City by the Sea

容疑者  (2002年9月)

他人事なんだが、ロバート・デニーロが主演の最近のアクション/スリラーは当たらない。「15ミニッツ」、「スコア」、「ショウタイム」と、シリアスだろうがコメディ・タッチだろうが、失敗作というほど興行成績が悪いわけではないのだが、どうひいき目に見ても成功したとは言えない程度の主演作が続いている。アクション系でまがりなりともヒットしたと言えるのは、98年の「RONIN」が最後だろう。一方で「アナライズ・ミー (Analyze This)」、「ミート・ザ・ペアレンツ」等の、純粋なコメディの方はわりと当たっている。別にだからどうとは言わないが、しかし、70年代のデニーロに衝撃を受けた一ファンとしては、やはりコメディよりも、シリアスに迫るデニーロの方が見たい。


NYPD (ニューヨーク警察) の著名な刑事ラマルカ (デニーロ) は、階下に住むミシェル (フランシス・マクドーマンド) と半同棲生活を送っていた。しかし、祖父が犯罪者で、その上過去に妻を殴って、妻と息子を捨てたも同然で家を飛び出した経歴を持つラマルカは、結婚を望むミシェルとそれ以上距離を縮めることができないでいた。そういう時、殺されたドラッグ・ディーラーの死体が川岸に打ち上げられ、その犯人がラマルカの息子ジョーイであるとの情報がもたらされる。さらにその事件を捜査していたラマルカの同僚が殺され、状況はジョーイが犯人であることを示していた。しかしジョーイはラマルカに電話をかけてきて、やったのは自分じゃないと告げる。二度と息子を見捨てることはできないと決心するラマルカは、刑事の職を辞して息子を守ろうと決心する‥‥


「容疑者」は、マイケル・マッカラリーが「エスクワイア」誌に寄稿した「マーク・オブ・ザ・マーダラー (Mark of the Murderer)」という記事を基に映像化したドキュドラマである。地元映画であるのだが、一番びっくりしたのが、舞台となっているロング・ビーチがこんなに寂れているところだったっけということである。ロング・ビーチには何度か行ったことがあり、コニー・アイランド同様少し廃れたという印象はあるが、こんなに危なそうな雰囲気はなかった。確かに、すぐお隣りのジョーンズ・ビーチが海水浴場として夏にニューヨーカーが大挙して訪れる定番スポットになっているのに較べれば寂しいという印象は否めないが、それでも最近はまた近場の行楽地として復権しつつある。それなのにスクリーンに映るこの寂れ具合はどうだ。


そしたら、ロング・ビーチという設定になってはいるが、寂れた印象を強調するために、実際の撮影はニュージャージーのアズベリー・パークで行われたそうである。それはそれですごい話だ。アズベリー・パークといえば、ブルース・スプリングスティーンのファンにはお馴染みの、メンフィスに次ぐロックの第2の聖地とも言うべき場所なのだ。しかし、実際大分廃れているようで、カジノの廃虚など実に物哀しい。それはそれで雰囲気を醸し出しているのだが、しかし、街の復興を目指すロング・ビーチの住人は、イメージが悪くなるとあまりいい顔をしていないらしい。そりゃあそうだろう。


デニーロが出演するこの手の作品は、コアのファンがいるため、いつもそれなりには注目されるのだが、しかし、最近はデニーロだからできもいいとは一概には言えない。多分製作サイドがデニーロだからといっておいしい役だとかを振りすぎるんじゃないだろうか。特に最近はちょっとセンチメンタルに過ぎる役が多いような気がする。「15ミニッツ」でも、なんかやり過ぎというか、全然ありそうもない話にしか見えなかった。


それは実は今回も結構そうであり、この作品を一言で片づけると、あまりにもおセンチ過ぎ、ということになるかと思う。暗い過去を持つ主人公が、過去の清算をするためにも不良息子を信じて守り抜こうと決心するのだが、例えば、密告によって息子が殺人犯に違いないという事実が明らかになる時に、バックで弦楽器によるBGMがバーンと大音量で重なってくるシーンなんて、それだけで、だめだ、もうやめてくれと思ってしまう。むしろこの役は、デニーロではなく、他の、あまり知られていない中堅の役者を使った方が話に真実味が出たのではないか。


一方、デニーロの相方として大きくクレジットされているマクドーマンドも、共演とはとても言えない程度の出番しかない。これまたマクドーマンドほど知られてはいない女優を使った方がよかったんではないかと思える。そういう点では、ラマルカの前妻マギーを演じるパティ・ルポーンの方が、いかにもそういう感じの演技で印象に残る。全般的に最も好演していると感じたのは、ジョーイ役のジェイムズ・フランコである。要するに道を踏み外して、ほとんどホームレス化しているジャンキーなのだが、本当に近寄ると臭ってきそうな雰囲気がよかった。彼はジェイムス・ディーンに扮したTV映画「James Dean」で今年のエミー賞の主演男優賞にもノミネートされており、「スパイダーマン」にも主演のトビー・マグワイアの親友役で出演している、若手の有望株である。ジョーイのガール・フレンドのジーナに扮するエリザ・デュシュクも悪くない。


とはいえフランコの扮するジョーイ役も、事実からはほど遠い脚色が施されている。映画ではジョーイが最初の方で犯してしまう殺人は成り行き上偶然に起こってしまったという風に描かれているが、実際には周到に計画された、非人道的な殺人だったそうだ。しかし、そういう風に演出してしまうとジョーイに肩入れすることがまったくできなくなってしまうため、同情の余地がある描かれ方をしている。やはりこの映画、センチメンタルに過ぎる。


演出のマイケル・ケイトン-ジョーンズは、やはりデニーロを起用した「ボーイズ・ライフ」や、「ロブ・ロイ」で知られている。そういえばデュシュクも「ボーイズ・ライフ」にも出ていた。実は私が見たことのあるケイトン-ジョーンズ作品はこの2作のみで、この監督の演出として知られているもう一本の「メンフィス・ベル」を見ていないのだが、わりと人情肌の監督であるようだ。







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