メイジャーの中で特に予想もしなかったことが起こりやすい全英、今年の大波乱は3日目にやってきた。それまではそれほど全英特有の風も雨もなく、フェスキュー草のラフにつかまりさえしなければそれほど大崩れするゴルファーもなかったのが、3日目の午後になって、上位のゴルファーがティ・オフする頃から台風みたいな風雨がミューアフィールドを襲う。その上気温も下がり、震えながらの耐久ゴルフで、これではたまらない。上位のゴルファーは一人としてイーヴン・パーですらコースを回ることができず、誰もが大叩きする。それまでは我慢のゴルフで着実に上位陣を射程距離に収めていたタイガー・ウッズは、プロになって初めて10オーヴァー81という信じられないスコアを叩き、グランド・スラムの夢が露と消える。前日64のベスト・スコアを叩き出して首位に絡みながら、この日84と前日から20も大きいスコアを叩いてしまったコリン・モンゴメリも完全に脱落する。丸山茂樹が少しでも暖をとろうと柵の後ろに縮こまって指先をふうふう吹いているシーンが印象的だった。


その中で、それでも1オーヴァー72というスコアで回ったアーニー・エルスが、3日目終了時点で5アンダーと、3アンダーで2位のデンマークのソレン・ハンセンに2打差をつけ、首位を守る。2日目終了時点で6アンダーと、エルスらと共に首位に立っていた丸山も、4オーヴァー75と踏ん張り、通算2アンダーでまだ圏内につける。雨風が強まるまでにコース・アウトしていたジャスティン・レナードやジャスティン・ローズも、2アンダーでいきなり優勝戦線に絡みだす。さて、優勝するのは誰か。


最終日は、今度は打って変わって風もない絶好のゴルフ日和で、ウッズは昨日が嘘のように6アンダー、65で回るが、時既に遅く、結局通算イーヴン・パーでレギュレイションを終える。いくらなんでもこれが優勝スコアになることはないだろう。それ以外に最終日スコアを伸ばしたのが、ゲイリー・エヴァンス、スティーヴ・エルキントン、スチュアート・アップルビー、トーマス・レヴェイらで、エルキントンは今回は予選から出場しての善戦である。最終的に、エルス、エルキントン、アップルビー、レヴェイが通算6アンダーでレギュレイションを終え、この4人でのプレイオフとなった。


惜しかったのがエヴァンスで、彼は17番パー5で2オンを狙った第2打がフェスキュー草が密生するラフにつかまり、ボールが探せない。ここが全英の全英らしいと言えるところだが、その辺にいたギャラリーが皆一斉にエヴァンスと一緒にボールを探し出す。100人くらいのギャラリーが下を向いて足先で草の間をかき回す様を見るのは、一種異様だ。これが全米だったら、マーシャルが一般のギャラリーはすべてどかしてしまうだろう。だいたい、誰かが間違ってボールを踏んづけてしまって、もっと草の間の奥深くに埋めてしまったら、それこそ一巻の終わりである。エヴァンスもそう思っているから焦って自分が先にボールを探そうと必死になるのだが、結局決められた5分間が過ぎてもボールは探せず、ロスト・ボールになった。エヴァンスは1ペナルティで打ち直した第4打を見事にグリーンに乗せ、60フィートのロング・パットを沈めて、このホール、パーで上がった。エヴァンスは結局、通算5アンダーでレギュレイションを終えたため、ここがバーディだったら彼もプレイオフだったんだが。


それにしても、ロスト・ボールって、PGAでは平常のトーナメントではまずあり得ない。あれだけのマーシャルがコース沿いに立っていてもボールをロストすることがあるというのが全英の面白さであり、怖さでもある。そういえば、マーク・オメアラが優勝したいつぞやの全英でも、ロスト・ボールになりそうなショットがあったなあ。確かあれって、オメアラが諦めてティに戻りかけた時に見つかったんじゃなかったっけ。そのおかげでオメアラは優勝できた。ロスト・ボールは痛いよなあ。


丸山もフロント9を終了時点で6アンダーと、一時はメイジャーで最終日単独トップに立つという大健闘を見せる。結局丸山はこの日3アンダー68で回るものの、最終スコアは5アンダーで、彼もプレイオフにたった1打足りなかった。バック9に入ったところで、連続してボギーを叩いたのが痛かった。しかしよく頑張ったよ。崩れそうに見えると立て直してくるところなんか、PGAで揉まれている成果があるなあという感じだ。今年PGAでもあと1勝くらいしてくれるかもしれない。


しかし、最も劇的だったのがエルスだろう。15番を終えた時点で7アンダーで単独トップ、17番パー5は、ティ・ショットがラフにつかまりさえしなければ、バーディがとれる確率は非常に高い。9割方全英初制覇は固いと、本人も思っただろう。 そう思えた直後の16番パー3でのダブル・ボギーは、まったく勝負の行方をわからなくさせると共に、面白くもしてくれた。エルスは一転して追う立場になったものの、17番で15フィートのパットを沈めて6アンダーとなってまた首位に並び返す。しかし結構首の皮一枚という感じだった。


さて、プレイオフは、1番パー4、16番パー3、17番パー5、18番パー4の4ホールでのストローク・プレイ。まず、くじ引きで最初にエルキントンとレヴェイが先にティ・オフする。4人一緒に回るんじゃないのか。エルキントンはいきなりボギーを叩くが、17番でバーディを奪い返してイーヴンに戻す。しかし18番でまたボギーを叩いてしまう。一方レヴェイは16番で60フィートのバーディ・パットを沈め1アンダーとなり、18番でボギーを叩くもその貯金が効き、通算イーヴンでエルキントンに1打差をつけ、その時点でまずエルキントンが脱落する。


一方エルスとアップルビーは、アップルビーが16番でボギーを叩くが、続く17番でバーディを奪い返す。エルスは1、16、17番とパー・ゴルフを続ける。18番ではアップルビーが第2打をグリーン横のバンカーに入れてしまい、そこからのアップ&ダウンに失敗して1オーヴァーとなり、エルキントンに続いて脱落する。エルスはここもパーで上がり、結局4ホール通算でイーヴンとなったレヴェイとエルスが、131回の全英史上初のサドン・デスとなってまた18番へと向かう。


そこでレヴェイはティ・ショットをポット・バンカーに入れてしまい、アイアンでティ・オフしてフェアウェイをキープしたエルスが断然有利に。しかし先に打ったエルスは第2打を大きく引っかけ、グリーン左のバンカーの、スタンスがろくにとれそうもない難しい位置に入れてしまう。レヴェイの第2打はフェアウェイを100ヤード前進しただけだが、第3打をピンに絡ませることができれば、まだ勝負はわからない。その第3打は無事グリーンに乗るが、それでも30フィートを残す。勝負はエルスのバンカー・ショット次第となった。エルスは、左足がバンカー、右足がバンカーの外で、身体を大きく前傾させるという無理な姿勢から見事なリカヴァリー・ショットを見せ、ピンまで4フィートにつける。一方、レヴェイのパー・パットは、ホールの右をかすめて5フィート行き過ぎてしまう。レヴェイは返しのパットを沈めるが、エルスがパー・パットを決めれば勝ちだ。エルスは慎重にこれを沈め、全英初制覇、2度の全米に続く3度目のメイジャーを手にした。あのバンカー・ショットがすべてだったな。うん、今年の全英は面白かった。







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131回全英オープン

2002年7月18-21日   ★★★★

スコットランド、ガレイン、ミューアフィールド・ゴルフ・リンクス

 
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