多作のプロデューサー、ディック・ウルフといえば、まず何はともあれニューヨークを舞台にするドラマ「ロウ&オーダー (Law & Order)」フランチャイズを真っ先に思い出す。ニューヨークの検察機構を描くオリジナルの「ロウ&オーダー」を筆頭に、NBCで都合4番組が製作された。
「ロウ&オーダー (Law & Order)」1990年
「ロウ&オーダー: 性犯罪特捜班 (Special Victims Unit: SVU)」1999年
「ロウ&オーダー: クリミナル・インテント (Criminal Intent: CI)」2001年
「ロウ&オーダー: 陪審評決 (Trial by Jury: TBJ)」2005年
これら以外にも、LAが舞台の「ロウ&オーダー: LA (Law & Order: LA)」と、英国が舞台の「ロウ&オーダー: UK (Law & Order: UK)」というスピンオフ・フランチャイズ版が共に2010年に放送されている。
その基幹番組であった「ロウ&オーダー」も2010年には第20シーズンをもって最終回を迎え、今でも放送されているのは「性犯罪特捜班」だけになってしまった。今秋第19シーズンを迎えるから、やがて本家の記録を塗り替える可能性は高い。
一方、そのウルフが今度はニューヨークではなくシカゴを舞台に描く新しいフランチャイズが、同様にNBCで2012年から始まった「シカゴ」シリーズだ。
「シカゴ・ファイア (Chicago Fire)」2012年10月
「シカゴ・P.D. (Chicago P.D.)」2014年1月
「シカゴ・メッド (Chicago Med)」2015年11月
「シカゴ・ジャスティス (Chicago Justice)」2017年3月
消防隊員の活躍を描く「ファイア」に始まり、警察 (Police Department) を描く「P.D.」、救命隊員を描く「メッド (Medical)」、そして司法の世界を描く今回の「ジャスティス」だ。結局、印象としてはニューヨークが舞台の「ロウ・オーダー」をシカゴに移植したのが「シカゴ」フランチャイズという印象が強い。
「ロウ&オーダー」も「シカゴ」も同じプロデューサーの手によって同じ場所で製作され、そしてほぼ同じ世界を描いているのだから、当然クロスオーヴァー・エピソードは作りやすいが、それだけでなく、「ロウ&オーダー」と「シカゴ」間でもクロスオーヴァー・エピソードは製作されている。登場人物がニューヨークとシカゴを行き来するわけで、「ロウ&オーダー」だけ、「シカゴ」フランチャイズだけでクロスオーヴァーさせるより大変だったに違いない。
そして今回の「ジャスティス」も、「シカゴ」間のクロスオーヴァー・エピソードから始まった。まず8時に「ファイア」で倉庫火事が起きる。何十人もの死傷者が出る大きな火事で、その中には「P.D.」の刑事オリンスキー (エリアス・コティアス) の娘もいた。放火ということがわかり、9時からの「P.D.」では捜査と犯人逮捕までが描かれ、10時からの「ジャスティス」によってその裁判が描かれる。どの番組も基本的に一話完結型で、今回も番組毎に一つの区切りはあるが、これはやはり別番組でも、通しで見た方がわかりやすいだろう。一方で、当然「ファイア」で出てきてもよかった「メッド」の登場人物は、これらのエピソードには出ていない。
「メッド」で思い出したが、レギュラーのS. エパサ・マーカーソンは、「ロウ&オーダー」でアニタ・ヴァン・ブレン警部役で19年間の最長出演記録を持っている。そのマーカーソンが、「メッド」でブレンではないまったく新しいキャラクターとして登場している。「ロウ&オーダー」で患っていたガンが治ってシカゴに引っ越してきたのかと思ったが、完全に別の役だ。本人がまた出たがったのかそれともウルフがまた起用したかったのか。
さらに「ジャスティス」の主人公格である検事補のピーター・ストーンは、「ロウ&オーダー」の最初の4シーズンに登場した検事補のベンジャミン・ストーン (マイケル・モリアーティ) の息子という設定だそうで、こんなとこにも繋がりがある。ストーンと共に働くドウソンは「ファイア」に登場するギャビー (モニカ・レイムンド) の兄で、元々「ファイア」と「P.D.」に登場する刑事だったものが、「ジャスティス」では専門の調査官だ。
私が「シカゴ」フランチャイズでよく見ているのは、最もアクションの多い「P.D.」なのだが、話とは無関係に印象に残るのが、主要登場人物のうち、部署を束ねる巡査部長のハンク・ヴォイトに扮するジェイソン・ベギーと、その部下のエリン・リンジー刑事に扮するソフィア・ブッシュの二人のハスキー・ヴォイスだ。特にベギーのかすれ声は、若い時のアルコールとタバコでここまで潰したかと、最初聞いた時は驚いた。昔からあれが地声ということもあるだろうか。
ブッシュの声もかなりハスキーだ。アメリカTV界でハスキーな声で印象的な女優というと、CBSの「ザ・グッド・ワイフ (The Good Wife)」が終わってしまってジュリアナ・マーギュリーズがいない現在、ブッシュ、ABCの「エージェント・オブ・シールド (Marvel’s Agents of S.H.I.E.L.D.)」のスカイ役のクロイ・ベネット、それにABCの「クワンティコ (Quantico)」で主演のアレックスを演じているプリヤンカ・チョプラの三人で決まりだと思う。ブッシュとベネットは顔も心なし似ている。女性の声がハスキーだと、かなりセクシーに聞こえる。ただしブッシュは今シーズン限りで番組離脱が決まっている。
実は「ジャスティス」は、残念ながら1シーズン限りでキャンセルが決まっている。「ロウ&オーダー」もそうだったし、同様に一時フランチャイズ展開をしていたCBSの「CSI: 科学捜査班 (C.S.I.: Crime Scene Investigation)」も、結局最終的には風呂敷を広げ過ぎて先細りになった。番組によって多少の差はあるとはいえ、同じ系統のフランチャイズ番組では、やはり似たような番組が3本以上並ぶと、視聴者は飽きてしまう。とはいえ今秋には、消滅したかに見えた「ロウ&オーダー」の、実際に起こった事件をドキュドラマ化する最新シリーズ「トゥルー・クライム (True Crime)」の第一弾、「メネンデス・ブラザーズ (Menendez Brothers)」が編成されることが決まっている。「ロウ&オーダー」も「シカゴ」も、まだまだ先がありそうだ。