB級と言うのかという疑問もあるが、テイストはB級以外の何ものでもない。ついでに言うと、たぶん煙草の吸い過ぎで肺ガンで死期も間近なコンスタンティンというのをあれだけ見せといて落とす幕切れまでまったく完璧なB級だ。これは是非その後のコンスタンティンも見たいと思うんだが、批評家からも貶され、おまけにこの興行成績ではやはりシリーズ第2弾というのは無理か‥‥






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Constantine   コンスタンティン  (2005年2月)

 
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