ロブ (マイケル・スタール-デイヴィッド) の日本転勤が決まり、弟のジェイソン (マイク・ヴォーゲル) および有志がサプライズのパーティを開く。とはいえロブは付かず離れずのガール・フレンドのベス (オデット・ユーストマン) と微妙な関係にあり、会場でも二人は言い合いになった挙げ句、ベスは帰ってしまう。そういう雰囲気の中、突如大音響と共に地面が揺れ、電気が麻痺する。外に出たロブたちの前に転がり落ちてきたのは、自由の女神の頭部だった‥‥


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パーティを開いている途中に地震のような地鳴りに襲われた若い仲間たちが路上に出たところ、自由の女神の頭部が空から降ってくるというショットが印象的な「クローバーフィールド」のティーザーは、それ以上それが何を意味するかを教えることなく、これはいったいなんなんだと消費者の興味をそそるのに充分だった。火事か地震か竜巻か嵐か、噴火か大津波か急激な異常気象か天変地異か、あるいはエイリアンが襲ってきたかそれともオサマ・ビン・ラディンか北朝鮮がニューヨークに核を撃ち込んできたか、想像は膨らみ、いやが上にも期待感を増す。


一方、こういう内容を秘密にしておくことで興味を惹くタイプの作品は、それを先に見た者によって、遅かれ早かれそのプロットが明らかにされて広まることになるのは避けられない。こっちはできるだけ展開の前知識なしに見て驚かされたいと思っているので、本当なら今週は評価の高い「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」か「ザ・サヴェジス」、あるいはウッディ・アレンの新作「カサンドラズ・ドリーム」あたりを候補に考えていたのだが、急遽考えを変えて「クローバーフィールド」にする。こういう作品で一週待ったら、その間にどこかからか聞きたくもないのにストーリーをすべて聞かされるはめになりかねない。


実際の話、我々夫婦が公開初週の週末に「クローバーフィールド」を見て翌月曜夜のCBSのデイヴィッド・レターマンがホストの深夜トーク「レイト・ショウ」を見ていたら、その冒頭のモノローグでレターマンがこの映画のことを話題にし、「諸君、『クローバーフィールド』を見た? ニューヨークがxxxxのために壊滅的打撃を受けるんだが」という最大のプロットを堂々とばらしていた。その瞬間、我々夫婦は顔を見合わせ、よかったーっ、やっぱり先週のうちに見といて、と、ほっと胸を撫で下ろしたのであった。


しかし、我々のように内容を知らずに虚心に作品を楽しめる幸運な環境下にいない者もきっと多いだろう。特に日本のように国外で公開時期が遅れるのに、情報だけはネットのせいでほとんど時差なしで届いてしまう場合、この最大の謎こそを見る前から知ってしまう不幸な人はきっと山のようにいることと思う。


このサイトだけ内容には触れないようにしても、ほとんど中身を知ってしまう者が続出するだろう大勢には影響しないだろうし、実はこのサイトでは、それが作品観賞に決定的に影響するということでもない限り、ネタばれすることにこれまで特にこだわってきたわけではないのだが、それでも今回ばかりはこれをばらすのはためらわれる。ここは見る前から内容を知ってしまう者が出るのをできるだけ最小限に抑えるよう努力するのが筋かと思うので、一つだけ、筋とは関係ない製作上のギミックについてだけ述べさせてもらう。


ネットでも広まっているはずの予告編を見た者なら先刻承知だと思うが、この作品、画像が粗い。それというのも、作品そのものがサプライズ・パーティを企画した者の手による素人ヴィデオという設定の映像で成り立っているからだ。そのため、冒頭の20分くらいはそのパーティの前後の模様が収められている。正確には、そのテープには元々はヴィデオカメラの持ち主のロブがガール・フレンドのベスと一緒に撮ったプライヴェイトの映像が収められていた。その上からパーティの模様を被せて撮っているわけだが、再生されたテープのところどころに以前に録画されたロブとベスのショットが顔を出し、それが効果を上げるという構造になっている。


