ここは正直にまんまと騙されたことを告白しておこうと思う。だって、タイトルが「シルク・ドリームズ」なのだ。しかもTVのCMを見ると、ほとんどシルク的衣装にシルク的妙技、これじゃシルク・ドゥ・ソレイユの新作だと誰もが思うじゃないか。ところがまったくそんなことはなく、シルクとはまったく関係のない人間の手によって製作された、 しかもほとんどシルク的内容のサーカス/妙技の舞台が、「シルク・ドリームズ」だということを、てっきりシルクの新作と思ってチケットを買った後で知った。これってほとんど詐欺なんじゃないか。


実際、舞台の方はオープニングの、観客を絡めたセリフを使わない寸劇からしていかにもシルク的。ただし客席から舞台に上らされた中の若い男は実は、いきなり宙返りを見せた後、彼こそが主人公であったと知れる。もう一人の女性も関係者かは判然としなかったが、素人を弄んでいるという点こそが面白いのに、それがサクラ、というか主人公だったというのは、意外で面白いというよりも、楽しんだだけ騙された感じで釈然としない。もうちょっと別の作り方もあるのではないか。そういえばシルクの「ドラリオン」でも同様の展開があった。


その後の登場人物がジャングルに住む生物に模したこてこて衣装にくるまれて繰り広げるバランス技、力技、ジャグリング等、一つ一つの技はそれなりに難度も高く、面白い。これだけは好きになれない宙吊りリボン技以外、見てて面白いのは確かだが、しかしどれもこれもほとんどこれまでにシルクの舞台で見たことがあるものかその応用という感は否めない。以前、アイリッシュ・ダンスの「リヴァーダンス」が注目された時、似たようなパフォーマンス・グループが後からいくつも現れたが、結局そのようなものか。


しかしその経歴を見ると、シルク・ドリームズ・シリーズを製作しているシルク・プロダクションズは1993年から活動を始めているそうで、クリエイター/ディレクターのニール・ゴールドバーグはこれまでに「シルク・インジェニュー (Cirque Ingenieux)」、「シルク・ブランソン (Cirque Branson)」、「クリスマス・ドリームス (Christmas Dreams)」、「イルミネーション (Illumination)」、「クーブリラ (Coobrila」等のシルク・シリーズを製作しているそうだ。それでもこの団体を知らなかったのは、私の単なる勉強不足か。


さらに調べてみると、シルク・プロダクションズは当然のことながらというか、シルク・ドゥ・ソレイユと「シルク」という名称の使用権を巡って訴訟沙汰になったことがあるそうだ。しかし「シルク」というのは単にサーカスを意味するフランス語だから、こんな一般名詞の使用権を制限するというのはいかにシルクといえどもできなかったようで、そのため今でもシルク・プロダクションズとシルク・ドゥ・ソレイユは私のようなカン違いする者をそこここで生み出しながら共存しているということらしい。しかし、いくら昔からあったとはいえ、シルク・ドゥ・ソレイユが80年代からあったことを考えると、シルク・プロダクションズがかなりシルクからアイディアを盗んでいるのは間違いないような気がする。ここは芸人に活動の場を与えているという点で共存を喜ぶべきか。







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Cirque Dreams Jungle Fantasy   シルク・ドリームズ: ジャングル・ファンタジー

2008年8月8日
ブロードウェイ・シアター

 
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