なんらかの理由で超常パワーを身につけた男を描く超常SFドラマの放送が、続け様に3本始まった。AMCの「プリーチャー (Preacher)」、シネマックスの「アウトキャスト (Outcast)」、そしてサンダンスの「クレヴァーマン」だ。この中で「クレヴァーマン」が異色なのは、アメリカを舞台になんらかの霊に憑かれている男を描く他の2作とは異なり、「クレヴァーマン」はオーストラリアを舞台に、アボリジニーの言い伝えを元にした超常ドラマということにある。
それによると、世界はドリーミングと呼ばれるスピリチュアルな世界と我々の住む現実世界に分かれており、両方の世界を行き来する特別な力を持つ者が、クレヴァーマンと呼ばれる特別な存在であるということだ。もちろん番組はクレヴァーマンが何者かを描く。
先頃、評判だったので上橋菜穂子の「獣の奏者」を読んだのだが、作者はアボリジニーの研究家だそうだ。アボリジニーだろうがネイティヴ・アメリカンだろうが、長らくその地に住んでいた先住民族が、遥か昔から語り継がれた多くの言い伝え、物語を持っていることは変わらない。それらの多くは現実と異界が未分離の、ファンタジックな世界を描くものだったりする。
近未来、オーストラリアは、常人と、ヘアリーピープルと呼ばれる全身を濃い体毛で覆われた、アボリジニーに由来すると思われる人々に二分されていた。ヘアリーピープルはゾーンと呼ばれる区画で隔離生活を強いられ、生活に喘いでいた。
というのがそもそもの設定なのだが、実はヘアリーピープルの位置づけはやや曖昧だ。主人公兄弟のワルーとコーエンもヘアリーピープルの血を引いているらしいのだが、確かに濃い顔立ちをしているが、一見して一般人と変わるところはほとんどない。それで自由にゾーンの中と外を行き来している。
しかしオオカミ人間に見えるほど顔中ヘアに覆われた者もおり、どうやら彼らの場合はゾーンから外に出ることを禁じられているらしい。コーエンはそういう者たちを外の世界に逃がす手引きをする‥‥振りをして逆に当局に密告して小金を貯めている。
一方、兄のワルーはどうやらヘアリーピープルのリーダー的存在のようだが、その集団の中にはまったく一般人のような者もいる。そこへ彼らのおじジミーが現れる。ジミーは自分がクレヴァーマンというわけではないが、それに近い媒介者のような存在であるようで、近々クレヴァーマンが顕現することを予知していた節が窺える。そして海沿いで命を落とすのだが、その腹は獣か何かに襲われたように裂かれ、はらわたが荒らされていた‥‥
私がクレヴァーマン、賢き者という名前から想像していたのとは違って、どうもクレヴァーマンというのは荒らぶる魂を持つ者らしい。なんとなく「アベンジャーズ The Avengers)」に登場するヴィジョンのような存在を想像していたのだが、そうではなく、ヘアリーピープルから連想されるようなオオカミ男が、知恵をつけた存在というのが近いっぽい。武闘派なのだ。
どうやらコーエンは選ばれた存在として、そのクレヴァーマンになるものと思われる。尋常じゃない身体回復能力を示し始め、ちぎりとられた指があっという間に回復する。ますます印象としてはオオカミ男だ。
そういう存在が、いったいどういう手段、理由によって彼岸と此岸を行き来して人を教え導く存在になるのか。もしかして知恵と勇気ではなく、力で圧倒する体力勝負の恐怖政か。あまりよく知らない場所の伝承物語は、話の先が見えなくて結構気になる。