Cast Away

キャスト・アウェイ  (2001年2月)

ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の「キャスト・アウェイ」に人が入っている。公開後3週連続で興行成績トップの座をキープし、その後もしぶとく2か月間もベスト・テン入りを続けている。こんなに人が入るくらいだから本当に面白いのか。しかし、人が入るから面白い映画だとは限らない。以前、年間で1,2位を争うほど人が入っているということで、では面白いのかと思って見に行った「ミセス・ダウト」でえらく後悔した思い出が頭をよぎる。結局興行は水物だから、人が入るから必ずしも面白いとは限らないのだ。


その後「ミセス・ダウト」の監督のクリス・コロンバスと主演のロビン・ウィリアムスとが再びペアを組んだ「アンドリューNDR114 (The Bicentennial Man)」は、予告編に限れば「ミセス・ダウト」よりも面白そうに見えたのに、ほとんど人が入らなかった。私と同じように「ミセス・ダウト」で後悔してこのペアの作品を見るのはよそうと思った輩が多かったからに違いない。そうは柳の下にドジョウは何匹もいないのだ。


その上「キャスト・アウェイ」はハンクスとゼメキスという、あの世紀の過大評価作品の筆頭とも言える「フォレスト・ガンプ」を作ったコンビによる作品だ。あれだって人は入ったが作品自体は大したことなかった。「キャスト・アウェイ」だって、評は悪くないが、やはり胡散臭い。結局「フォレスト・ガンプ」みたいな話題先行尻すぼみ型の映画である可能性は大いにある。私の女房は、既にこれはいい、パスと、いち早くこれは見ない宣言をしていた。気持ちはようくわかるぞ。


しかし「キャスト・アウェイ」は、私の周りでも既に結構見たものがいるのだが、受けはさほど悪くない。すれているニューヨーカーは、私みたいにトム・ハンクス主演の映画というと思わず顔をしかめる類いの方が多いのだが、それでも今回は少なくとも「フォレスト・ガンプ」よりは面白かった、と言うのが多かった。私同様、「フォレスト・ガンプ」に騙されたと感じている者が多くておかしい。それはともかく、内容は結構面白いのだが、無人島に流されて悲惨な思いをするのがハンクスなために、主人公に感情移入できず、思わずいい気味だと思ってしまうのが作品としては難だと言っているのが一人や二人ではなかったのが、これまた笑えた。本当にニューヨーカーってのは性格悪い。


しかしゼメキスは、昨夏ハリソン・フォードとミシェル・ファイファー主演の「ホワット・ライズ・ビニース」が公開されたばかりだというのに、もう次回作の登場である。撮影だけに携わる俳優ならともかく、撮影前早ければ数年から撮影後も数か月は演出した映画に縛られる監督が、半年も経たないうちに続け様に演出作品を公開するというのは、非常に稀である。1年に何本も監督しなければならなかったハリウッドの黄金時代とはもう時代が違うのだ。これは多分、役柄上何ポンドも体重の増減を図らなければならなかったハンクスのために、撮影期間が長期に及んだためだろう。まず「キャスト・アウェイ」の半分を撮影し、そこでちょっと休み、その間に「ホワット・ライズ・ビニース」を撮って、それからまた残りの「キャスト・アウェイ」を撮影したものと思われる。


続け様に映画を撮っているといえば、この映画に準主演のヘレン・ハントの最近の出演作の公開ラッシュはすさまじい。「キャスト・アウェイ」とまったく同時期にメル・ギブソンと共演した「ウーマン・イン・ラブ (What Women Want)」が公開してるし、その他にも「ペイ・フォワード 可能の王国」、「ドクターT・アンド・ザ・ウーメン (Dr. T and the Women)」と、ほぼ2か月間に主演、準主演作が4本も続け様に公開された。私は実は彼女の名前が売れるきっかけとなったシットコムの「マッド・アバウト・ユー」以来彼女を応援しているのだが、最近目につきすぎて、なんか有り難みがない。彼女が「マッド・アバウト・ユー」から映画女優への脱皮を目指して苦労している時は応援のしがいがあったのだが。「死の接吻」なんて、主演のデイヴィッド・カルーソよりもニコラス・ケイジよりも彼女の方が印象に残ったのに、作品自体がこけたおかげで誰にも注目されずに終わってしまった。それなのに「恋愛小説家」でオスカーをとって以来、売れっ子になり過ぎて私は何となくつまらない。メジャーになっては欲しいが注目され過ぎると面白くない。ファン心理は難しい。


