Brotherhood of the Wolf (Le Pacte Des Loups)

ジェヴォーダンの獣  (2002年2月)

18世紀フランス南西部、ジェヴォーダン地方で正体の知れぬ獣が出没し、村の者を100人以上も惨殺するという事件が立て続けに起きる。狼よりも大きく、背中に棘のようなものが突き立っているという獣の正体を探るために、時のフランス国王、ルイ15世はフロンサックと、その友人マニの二人をジェヴォーダンに送り込む。解剖学の知識を持つフロンサックは独自の知識を駆使し、武術の達人であるマニの助けも得て獣の正体に一歩一歩近づいていくが‥‥


なんでも本国フランスでは大ヒットした映画だそうで、ちゃんとその前知識を得てから見に行っているのに、映画が始まってからしばらく経っても依然として登場人物がフランス語を話しているので、なんで彼らは英語を喋んないのかな、いつまで字幕を読まさせとくつもりなんだと思っている自分を発見して、自分自身で驚いてしまった。画面がいかにも金をかけたハリウッド・アクション的な様相を呈しているので、たとえフランスが舞台であろうとも、ハリウッド資本が入ったハリウッド映画だとばかり思っていたのだ。予告編なんてアクションだらけで登場人物が喋るシーンなんてほとんどなかったし。


まるでハリウッド映画みたい、というのが製作した本人たちにとって誉め言葉になるのか、それとも頭に来るのかはわからない。もし私が製作者の立場だったら、製作レヴェルの高さを言われているのだとしたら嬉しくもあり、自分のオリジナリティを認められてないとしたら腹立たしくもあり、というところだろうか。とにかくアクションが基本の映画で字幕を追うのに忙しいというのは、香港時代のジョン・ウー映画以来だという気がする。いずれにしても、「獣」の造型にはちゃんとアメリカのジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップが関わっているわけだし、どんどん世界の垣根というのは低くなっていくんだろう。


監督のクリストフ・ガンズは池上僚一の「フライング・フリーマン」を監督した人だそうで、アニメとジョン・ウーをこよなく愛す人であるらしい。どちらかというとフランスでは異端児視されているみたいだ。「ジェヴォーダンの獣」は結構ティム・バートンの「スリーピー・ホロウ」と比較して評されていたりするのだが、私はその類似にはほとんど気がつかなかった。物語の造型の上では類似点もあるかも知れないが、背景となる土地や自然はまるで別物であり、どっちも捨て難い雰囲気をまとっている。第一、この種の物語の骨格が似てしまうのはどうしてもしょうがない。そんなこと言ったら、すべてのファンタジーやゴシック・ロマンはすべて同じものになってしまう。


私は最近ヨーロッパ映画をそれほど見ているわけではないのでよくは知らないのだが、この映画に出ている若手俳優は、わりと今のフランスを代表する人気俳優であるらしい。確かにジャン-フランソワを演じるヴァンサン・カッセルは「ジャンヌ・ダルク」にも出ていた。しかし主人公フロンサックに扮したサミュエル・ル・ビアンは初見。昨年「マレーナ」で話題をまいたモニカ・ベルッチも出ている。本当に奇麗な人だ。カッセルの奥さんである由。驚いたのがマリアンヌを演じるエミリー・デュケンヌで、最初、あの下ぶくれの顔、絶対どこかで見たことがあるんだがと記憶を探ってみたのだが、どうしても思い出せない。家に帰ってIMDBで調べて、「ロゼッタ」で主人公ロゼッタを演じた彼女だったことを知った。あの超貧乏少女を演じた彼女がここでは貴族の娘か。まったく変われば変わる。


しかし私にとってこの映画は、アメリカン・インディアンのマニを演じたマーク・ダカスコスの映画であった。「クロウ」ぐらいでしか見たことはないのだが、彼って本当にフランス語も喋れるのか。それともそこだけ丸暗記で喋っているのか。「クライング・フリーマン」は英語だったようだし、その辺いったいどうなんだ。いずれにしても、フランス語を喋るアジア・太平洋系って、ヴェトナム映画を見るまでもなく、エキゾチシズムぷんぷんで悪くないと思っていたのだが、フランス語を喋るアジア・太平洋系の肉体派アクション俳優というのは、特にいいことに気がついた。彼はアメリカン・インディアンという設定になっており、文明に汚染されるのを嫌うインディアンというキャラクターが、多分洗練の極地であるフランス語を喋るという対比がぞくぞくさせてくれるんだろう。すげえ格好いい。昔「二十四時間の情事」で岡田英次の喋るフランス語を聞いた時はすごく違和感を持ったものだが、ここでもまた世界は狭くなっていると感じた。


なかなか話題となっているアクションそのものについては、それこそ香港アクションで見たような気がするアクションばっかりで、別に大して惹かれなかった。特にスロウ・モーションは使い過ぎで、これでは本当にジョン・ウー・アクションと大差ないし、それなら本家に任せといた方がずっといい。それを動きがアジア人よりきびきびしているようには見えないフランス人でやったことに対しては評価するが。獣の正体が割れるあたりからはまったくハリウッド・アクションで、その辺は今一つ何かひねりがあってもよかったような気がした。獣を使う時のCGも少し弱い。


私としては、やはり作品全体を覆う雰囲気や、雨を降らせたり雪を降らせたりして変化を持たせた撮影、わざわざ後日譚まで付け加えた、いかにもゴシック・ロマン然とした構成の方を楽しんだ。しかしこの手のものが好きなら、既に作品の半ばあたりで先が読めてしまうのはしょうがないところか。別に私ほどゴシックものに肩入れしていない女房ですら筋が読めてしまったようで、途中で飽きて寝てしまったらしい。らしいというのは、私は熱中していて後で本人から聞くまで女房が寝ていたのに気がつかなかったからなのだが、やはりこの手の作品は見るものを選ぶようだ。







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