Cold Pursuit


スノー・ロワイヤル  (2019年3月)

今冬を締め括るのにいかにも相応しい作品として、マッツ・ミケルセン主演の「アークティック (Arctic)」とリーアム・ニーソン主演の「スノー・ロワイヤル」という雪山が舞台の2本が同時に公開されており、どちらにするか迷う。「アークティック」は北極圏でのサヴァイヴァルを描く作品で、「スノー・ロワイヤル」はもっとアクション重視のエンタテインメント作品だ。どちらかというと肩肘張らないアクションを見たい気分で、いかにもニーソン主演作品がすかっとさせてくれるに違いないと、「スノー・ロワイヤル」に決める。 

 

実はこれが結構拾いもののアクションだった。「スノー・ロワイヤル」はオリジナルがあり、演出のハンス・ペテル・モランドがノルウェイで撮った出世作「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車 (Kraftidioten/In Order of Disappearance)」(それにしてもなんという邦題) がハリウッドの目に留まり、ハリウッド・リメイクが実現したものだ。息子がギャングの手にかかって殺された父が、復讐のためにギャングに正義の鉄槌を振り下ろしていくという話だ。 

 

ポイントはこれがブラック・ユーモアとして製作されているところで、そのことは今回のリメイクでも踏襲されている。とはいっても息子がギャングによってコカインのオーヴァードースによって殺されるという話自体にはギャグの絡む要素はまったくなく、実際前半の1/3は、まったくシリアスに話は展開する。 

 

話に多少ユーモアが絡んでくるのは、息子の死がギャングの仕業と知った父ネルス (リーソン) が一人でギャング相手に復讐を始めてからであり、その死に様、扱い方にブラックな笑いが絡む。ギャングを一人殺す毎に弔意? を示すテロップが挟まって、一人敵が消えたことを表す。話が後半のクライマックスに向かってヴァイオレンスが加速すればするほど、こういう不謹慎な笑いの度合いも増す。それをたぶん本人は非常に真面目な人間に見えるニーソンが真面目に演じれば演じるほど、シニカルな笑いの部分も強調される。 

 

因みにオリジナルで主人公を演じているのはステラン・スカースガード、マフィアのボスに扮しているのはブルーノ・ガンツであり、これはこれでなるほどと思わせる。ニーソン同様真面目で、それが逆にとぼけた味を時に醸し出すスカースガードがこの役を演じるのは、かなりはまるだろうなと想像できる。そう言えばガンツは、先頃死去したのが報じられていた。 

 

「スノー・ロワイヤル」の最後は、ネルスの運転するトラックに向かってギャングの一味がパラグライダーで降りてくるというシーンだ。実はちょうど同じ頃に、MTVの「リディキュラスネス  (Ridiculousness)」で、同様にパラグライダーを操る男が空中から舞い降りて、走行中のオープン・カーの後部座席に無事着席するという超高難度技を見せるヴィデオのクリップがあった。あまりにも意外で、受けて大笑いしてしまったのが、似たような、しかし着地点の違う、これまた意外な描写が「スノー・ロワイヤル」にもある。私がどちらも爆笑したのは言うまでもない。 

 

物語の終わりのクレジットは、よくあるキャラクターの登場順のクレジットではなく、どんどん死んでいくキャラクターが消えていく順、In order of disappearance となっている。それがオリジナル作品の英題でもあり、最後までギャグの手を抜かない。 

 

ところで現実の世界では、ニーソンはかつて知人の女性が黒人にレイプされた時に、武器を持って復讐の機会を伺って巷を徘徊したことがあるということをインタヴュウで話し、それがちょっとしたスキャンダルになっていた。現実に人が死んでしまっては洒落にならない。本人はこれは大昔の話であり、自分はレイシストではないと色んなトーク・ショウやなんやらに出て釈明していた。番組のプロモーションとしてゲストとして呼ばれていたものが、かつての軽率な行動の弁明の機会になってしまった。映画の中では人を殺してもうまく切り抜けていたものが、現実では何十年も前のちょっとした出来心が現在を侵食する。 











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コロラドの豪雪地帯で除雪車に乗って除雪するという仕事を寡黙にこなすネルス (リーアム・ニーソン) は、コミュニティから表彰されるほどだったが、一人息子がドラッグのオーヴァードースで死亡する。息子がドラッグに手を出していることが信じられないネルスは独自に調査し始めるが、一方で妻のグレイス (ローラ・ダーン) との仲は冷え切って行き、グレイスは家を出て行く。ネルスは息子が地元のドラッグ・ディーラーのヴァイキング (トム・ベイトマン) の手にかかって殺されたことを突き止め、一人で報復を開始する。一方、ヴァイキングは地元のネイティヴ・アメリカンとも利権で揉めていた‥‥ 


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