作品はそのパーティの最中に突拍子もない事件が持ち上がり、なし崩し的にパーティ関係者を記録しているそのテープが事件の模様を記録する。観客の立場としては、このパーティを開いている時のどこかで事件が起きるのはわかっているので、その瞬間を今か今かと待ち構えているわけだが、実はその瞬間までかなり待たされる。延々とパーティの模様と、主要登場人物の人間関係のこじれ具合を見せられ、まだかまだか、もう飽きてきたぞと集中力が切れ始めた頃に、いきなりそれはどかんとやってくる。確かにおかげで、ちょっと気を抜いた時だったので、ショック効果はそれなりにあったとは言える。


いずれにしても、素人ヴィデオという設定のため、全編を通して作品は揺れる手持ち撮影で画像が粗い。当然これで人が思い出すのは「ブレアウィッチ・プロジェクト」だろう。とはいえ「クローバーフィールド」は、「ブレアウィッチ・プロジェクト」ほど本当に思い切り気分が悪くなるほど揺れるというわけではない。画像だって本当に市販のヴィデオカメラで撮ったものをスクリーンに映されたら、あれよりもっと見にくくなることは必至であり、要するに、わざと画質を落としている。というか、普通に民生用のHDTVカメラを使って撮ったものに何の処理も行っていないという感じか。


素人が撮っているヴィデオであるわけだから、ライティングがされていたら逆におかしいわけだが、だからといってセットはちゃんと組まないといけない。大道具や小道具は、最初からきちんとスクリーンに映ることはないとわかっているものの仕事を丁寧にこなさないといけないわけで、うーん、ジレンマと思ってしまった。わかっちゃいても手を抜くわけにはいかないだろうし。それはそれとして、そのセットや製作規模はかなりのもので、基本的にスターの出ないほとんど知られていない俳優ばかりの「クローバーフィールド」で、画像が粗いためかなりの部分をCGでごまかせるだろうとはいえ、それでもこれだけやるのは大したものと思ってしまう。


いかにも素人が撮ったという感じを前面に押し出すため、出演者も基本的に新人あるいは無名の俳優ばかりを使っている。私が知っていた俳優は、ポール・ハギスがABCで撮った「ザ・ブラック・ドネリーズ」で脳みそのないたらし男を演じていたマイケル・スタール-デイヴィッドと、CW (当時WB) の「リレイテッド」に出ていたリジー・キャプランだけだった。「ポセイドン」でエミー・ロサムのボーイ・フレンド役だったマイク・ヴォーゲルというのもいるが、こちらは顔を覚えていなかったため、作品を見た後で出演者をチェックするまで思い出せなかった。


事実上のこの作品のヴィデオグラファーであるという設定のハッドを演じるT. J. ミラーは、昨秋のABCの新コメディ「カープーラーズ」に出ているのだが、こちらもプレミア・エピソードをたった一度見たことがあるだけなので思い出せず、ベスを演じるオデット・ユーストマンも、調べたらABCのドラマ「オクトーバー・ロード」にレギュラーで出ていた。私はこの番組に主演のローラ・プレポン (「ザット・70s・ショウ」) の結構ファンであるのでこちらは何度か見ているのだが、それでもユーストマンの顔は覚えていなかった。彼女くらいは覚えててもよかったと自分でも思う。


演出は「フェリシティの青春」の脚本出身のマット・リーヴスで、当然これは「フェリシティ」クリエイターで、「クローバーフィールド」をプロデュースしているJ. J. エイブラムス繋がりだろう。いかにもアイディア重視の「クローバーフィールド」は、そういう点でもリーヴス作品というよりは、アイディア・マンのエイブラムス作品という感触の方が濃厚だ。特に「クローバーフィールド」を見て人が思い出すのは、これはやはりエイブラムスがABCで製作している人気番組の「ロスト」に違いない。


たぶん日本のほとんどの人々はニューヨークを恐怖のまっただ中にたたき落としたものが何かを知った上でこの作品を見ることになるのだろうと思うが、それでも、できるだけ前情報を遮断して、白紙に近い状態で見ることを強く勧める。願わくは我々夫婦が見て驚いて楽しんだのと同じくらい、日本の観客も楽しめますように。







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Cloverfield   

クローバーフィールド/HAKAISHA  (2008年1月)

 
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