冒頭、いきなりライフルを抱えて山狩りするマーシャルたちに追われるバスターの描写から始まるので、コンシェルジェとして働くバスターが、なんらかの事情で転落して官憲から追われる存在になるのは明らかだ。 

  

バスターはかつて山間のリゾート地のホテルで、深夜勤務のコンシェルジェとして働いていた。この時はまだバスターとしてではなくジョナという名前で、愛する妻と娘と一緒に、義理の親と同居していた。前科のあるジョナには定職としてはあまり実入りのいい職は見つからず、働けども働けども一向に楽な暮らしになる見込みはなかった。 

  

そんな時ジョナの働くホテルに突如現れた謎の男は、名を名乗らず、クレジット・カードも持たず、それなのにホテルに泊めてくれという。深夜、無聊をかこっていたジョナは、なにげに男と話すうちに、段々と彼の話す世界終末論に気を引かれるようになっていく。男をボスに無断でホテルに泊めただけでなく、ちょっとした悪行に手を染めていく。 

  

ホテルは、山奥に別荘を持つリッチな人々が自家用機の発着に使う飛行場の近くに立地しており、そのため、夜遅くに飛行場に降り立った人々が一夜の休息をとるために多く利用されていた。彼らはほとんどの場合、多額の現金や貴重品を所持しており、面倒くさがって金庫に仕舞うことすらせずに食事のために部屋を開けることも多かった。その時間を見計らってジョナが男に連絡を入れ、現金や貴金属の一部だけを盗ませる。ゲストは金を盗まれたことにすら気づかなかった。しかし段々男が欲を示し始める‥‥ 

  

ここまで来ると、ああ、これがばれてジョナは職を追われ、逃亡生活を強いられて冒頭の追跡劇に繋がるわけかと想像がつくが、実はそう一筋縄では行かない。ジョナは冬山の金持ちの別荘に忍び込んで、暖をとり食を繋ぎながら逃げ続ける。暇で退屈なので、テレフォン・セックスや、ラジオ局に定期的に電話して暇を潰す。頻繁にラジオ局に電話してくるので、面白がったDJがバスターというニックネイムをつける。 

  

しかし実は、バスターが逃亡生活を強いられた理由は、盗みを共謀したことがばれたからではない。この辺りは話の大きなキモなので深入りは止すが、その原因となる事件が描かれる辺りから、話が犯罪ドラマというよりはABCの「ロスト (Lost)」や、現在ショウタイムがリメイク放送中の「ツイン・ピークス (Twin Peaks)」みたいな超常ミステリ・ドラマ化していく。そういう話だったのか。道理でなんでか時々バスターがどう見ても海上にいるようなショットが挟まると思った。 

 

バスターを演じているのが、USAの「ミスター・ロボット (Mr. Robot)」のラミ・マレク。癖のある顔と話し方で、「ミスター・ロボット」みたいなはまり役はいいが、役を選びそうと思っていたが、「バスター」も悪くない。癖がありながら汎用性もあるという、実はなかなか得難い役者のようだ。似ているかどうかはともかく、方向性として最も近いのはスティーヴ・ブシェミ辺りか。実は彼を見る度に、第二次大戦ドラマで、前線の路肩で腰を下ろしてヘルメットを斜めに被って疲れた顔でマールボロを吸っている二等兵なんてのをさせると、これ以上なく絵になりそうだと思っていたら、ちゃんと2010年のHBOのミニシリーズ「ザ・パシフィック (The Pacific)」で、マレクがそういう格好をしていた。いかにもそういう格好をさせてみたくなるのだ。 

 

これまた印象的な顔立ちのホテルの謎の男に扮するのが、アマゾンの「高い城の男 (The Man in the High Castle)」のDJ・ クオールズ。やはり戦争ドラマ面なのだった。監督は私にはこれが初めてのサラ・アディナ・スミス。 

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ジョナ/バスター (ラミ・マレク) はアメリカ中西部の山に近いホテルでコンシェルジェとして働いている。深夜シフトは楽ではないが、妻マーティ (ケイト・リン・シール) と愛娘のためなら苦にならない。とはいえ暮らしは楽ではなく、妻の実家に同居させてもらっている。それでも山の中の一軒家を買って家族水入らずで暮らすというのは、夢のまた夢だ。ある夜、ホテルに一人の男 (DJ・クオールズ) が現れる。IT業界で働いているという男は、クレジット・カードを持たず、タバコを吸える部屋を所望するが、今時それで借りられる部屋があるわけがなかった。しかし懇願する男に根負けしたジョナは、バーで男に付き合ってやり、独自の世界終末論を展開する男に、次第に興味を惹かれていく‥‥

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