コールド・ハドソン (Cold Hudson) 

放送局: WLIW 

プレミア放送日: 11/23/2017 (Thu) 11:00-18:00 

製作: スロー・メディア 

監督: ビリー・ウィラスニク 

  

内容: 厳寒時のハドソン・リヴァーを船の上から巡視する。 


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Cold Hudson


コールド・ハドソン  ★★1/2

定点観測というものがある。とある場所にカメラを設置し、できる限り長期間にわたって、そこから見えるものを観察し続ける。道路の混雑状況を記録するトラフィック・カメラ、夜空の星を観測するカメラ、野生動物の行動を記録するカメラ等、人がそばにずっといられないような状況で威力を発揮する。 

  

最近見ることがなくなったが、一時、交通状況をとらえるカメラが映す映像だけを延々と垂れ流すTVチャンネルもあったりした。画像も粗く、もうちょっといいアングルはないのか、せめて水平くらいはちゃんととってくれと思うレヴェルの絵でしかないのだが、なぜだか延々と見てしまう中毒性を持ってたりしていた。 

  

「コールド・ハドソン」は、この定点観測ものに限りなく近い作品だ。実際には定点観測ではなく、カメラ、および被写体は常に動いている。しかしそれがあまりにも緩慢なために、ほとんど定点観測的な印象を与えるものとなっている。 

  

「コールド・ハドソン」がとらえ、映し出すものは、ニューヨークとニュージャージーの間を流れるハドソン・リヴァー、しかも冬の氷の張った厳寒時のハドソン・リヴァーで、川が氷結ししたために身動きがとれなくなって航行不能になる船がいないかを見張る巡視船スタージョン・ベイに乗り、そのブリッジから見える景色を延々と映し出すものだ。 

  

自分自身氷結している川の氷を割りながらだから、ほとんどスピードは出ない。両側がニューヨークとニュージャージーとはいっても摩天楼のあるマンハッタンは遥か南だ。陸地には民家や川沿いのレールの上を走る列車が見えたりすることもあるが、それだけだ。船首に人が出てきて時々何か作業しているが、カメラに向かって手を振るわけでもなく、そっけない。 

 

船は士官養成学校で知られるウエスト・ポイントを出て北上、キャッツキルで折り返してラインクリフまで戻るという、延べ79マイルにおよぶ航路を辿るのだが、画面に映るのはブリッジから見た景色だけだ。ただただそれだけが延々と続く。早送りもタイム・ラプスもスロウ・モーションもCGもパンもティルトも、なんの演出も作為も効果もない。果たしてこれが作品と呼べるのかとも思うが、ちゃんと監督名がクレジットされているところを見ると、作り手は堂々とこれは自分の作品だと思っているんだろう。 

  

「コールド・ハドソン」は、感謝祭の祝日の日中、公共放送のWLIWで昼11時から夕6時まで7時間にわたって放送された。感謝祭の朝というと、アメリカではニューヨークのメイシーズのパレードが世界的に有名で、人々はマンハッタンに朝早くから出てパレードを見た後、そのまま街中に繰り出して感謝祭のセールで買い物をするというのが定番の過ごし方だ。いくらネット・ショッピングが定着しても、実際に見たり手にとったりしたいものもある。というか、わざわざ激混みの中を押し合いへし合いしながら買い物するというのが、この日の過ごし方なのだ。要するに人混みでもみくちゃにされて人より先に掘り出し物を手にするというのを、イヴェントとして逆に楽しんでしまう。もちろんどうしても人混みはイヤという者もおり、そういう者たちは家で留守番しながらTVを見たりして過ごす。「コールド・ハドソン」みたいな番組を。 

  

セールになって多くのものが安くなるので私たち夫婦もショッピングを楽しみはするが、やはり押し合いへし合いしながら物色するほどのエネルギーはなく、午後遅くとか、人が空いてくる時間帯を選ぶ。というわけで感謝祭当日の昼は家におり、ふと、そういえば今「コールド・ハドソン」やってんじゃなかったっけと思ってメイシーズのパレードの再放送を見ていたチャンネルを替えてみると、やってるやってる。本当にただただ川の中をゆるゆると進む光景だけが、淡々と流れて行く。ナレーションも音楽も何もない。 

 

単調でつまらないと一瞬思う反面、氷が張っている川面をガキガキと氷を割りながら進んで行くシーンに、思わず見入ったりもする。定点観測というか、マラソンや駅伝を見ている感覚にも近いとも言える。少しずつ、僅かずつ、船は進み、見えるものが変化して行く。案外と面白いとも言えるなと思いながら見ていたら、そばから女房が、もう飽きたからチャンネル替えてと口を出してきた。やはりそれが一般的な反応か。これ7時間は、確かに苦しいかもしれん。 

 

定点観測というと、実はもう一本、こちらは本当に定点観測を番組、それもシリーズ化したものもある。UPの「ミャウ・マナー (Meow Manor)」は、それこそ子ネコを定点観測する番組で、幾つかあるカメラは切り替わりこそするが動くわけではなく、子ネコたちがじゃれ合う様子を延々ととらえる。対象が子ネコだから被写体自身の動きはかなりあり、あまり退屈とは感じさせない。こちらは金のないチャンネルの窮余の一策的番組という印象を受けないでもないが、それでも特にネコ好きなら癒されること必至だろう。 










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