Chronicle


クロニクル  (2012年3月)

アンドリュウ (デイン・デハーン) は父が飲んだくれ、母が重い病気で、本人も高校に行くといじめの対象だった。アンドリュウはヴィデオカメラを手に入れ、今後自分の身の回りに起こることをすべて記録しておこうと考える。ある日、アンドリュウは数少ない友人のマット (アレックス・ラッセル)、スティーヴ (マイケル・B.・ジョーダン) と共に裏山で何やら曰くありげな掘削孔のような穴を発見する。下に降りていった3人は得体の知れない光りに包まれ、慌てて逃げ帰る。しかしその日から、彼らの身体に異変が起き始める。彼らは、念じただけで物を動かすことのできる超能力を身につけていた。最初は面白がっていたずらに能力を使っていた3人だったが、次第に力が強くなり、することもでかくなっていく‥‥


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時々こういう作品があるが、それまではまるで、本当に、まったく一瞬一度たりとも目にしたことも耳にしたこともないのに、ある時を境に、今度はネコも杓子も誰もが話題にするという作品があったりする。むろん「クロニクル」がそういう作品であることは言うまでもない。


たぶん最初に目にしたのは、ある夜のニューズだったのではなかったかと思う。ハリウッドの視点から見れば低予算の部類に入るだろう「クロニクル」の尖鋭的プロモーションとして、ニューヨークで等身大の人形に簡易ラジコンをとりつけ、空を飛ばすという新種の宣伝があった。


もちろん作品で、超能力を身につけた登場人物が空を飛ぶというストーリーに因んだプロモーションだ。そしてこの人形、遠目では実際に人が空を飛んでいるように見える。それがきっかけとなっていきなり誰もが「クロニクル」のことを話題にし始めた。たぶんニューヨークというローカルな地域で話題になっただけで、全米規模で話題になったわけではないと思うが、それでもTV、ラジオ、ローカル紙等、一夜にして一気に話題沸騰という感じで、昨日までは誰も知らなかった映画を、翌日にはほぼ全員が知っていた。


とはいえ、それでわかったのはたぶん人が空を飛ぶ映画というそれくらいで、正直言ってだからといってそれくらいでその映画を見る気になるかというと、まるでそんなことはない。すげえプロモーション効果だなと思っただけだ。たぶんそれに同時代の、特に女の子が飛びついたからこれだけの話題になったんだろう。


とまあ、作品についてはそれくらいしか思ってなかった。だって内容自体はほとんど知らないに等しいし、あまり印象の持ちようがない。人が空を飛ぶ青春SF映画のようなものというだけで食指を動かす中年男性は、それほど多くはいまい。正直言ってこれならまだロバート・ダウニー・Jr.が空を飛ぶ「アイアン・マン (Iron Man)」の方にそそられる。


と思っていたのだが、週末になってさて今週は何見ようかなと考える段になって、いきなりうちの女房が目をキラキラさせて、今週は「クロニクル」? と訊いてくる。こんな近くにものの見事にマーケティングの術中に陥ったやつがいたか。ま、しかし、気にならないこともなかったので、ま、いいかと今回は「クロニクル」だ。



「クロニクル」は、見た後、誰でも思い出し、口にする俳優と映画がある。むろん、主人公アンドリュウを演じるデイン・デハーンがそっくりの、若い頃のレオナルド・ディカプリオと、超能力を使ういじめられっこを描いた映画、「キャリー (Carrie)」だ。私もデハーンを見てディカプリオを思い出したし、いじめられっこが力を使って周りの者を破滅に導くという内容は、まさしく「キャリー」だ。うちの女房も私が口にするまでもなくディカプリオと「キャリー」の話をし始めたし、エンタテインメント・ウィークリーをめくってみたら、やはりディカプリオと「キャリー」に言及していた。あの、若い頃のセンシティヴな顔をしたディカプリオが演じる「キャリー」、確かにこれは女性がほっておかないだろうなと思う。


「キャリー」はホラー映画であるのと同様に、青春映画でもあった。「クロニクル」の場合は、SF映画であるのと同様に青春映画だと言える。一方で基本的にSFだが、主人公が女性のシシィ・スペイセクからディカプリオそっくりのデハーンになったことで、青春の痛み的な印象が強まった。本当に、「バスケットボール・ダイアリーズ (The Basketball Diaries)」の頃のディカプリオが演じているみたいだ。


映画はヴィデオカメラを手に入れたアンドリュウの視点、あるいはヴィデオカメラを持った者の視点から語られる。これはもちろん、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト (The Blair Witch Project)」、「クローバーフィールド (Cloverfield)」「パラノーマル・アクティビティ (Paranormal Activity)」の系譜に連なる、特に製作費の安いインディ系のSF/アクションに見られる手法だ。


「クロニクル」の場合は、主人公を含め主要登場人物がテレキネシスを持っているので、宙に浮いたヴィデオカメラがちゃんと機能して彼らを撮り続ける。そこにいる全員がに映っているので撮影している者がいないはずという状態でも、あるいは部屋の中に一人でいるのに三脚も使用していないという状態でも、空に浮かんでいるヴィデオカメラが被写体を撮り続ける。普通ではあり得ないはずの状態でも被写体が撮り続けられている状況にちゃんと理由をつけており、なるほど、こういう手もあったかとちょっと感心した。


とはいえクライマックスになって巷が闘争の場になって収拾がつかなくなってくると、明らかに、これ、いったい誰の視点なの、いったい誰がヴィデオカメラを操っているのという状態がいくつもある。ちょっとそこだけは無理があった。


しかし、「キャリー」よろしく破滅的なラストに向かって加速するクライマックスのテンションの高さは大したもので、うちの女房は見終わった後、ぐったり疲れていた。私も思わず椅子にもたれて大きく深呼吸した。この登場人物の年代でいじめが絡むと、どうしてもテンション上がる。


むろんアメリカでもいじめは大きな社会問題であり、つい先頃も、オハイオの高校でいじめにあっていたという少年が、学校で銃を乱射して3人を死亡させるという事件があった。また、昨年、性交中を盗撮されてインターネットに流され、ニュージャージーのゲイの大学生がジョージ・ワシントン・ブリッジから投身自殺した事件の裁判がこのほど結審し、盗撮した被告が有罪判決を受けた。これなんかは単なるいじめというよりもヘイト・クライム、人種差別といった要素が絡み、さらに問題を複雑化させている。


これまでにも超能力もののSF作品は掃いて捨てるほど作られているが、「クロニクル」が特に視覚的に印象に残るのは、登場人物が一見生身のまま空を飛ぶからに他ならない。「アイアン・マン」のように機械の力を借りるのではなく、スーパーマンのように宇宙から来たエイリアンでもない。X-メンの一人もかなり空を飛ぶことはできたが、翼のようなものの力を借りていた。「サイボーグ009」の003ことジェットも空を飛んだが、しかし彼はサイボーグだし。


やはり単純に、一見見かけは普通の一般人、それが空を飛ぶというのがインパクトある。空を飛ぶことのできる、痛みを抱えたディカプリオ面のティーンエイジャーが主人公の「クロニクル」は、確かにティーンイエイジャーの敏感な部分にアピールして止まないだろうと思う。演出は5年前にミニシリーズの「ザ・キル・ポイント (The Kill Point)」を撮ったジョシュ・トランク。








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