話を「キャスト・アウェイ」に戻すと、ハンクスがゴールデン・グローブ賞で主演男優賞なんかをとったために、私はますますこの映画を見る気がしなくなった。また大向こうを唸らせる的なクサイ演技をしてんじゃないだろうなと思ったのである。このように私にとってはほとんど見る気にならない映画であった「キャスト・アウェイ」を私が見ようと思った理由は何か。今週末は「ハンニバル」だって公開したというのに。実は、当然のごとく今週はこの「ハンニバル」を見ようと思っていたのだ。そしたら、実は昨日、私の車のワイパーに、ニューヨークのドライヴァーなら誰でも見た途端ぎょっとするオレンジの紙が挟まっている。交通違反のチケットである。なんで?? この時間は駐禁でなんかないはず、と思ってチケットを見てみると、なんとこれが車検切れのチケットなのであった。ショックである。まったく忘れていた。しかし取り締まる方も取り締まる方だ。ちゃんといちいちチェックしているのね。というわけで私の車はいきなりガレージ入りすることになり、私は今週末は徒歩で行ける範囲で見たいものを探さなければならなくなり、その結果がこの「キャスト・アウェイ」なのであった。


とにかくそういった事情でほとんど偶然で見に行った「キャスト・アウェイ」なのだが、これが結構面白かった。少なくとも「フォレスト・ガンプ」の10倍は面白い。FEDEXのマネージャーで世界各地を飛び回っている主人公 (ハンクス) が飛行機事故で無人島に漂着、それからの苦労が綴られる。無人島にたった一人いるハンクスが主人公であるため、最初から最後までハンクスがほとんど出ずっぱりなのだが、今回はあまりうざったいとも思わずに最後まで見れた。なぜかと考えたのだが、一応出ずっぱりではあっても、今回ハンクスはとにかくほとんど一人でいるので、話をする相手がいない。冒頭のシーンを除いてあまり喋らない、というか、喋る機会がないのだ。だからかなと思う。顔がスクリーンに出ずっぱりになるのはともかく、声が聞こえないと大分本人の印象が緩和される。それに、あまりに過酷な状況に追い込まれるので、やはり少しは同情してしまったということもある。


ゼメキスの演出も、「ホワット・ライズ・ビニース」よりこちらの方がうまいと思う。あれはあまりにハリソン・フォードが主演であるということを意識しすぎて最後が支離滅裂になっていたが、今回はそんなこともない。多分ゼメキスはハンクスと相性がいいのだろう。少なくともハンクスはあまりスターっぽいところがない俳優であるし。脚本のできがよかったこともあるだろうが、今回はあり得そうもない話ながらほとんど無理がなく、見ている時にホントかよこれ、なんてことは思わないで済んだ。


「キャスト・アウェイ」で最もよかったのは、話を急がないという点である。最初は超忙しいハンクスとFEDEXの小包みの動きを追うためやたらと忙しいのだが、無人島に漂着してからは、じっくりと時間をかけてハンクスが今陥った状況の説明や、何をどうしなければならないか、等がドラマティックになり過ぎることなく綴られる。ロシアに出張で行ったハンクスを映すシーンでは、ロシア民謡をアレンジした音楽が入って思わず身構えたものだが、漂着以降はほとんど最後まで音楽を一切使わない構成も好感が持てた。この映画がブエナ・ヴィスタ(ディズニー) 製作でなくて本当によかった。


飛行機が墜落するシーンや、ゴム・ボートに乗ったハンクスが波に呑まれるシーンの緊張感なんて、なかなかのもんである。特にゴム・ボートのシーンなんて、「パーフェクト・ストーム」の20分の1くらいの小さな波なのに、少なくとも同じくらいは興奮させてくれた。やはり話術なんだよなあ。ほとんど捨てエピソードかと思った冒頭の小包みも、ちゃんと最後にオチがついていて、しかもその上で映画が終わってその後がどうなるかについても思いを巡らすような構成になっている。これは脚本の勝利だろうな。全然見ようとも思わなかった映画でこれだけ満足させてくれるなら文句ないです。今度はハリウッド・スターを使わないゼメキスを見てみたいね。







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