放送局: HBO
プレミア放送日: 4/7/2001 (Sat) 21:00-23:00
製作: スリル・ヒル・プロダクションズ
製作: ジョン・ランドー、ジョージ・トラヴィス、ブルース・スプリングスティーン
監督: クリス・ヒルソン
編集: トム・ジムニー
出演: ブルース・スプリングスティーン (ヴォーカル、ギター、ハーモニカ)、ロイ・ビタン (キーボード)、クラレンス・クレモン (サキソフォン、パーカッション)、デニー・フェデリッチ (キーボード)、ニルス・ロフグレン (ギター)、パティ・スカルファ (ギター、ヴォーカル)、ギャリー・タレント (ベース)、スティーヴン・ヴァン・ザント (ギター)、マックス・ウェインバーグ (ドラム)
内容: 1999年から2000年にかけて行ったワールド・ツアーの掉尾を飾る、ニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデンの10日間に及ぶファイナル・ステージから、6月29日と7月1日の最後の2日間の模様を中継録画。
曲目: Born to Run
My Love Will Not Let You Down
Prove It All Night
Two Hearts
Atlantic City
Mansion on the Hill
The River
Youngstown
Murder Incorporated
Badlands
Out in the Street
Tenth Avenue Freeze-Out
Land of Hope and Dreams
American Skin
他
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昨年の「イン・シンク・ライヴ」に続く、HBOによるコンサート中継。いつもながら、つい見たいと思わせるアーティストの人選はさすがである。イン・シンクのコンサート中継は7月28日のマディソン・スクエア・ガーデンのコンサートのライヴ中継だったが、これがプレミア放送の今回のブルース・スプリングスティーンのコンサート中継は、実はイン・シンクのコンサート以前、6月29日と7月1日に同じマディソン・スクエア・ガーデンで行われたコンサートの録画である。ライヴ放送じゃないため、コンサートが終わった後にじっくりと録画テープを見直して、カメラ・アングルとかを熟考してのベスト版であるはずだから、「イン・シンク・ライヴ」で気になった要らぬカメラの切り返し等、フラストレーションの溜まった下手くそな演出はないだろう。
実は私は「ザ・ボス」ことスプリングスティーンのアルバムは一枚も持ってない。スプリングスティーンって、やっぱり、ほら、ちょっとどんくさいようなイメージがあるじゃない。ロックの王道を行っているアーティストってことは認めるが、今さら聴き込むって感じでもないし。そう思って見始めたのだが、これが実に面白かった。感動的であったとすら言える。ステージは前後左右の観客からもよく見えるようにいたってシンプルな作りで、少しは手がかかっているのはライティングだけである。曲目は「Born to Run」、「Atlantic City」、「The River」のようなクラシックから、物議を醸した新曲の「American Skin (41 Shots)」まで。この「41 Shots」というのは、ニューヨークに住んでいる者なら誰でも知っている、無実なのに警官に41発の銃弾を撃ち込まれて死んだ黒人移民のアマドゥ・ディアロの射殺事件を題材にしている。
スプリングスティーンの曲には「ストリート」だとか「リヴァー」だとか「ヴァリー」だとか地形や地名、人の名前や、どこそこへ行ったとか何それをしたとかいう具体的な行動が頻出するから、歌詞からイメージを想起しやすい。しかし、その歌詞からイメージしてしまうのは、なぜだか南部の町並みである。アリゾナ、ニュー・メキシコ、テキサスのような乾いた風景でもいいし、ジョージア、アラバマ、ミシシッピなんて湿気の高そうなとこでもいいんだが、とにかく南の方の町並みをイメージしてしまう。
だからスプリングスティーンがニューヨークのハドソン・リヴァーを渡って西側に位置するニュー・ジャージー出身だというのは、最初聴いた時にはなぜだか非常に違和感があった。ニュー・ジャージーっていうのは‥‥はっきり言って格好よくない。こう言っちゃ何だが、千葉や埼玉出身のロック・スターというと今イチアピールしないのと同じことだ。国民歌手シナトラがニュー・ジャージー出身であるのというのとはわけが違う。アメフトのニューヨーク・ジャイアンツなんて、本拠地のスタジアムはニュー・ジャージーにあるくせに、平気でチーム名にニューヨークとつけて憚らない。要するに、ニュー・ジャージーというのはそういうところなのだ。これが本当に田舎になると、また逆にそれはそれでいいと思うんだが、ニュー・ジャージーって‥‥難しいよな。
しかしスプリングスティーンを見ていると、ロックというのはアメリカの風土に根差した独自の音楽なんだなというのがよくわかる。これがもうちょっと土着寄りになってしまうと、私が嫌いなアメリカの演歌、カントリーになってしまうところだが、曲の持つメッセージ性が、彼の音楽をもっと普遍的なところにまで高めている。つまり、スプリングスティーンは軟弱じゃないのだ。だから彼の持つほとんど愚直とも言える直截さが、いまだに大きく人々にアピールするんだろう。やはりロックっていうのは反骨精神だ。長く自分のステイタスをキープしている奴ってのは違う。最近ボブ・ディランもなぜだか人気が改めて高まっているし、スプリングスティーンのこのステージを録音したアルバムも結構売れるんじゃなかろうか。
個人的に言うと、この中継の圧巻は、ほぼ20分近くにもわたる「Tenth Avenue Freeze-Out」だ。スプリングスティーンが黒人教会の説教師のような態度で歌い、バンド・メンバーを紹介する、ゴスペル色濃厚な1曲である。はっきり言って、いきなり見たらほとんどはずしてお笑いになりそうな演出を (実際笑いが漏れるシーンもあるのだが) 力技で押し切るパワーは、やはり大したもの。
実はコンサートをTV中継するのは、スプリングスティーンの長いキャリアでもこれが初めてということだ。おおよそ10年ぶりに再結成するザ・Eストリート・バンドとのツアーを記録に留めておくことは、必要なことだと思ったらしい。まあ、Eストリート・バンドって伝説的存在ではあるからな。おかげで今回初めてまともにスプリングスティーンのステージを見たので、バンドのドラマーが、NBCの深夜トーク・ショウ「レイト・ナイト・ウィズ・コナン・オブライエン」で音楽を担当しているマックス・ウェインバーグだということを初めて知った。そうだったのか。同じくHBOの「ザ・ソプラノズ」に出演しているスティーヴン・ヴァン・ザントの姿も見える。そういえば「ザ・ソプラノス」も舞台はニュー・ジャージーだったな。こうやってバンドのメンバーが他のところでも活躍しているから、バンドを揃えてツアーを行うのもスケジュールの調整が大変だっただろう。
そういう、ロックをやる者にとってほとんど神様的立場にいるスプリングスティーンだが、実は、10、9、7歳になる彼の子供たちは、スプリングスティーンの音楽は聴かず、専ら若者に受けているブリトニー・スピアーズのファンなのだそうだ。ロックの神様も自分の子供には勝てないか。でも、なんとなく微笑ましいエピソードではある。
