スティーヴン・キングはマーヴェルやDCコミックスを連想させる。なんとなればキングやマーヴェル、DC名義の諸所の作品は、どんどん作品が連携して横の繋がりができるからだ。ある作品での主人公が、別の作品ではちょいキャラ、またはまったくのカメオ的な登場をする。こういうのはファンならば非常に楽しめるだろう。
一方で、その他の作品やキャラクターを事前に知ってないとわけがわからないとなると、途中参入で見たり読んだりし始めるとかなり戸惑うことになる。スーパーヒーローものは、少なくともある程度誰が誰だか最初から知ってないと筋が読めなかったりする。一方、キング作品は、そういう前知識がなくても楽しめるように書かれているところがいい。むろん知っていればより楽しめるのは確かだ。
今回の番組タイトルの「キャッスル・ロック」からして、キング・ファンにはお馴染みだ。キング・ユニヴァースが展開する、メイン州でありながらほぼ異次元的な世界。多くのキング作品がこの場所を舞台としており、それだけでキング・ファンにはたまらないだろう。
冒頭、キャッスル・ロックのショーシャンク刑務所の所長が自殺する。理由はまだわからない。しかし、ショーシャンク刑務所と聞いただけで、多くの者はあの「ショーシャンクの空に (The Shawshank Redemption)」を思い出すに違いない。そう、あのショーシャンク刑務所だ。
そのレイシー刑務所長 (演じているのがテリー・オクインというのがまたそそる) が理由もわからず自殺する。その日の朝まで普段同様に生活して普段同様に母に挨拶のキスをして家を出て、そして自殺する。なぜか。その理由はおいおい明らかになってくるが、レイシー刑務所長は、実は今は使われなくなっていた監房で、ある若い白人の男を住まわせて生かしていたことがわかる。
この男 (ビル・スカースガード) はヘンリー・ディーヴァーと名乗るが、実は本物のヘンリー・ディーヴァー (アンドレ・ホランド) は黒人で、今では町を出て南部で弁護士になっていた。偽ヘンリーに興味を惹かれた看守の一人は、本物のヘンリーに連絡をとり、キャッスル・ロックに呼び寄せる。
ヘンリーは幼少期は問題児で、ある時、1時間も外にいれば凍死するという極寒の時期に行方不明となって1週間後に凍結した湖の上で発見されたという事件があった。その時ヘンリーを発見したシェリフのパングボーン (スコット・グレン ) は、今では、アルツハイマーが徐々に進行しているヘンリーの育ての母ルース (シシィ・スペイセク) と同居していた。
という謎や疑問が徐々に表に出てくるのだが、進行は非常に緩慢で、実は本当の謎が何かということはまだ番組第1回を見ただけではわからなかったりする。主人公のヘンリーはともかく、彼に絡む副主人公格のモリー (メラニー・リンスキー) はまだ顔見せの段階で、ほとんど何者かわからない。彼女が人の心を読むことができるテレパスというのがわかるのは、第2回以降だ。
いずれにしても、それでもこれまでのキング作品と関係する様々な場所やキャラクターが第1回に登場する。特にキング・ファンというわけでもない私ですら、おお、これは、という場所やキャラクターが随所に出てくる。例えばレイシー刑務所長が死んで後任者が赴任してくると、迎えた者が所長室の壁にはまだ弾痕が残っている云々の話をする。もちろん「ショーシャンクの空に」で、最後、横領がばれて銃で自殺したノートン所長 (ボブ・ガントン) の銃弾の跡だろう。いきなり記憶が20年前に飛ぶ。アンディ (ティム・ロビンス) とレッド (モーガン・フリーマン) は今はどうしているんだろうと思ってしまう。
第2回以降に登場する作家志望のジャッキー (ジェイン・レヴィ) の本名はダイアン・トランスで、ジャック・トランスの姪だそうだ。と聞いて即座に反応できるのはかなりのキング・ファンだ。あの「シャイニング (The Shining)」で、ジャック・ニコルソンが演じた主人公の作家こそ、ジャック・トランスに他ならない。その姪ですか、と背筋ぞわぞわもんだ。これでもしシシィ・スペイセクの役名がキャリーだったりしたら、悶絶してしまいそうだ。
等々、キング・ファンとも言えない私ですらいくつもの連携に気づくくらいだから、筋金入りのキング・ファンなら、はまりまくること確実だろう。既に番組はカルト化決定と断言してしまっていいかもしれない。