Cinderella


シンデレラ  (2015年4月)

ディズニー作品やアニメーションを見なくなって久しいが、それでも童話の映像化というのは嫌いではなく、というか、近年ではそれに新しい解釈を加えた新ヴァージョンが続々と登場しているのが興味深いので、今でも結構見ている。


特に最後に主人公の女性が王子に見初められて結婚してめでたしめでたしという鉄板ストーリーのクラシック御三家、「白雪姫」、「眠りの森の美女」、「シンデレラ」は、やはりリメイクに耐える。「シンデレラ」は、今は亡きホイットニー・ヒューストンやブランディが主演したミュージカル版があるなど、既にこれまでに何度か見ている。「シンデレラ」以外でも、「白雪姫と鏡の女王 (Mirror Mirror)」「スノーホワイト (Snow White And The Huntsman)」「マレフィセント (Maleficent)」等、ちゃんと近年これらの作品は映像化されている。


こう並べてみて気になるのは、最終的にプリンセスとなる主人公よりも、彼女らをいじめ敵対するまま母や悪役の存在だ。私の年齢では、どちらかというとまだ無名女優が扮する主人公より、主人公いじめに徹するヴェテラン女優の弾けぶりの方が圧倒的に気になる。


特に近年の童話の映像化は、これまでは悪役としてほとんど顧みられることのなかったまま母/魔女に、より人間的な味付けが施され、画一的な悪役ではない、ヒロインを食う新しい悪役が誕生している。「白雪姫と鏡の女王」のジュリア・ロバーツ、「スノーホワイト」のシャーリーズ・セロン、「マレフィセント」のアンジェリーナ・ジョリー等、正直言ってこういう悪女になら滅ぼされてみたいという者ばかりだ。「マレフィセント」に至ってはヒロインは王女ではなく、魔女のマレフィセントだったりする。そして今回の「シンデレラ」でまま母に扮しているのは、ケイト・ブランシェットだ。これはもう、別にシンデレラなんてどうでもいいからブランシェットを見てみたいと思うのだった。


ところでこのシンデレラという名は、日本語では古くは灰かぶり姫と訳されている。これは大元のタイトルがドイツ語で灰を意味しているからだそうだ。なんとはなしに、ふうんそんなもんかと思っていたら、今回、ヒロインのエラが薪をくべたりして灰にまみれるのを見たまま母の娘たちが、エラ (Ella) が灰 (Cinder) にまみれて、これではシンデレラ (Cinderella) だわねと嘲笑するのを見て、初めて、そうかシンデレラというのも、要するに灰かぶり姫という同じネイミング・センスだったのだと知った。ヒロインの名が最初からエラだったのかは知らないが、たぶん現在では「シンデレラ」でドイツを含め世界中で通用するだろう。以前「Red Riding Hood」が赤ずきんと知った時より、今回の方が驚きがあった。


話を斜に見ているのでついつい気になってしまったのが、白雪姫の毒りんごと並ぶ世界最強の小道具の一つ、ガラスの靴だ。英語でもあれはやはりグラス・スリッパというよりはシューズだろう‥‥というのはともかく、頭の天辺から爪先まですべて魔法で一時的に誂え、深夜の鐘の音と共に魔法が解けて元の姿に戻るかなくなってしまうのに、なぜガラスの靴だけがそのままの形を保持したまま残ってしまうのか。魔法が解ければ靴も跡形もなく消えるかするのが当然じゃないだろうか。この辺りの合理的な説明を求めたい。


だいたい、ガラスで靴なんか作ってしまったら、硬い曲がらない割れやすいと、いいことなんて一つもない。あんな靴履いて本当にエラは踊れたんだろうかと思ってしまう。それにいくら個人差があるとはいえ、エラと同じ足のサイズの女性は大勢いるはず。エラの足にだけぴったりするが、他の女性だと必ず足が靴に小さ過ぎるか大き過ぎるという展開も無理がある。普通、人は同一人物でも朝と夜でむくんで多少なりとも足の大きさが変わるものだ。それとも、魔法の靴だからエラが履いた時に自動的に伸縮してエラの足だけに必ずフィットするようになっているということだろうか。


なんて無理目の展開におっさんとしては多少突っ込みたくなるのは山々だが、だから面白くないかといえば、やっぱりそこそこ楽しんで見てしまうのだった。ブランシェットは私見では史上最強の被虐演技女優で、脅えるブランシェットにこそ真骨頂があると思うが、しかし、そのツボを知っているからこそか、いじめる側に回ってもやはりいい。できれば最後、どこまでも落ちぶれていくブランシェットを見せてもらえれば文句なかった。


総じて話としては我々の知っているクラシックのストーリーから大きな逸脱はなく、特に意外な解釈があるというわけでもない。ベイシックな話のポイントを押さえて作ったという感じで、最後、クレジットが流れ始めると、なんと演出はケネス・ブラナーだ。「マイティ・ソー (Thor)」みたいなSFを演出しているのを見た時も驚いたが、続編の「 マイティ・ソー: ダーク・ワールド (Thor: The Dark World)」はなんで監督しなかったのだろうと思っていたが、既に「シンデレラ」の話があったからか。基本的に配役がアメリカ以外のヨーロッパの役者を中心に固められていたのも、ブラナーが関係していたからだろう。それにしてもなんでも撮るやつだ。











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エラ (リリィ・ジェイムズ) は優しい父と母 (ヘイリー・アトウェル) に囲まれ、仕合せな少女時代を送っていたが、母が病死し、しばらくして父は後妻 (ケイト・ブランシェット) を迎える。彼女には二人の連れ子の女の子、ドリゼラ (ソフィー・マクシェラ) とアナスタシア (ホリデイ・グレインジャー) がいた。それから間もなくして父も不慮の事故で亡くなり、家の中はまま母がとり仕切るようになる。まま母と娘たちはエラをまるで召使いのように扱い、エラは段々居場所をなくしていく。ある時、エラは森の中で狩猟中のキット王子 (リチャード・マッデン) の一行に出会う。王子はエラのことが忘れられず、城で舞踏会を催し、すべての未婚の女性を招待することでもう一度エラに会う計画を立てる。エラも舞踏会に行くつもりでいたが、まま母がエラのドレスを破いて舞踏会に行けなくしてしまう。しかし傷心のエラの前にフェアリー・ゴッドマザー (ヘレナ・ボナム-カーター) が現れ、魔法でかぼちゃを豪華な馬車に変え、アヒルをウマに、トカゲを御者に仕立て上げ、ドレスも用意してエラを舞踏会に送り出す。しかし魔法は深夜零時に解けてしまう。それまでには帰ってくるようエラは念を押されるが‥‥


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