Child 44


チャイルド44 森に消えた子供たち  (2015年4月)

またまたトム・ハーディとノオミ・ラパスだ。昨年、最も過小評価され、ほとんど無視された佳作「ザ・ドロップ (The Drop)」のペアが、今度は20世紀半ばのソヴィエト (ウクライナ) を舞台にまた主人公ペアを演じる。さらにハーディに絡んでくるのがジェイソン・クラークで、ということはこれまた無視された時代ものドラマ「欲望のバージニア (Lawless)」を思い出す。


その上、後半ゲイリー・オールドマンが出てくることで、ジョエル・キナマンとの絡みで一瞬「ロボコップ (Robocop)」と、クラーク-オールドマンで「猿の惑星: 新世紀 (ライジング) (Dawn of the Planet of the Apes)」が脳裏に浮かぶが、しかしやはりここはハーディ-クラーク-オールドマンの「欲望のバージニア」か、ハーディ-オールドマンの「裏切りのサーカス {Tinker Tailor Soldier Spy)」、あるいは「ダークナイト ライジング (The Dark Knight Rises)」を想起するのが筋というものだろう。


英語にはSix Degrees of Separation (6次の隔たり) -- 知人の知人を6回介すと世界中の人間と知り合いになれる -- という言い回しがあるが、ハーディを中心に展開していったら、少なくともハリウッド中の役者と知り合いになれそうだ。しかしハーディとオールドマンって、結構共演してんだな。


いずれにしても、これだけよく知られた西側の俳優が大挙して出て、全員でロシア訛りの英語をしゃべるというのが、なんか不思議な感じがする。英語圏の俳優だけでなく、フランス人俳優のヴァンサン・カッセルまでもがわざわざロシア語訛りの英語をしゃべる。あくまでも西側から見た冷戦下のソヴィエトなのだ。


最初、話は冷戦下の軍内部における確執や権力闘争を描くものかと思っていたら、後半、展開ががらりと変わって、子供が連続して殺される事件の犯人を追うミステリ・サスペンスになる。前半と後半ではかなり印象が変わるため、これはたぶん原作があって、それを結構忠実に映像化しているからという感じだなと思っていたら、やっぱりそうだった。


「チャイルド44」はトム・ロブ・スミスの同名原作の映像化だ。スターリン政権下のソヴィエトの警察組織の主人公を描く3部作の第1作に当たる。1950年代ソヴィエトでは、スターリンの圧政のため国内には飢餓と孤児が溢れていた。しかしそれでもスターリンの悪口を言うことは許されず、共同社会では、建て前上、犯罪という邪悪なものは存在しないとされた。犯罪は堕落した資本主義の国にしかないのだ。


そういう場所で、子供が連続して殺されるという事件が起きる。もちろん凶悪な連続殺人事件だ。子供がいなくなった時、怪しい男も目撃されている。しかしそれでも、警察は本腰を入れた調査には乗り出さない。なぜならソヴィエトには殺人という犯罪は存在しないからだ。ソヴィエトには人を殺す者はいない。だから子供が死んだのは事故であって、殺人者もいない、という理屈が堂々とまかり通る。犯罪者にとっては非常に住みやすい場所だったろう。どんな罪を犯しても、自分が追われることはない。


なるほどこの設定は興味を惹く。犯罪のない社会というのは、例えば「ザ・ギヴァー (The Giver)」のように、ほとんど近未来SFの設定と変わらないが、現実社会でその設定が架空としてではなく使用できた場所と時代があった。どうやら当時のソヴィエトはすこぶるSFめいた場所だったらしい。理想や理念、特に建て前が優先されると、世界は思いもかけなかった場所へと変貌する。それにしても国は飢餓状態で、巷には孤児が溢れていたところに犯罪がまったくないなんて設定は、それが本当にあった事実と知ってなければ、そんな嘘くさい設定、誰が信用できるかと鼻で笑い飛ばすところだ。


そういうところで連続児童殺人事件を起き、それを捜査する人物を造型するためには、まず、その人物が犯罪がないはずのところで犯罪を捜査するに至る理由がなければならない。映画の前半はそのため、その人物の生い立ち、ものの考え方、仕事や私生活環境といった部分を描くために費やされる。それからわざわざ問題を起こして左遷されることで、初めて主人公は犯罪捜査に手を染める主人公たる存在になる。


一方その前置きの部分が時間をかけて描かれたことで、本題である後半の連続殺人事件との差異が際立ち、見る者に違和感を与えてしまったことは否めない。前半と後半ではほとんど別の作品なのだ。一本で二度楽しめると言えないこともないかもしれない。










< previous                                      HOME

スターリン時代のウクライナ。レオ (トム・ハーディ) は持ち前の胆力と運もあり、大戦時に戦争のヒーローとして持ち上げられ、軍の幹部に登用される。レオはライーサ (ノオミ・ラパス) と結婚するが、彼女は謎めいた部分が多かった。ある時レオの部下の息子が死体となって発見される。状況は明らかに殺人事件を示していたが、スターリン政権 下のソヴィエトには犯罪はなく、殺人という罪は存在しないという建て前になっていたため、事件はそのままうやむやにされる。一方、レオの存在を疎ましく 思っている部下のワシーリー (ジョエル・キナマン) は、上司のクズミン (ヴァンサン・カッセル) と共謀してライーサがスパイとの情報を流し、二人を左遷させる。その地では子供の連続殺人事件が発生していたが、まともな調査は行われていなかった。レオ は地元警察のネストロフ (ゲイリー・オールドマン) を説得し、調査に当たる‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system