特に評判がよかったとか期待していたわけじゃないが、「チャンネル・ゼロ: キャンドル・コーヴ」はなかなか悪くないホラー・シリーズだ。
冒頭、TVインタヴュウを受けている児童心理学者のマイクは、ふとインタヴュウアーもカメラマンもまったく動いてないことに気づく。実はマイクは最近精神に失調を来たしており、自傷癖が現れていた。
これらが幼い時に、住んでいた町で起きた連続殺人事件が誘因となっているのはわかっていた。その事件ではマイクの双子の兄も犠牲となっていた。マイクは事件以降再び町に帰ることはなかったが、元凶を断つには未解決のまま終わった事件と相対し、決別する必要があった。マイクは何十年振りかで生まれた町に戻ってくる。
という話が、別に慌てず急がず、というテンポで描かれる。前回書いた「ジ・エクソシスト (The Exorcist)」の時も思ったが、実はホラーというジャンルは結構TVシリーズに向いている。急がず雰囲気をじっくりと醸成できるからだ。
むろんこのことは両刃の剣でもあり、今時、一話完結型ではないシリーズ・ドラマに最初から最後まで付き合う覚悟のある視聴者はあまりいない。しかしまたその一方、ネットフリックスが証明したように、一度はまったドラマには、一昼夜を徹して一気見で付き合う視聴者が結構いることもまた事実だ。それに、AMCの人気ホラー「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」の例もある。つまり、シリアル・ドラマはまだ死に体ではなく、これに最も向いているジャンルが、ホラーと言える。
「キャンドル・コーヴ」は、これまた「エクソシスト」同様、なかなか印象的なイメージが出てくる。冒頭のTVインタヴュウのシーンでは、インタヴュウを受けているマイクがふと気づくと、目の前のデスクの上に置かれているコップの水の中で、蝿が蠢いている。マイクはそれが気になって仕方がない。さらには不躾な電話インタヴュウを要請されるが、そこには相手はいない。何事かと目を上げたマイクの前のインタヴュウアーは、蝋人形のように微動だにせず固まっているという出だしは、かなり印象的。
マイクには育った町に心に封印してきた事件があり、それが今になって鬱勃と心の中で頭をもたげていた。これをそのままにしては前に進めないことを悟ったマイクは、少年の時以来、初めて町に帰る。その事件は、マイクの双子の兄のエディを含め、何人もの子供たちが犠牲となった未解決事件だった。
マイクとエディの双子の少年は、実は一人の子が演じている。CGで一つの画面に収まっているわけだが、近年の同一画面上での一人何役はCGの進歩もあって非常に自然で、最初は実際に双子を使っているのかと思った。
事件のきっかけとなるのが、当時の「キャンドル・コーヴ」というTVのパペット番組だ。犠牲となった子供たちは、全員この番組を見ていたことがわかっている。「キャンドル・コーヴ」は、パペット番組とはいっても、「ザ・マペッツ (The Muppets)」というよりも、どちらかというと「ひょっこりひょうたん島」に近い。ホラーという題材とは似ても似つかぬ造型なのだが、それがホラーということこそがミソだ。
その他、身体中が歯で覆われていて、どうしても生理的に嫌悪感を抱かざるを得ない歯の化け物ことトゥース・クリーチャーとか、なかなか視覚的にインパクトのあるイメージがそこここに出てくる。TVの中から脱出するというイメージは、「ザ・リング (The Ring)」の影響だろう。
番組名が「チャンネル・ゼロ: キャンドル・コーヴ」と副題がついているのを見てもわかるように、今回の「キャンドル・コーヴ」は「チャンネル・ゼロ」というシリーズ番組の一部になる。「チャンネル・ゼロ」自体は秋と春に2本、6話ずつ計12話で構成されており、今回の「キャンドル・コーヴ」の後、来春「ザ・ノー-エンド・ハウス (The No-End House)」が放送されるという変則編成だ。この2本はまったく関係のない単独の話になる。「ノー-エンド・ハウス」は、今度は屋敷もののホラーだそうで、それはそれでまた面白そうだ。